日弁連新聞 第440号

会長インタビュー 8月4日
社会的弱者の味方となる

インタビューを受ける宇都宮会長

再投票という日弁連史上初、異例の選挙戦を辿って選出された宇都宮健児会長。会長就任から4か月経過した現在の心境などを伺いました。


(広報室長 浅見雄輔)


- 現在の率直な心境を

再投票という異例の経過で選出されたので、若干不安はありましたが、順調なスタートが切れたと思っています。本当は一息つきたいところですが、11月の給費制維持に向けて全国を巡り、全力で取り組んでいるところです。7月の休みは1日だけ。体力には自信がありますが、現在63歳。2~3週間に1日は休みたいところです。


- 歴代会長と異なり、派閥に所属していません。やりにくいことは

当初は不安がありました。実際、副会長と意見が違うこともありました。しかし、会務執行方針確定のために議論を重ねて行くうちに、お互いに信頼感が生まれ、落ち着くべきところに議論は収束しました。今では、本当に素晴らしい副会長、総次長、職員に恵まれ、支えられていると思っています。


- 当初の意見の違いとは

法科大学院および予備試験の位置付けについて意見が分かれました。最終的には、法科大学院を法曹養成の中核にするということで意見の一致を見ました。


これに対して法曹人口問題は、当初より意見の違いはあまりありませんでした。選挙結果を踏まえた上でしたし、ペースダウンの必要性はもともと大方の認識するところでした。


- 会長として意識されていることは

約2万9000人全会員の代表であるということです。会員一人一人の声を聞き、生活・仕事の状況を掴み、全会員が誇りとやりがいをもって人権活動をできるような環境を作ることを心掛けています。


また、最高裁、検察庁、政府に対して、言うべきことは言わなければならないと思っています。


これまで、消費者・貧困者に関する人権活動に携わって来ましたが、これらの活動は、ほかの分野の人権活動にも共通すると思っています。従って、これまでの活動の延長に会長の活動があると考えています。


- あえて日弁連の悪い所を挙げると

日弁連は、会長がいなくても回って行くような、しっかりとした組織で、官僚機構とも言えます。その反面、改革力が弱く、方向転換が難しいという印象です。


- 弁護士の就職難がもたらす影響について

弁護士は、社会生活上の医師であり、日本の司法制度を支える一翼です。司法制度は、民主主義を支える重要なインフラで、この司法制度が健全に機能してこそ市民の人権が守られるのです。弁護士が市民の人権を守る活動を十全に発揮するには、弁護士自治が必要です。ところが、弁護士が就職難であり、生活の維持さえできないというのであれば、一人一人の会員が弁護士会を支えようという気持ちがなくなり、弁護士自治は維持できず、ひいては、市民の人権を守る上で不幸なことになってしまいます。


貸金業法改正、長期的な冤罪事件の支援などさまざまな制度改革運動、人権活動において、日弁連は決定的に重要な役割を果たしています。弁護士会の入会が任意となれば、こうした活動が弱まるのは必至です。


アメリカでは、貸金業の規制が極めて緩く、州によっては、年利700%も可能となっています。これは、弁護士会への入会が任意な会が多く、弁護士集団の力が弱く、ローン・クレジット会社の力に圧倒されているからではないでしょうか。


- 法曹人口は制限すべきでないという意見について

司法基盤の整備に合わせて増やすべきです。裁判官・検察官の増員、法律扶助の拡大といった司法基盤の整備はなく、弁護士のみ増やしたから需給ギャップが出てきたのです。適正規模を超え、就職できない者が増えると、帰属意識もなくなり、弁護士自治を守れなくなってしまいます。


- あるべき弁護士像は

弁護士は、市民の人権を守ることが基本であり、弁護士の活動の中心は、司法にあるべきだと思います。欧米では、弁護士は、企業の利益のみを代弁する存在であることが少なくないようですが、そのようなあり方はどうなのでしょうか。


企業・官公庁に多くの弁護士が進出することはいいことですが、ビジネス一辺倒となり、人権活動に携わらなくなると、そのうち、なぜ弁護士会に所属しなければならないのか、なぜ弁護士会費を支払わなければならないのかということになり、内在的要因から弁護士自治が危機に瀕することになりかねません。そのとき、さまざまな領域で活動する弁護士を統合する新しい理念を構築することができるのか、今から、十分に検討する必要があります。


- 若手弁護士に対するメッセージを

弁護士法一条の「基本的人権を擁護し、社会正義を実現する」という弁護士の使命はとても重いものです。


就職難など弁護士を巡る環境は変化していますが、市民の人権を守るという大変やりがいのある仕事であることは、今も昔もこの先も変わりません。ぜひとも志をもち、誇りをもって、弁護士法一条の使命を引き継いでほしいと思います。


- 最後に、座右の銘があれば教えてください

座右の銘ではありませんが、色紙などに揮毫する際には、「社会的弱者の味方となる」とよく書きます。また、新島襄の「真理は寒梅の似(ごとし)、敢えて風雪を侵して開く」という詩は、とても好きな言葉です。


人権擁護大会開催! 10月7日・8日 盛岡

10月7日・8日、岩手県盛岡市で、第53回人権擁護大会・シンポジウムが開催される。


7日には次の3つのシンポジウムが行われる。


第1分科会「子どもの貧困」では、演劇「もがれた翼」や日本と海外の取組み状況に関する報告・討論などにより、子どもの貧困をなくすために何が必要かを考える。


第2分科会「デジタル社会における便利さとプライバシー」では、情報通信技術の進展に伴う個人情報の収集などの現状と問題点を明らかにするとともに、「税・社会保障共通番号」制、「国民ID」制などについて検討する。


第3分科会「廃棄物公害の根絶をめざして」では、ビデオレターや報告・討論などにより、あるべき廃棄物政策について考える。


8日の大会では、宣言案・決議案について審議するほか、今年は足利事件や布川事件の冤罪被害者を招き、人権擁護活動の意義をあらためて確認する。


当日参加も大歓迎。多くの会員のご参加をお待ちしている。


(人権擁護大会運営委員会委員長 松本篤周)


ひまわり

今年は残暑が厳しい。交差点では蜃気楼が立ち上り、夜でも外気は30度を超え、毎晩寝不足気味である▼この夏は、国選弁護事件における、いわゆるゼロ接見や、過払金返還請求事件における高額報酬など、寝苦しい話題も多かった。うっかりミスでは弁明にもならないが、ビジネスモデルと言い張るにも限界があるのではないか▼債務整理事件処理の規律を巡っては昨年7月に指針をまとめ、今年3月にそれを改正したばかりというのに、さらに強制力のある規程まで提案されている。営業の自由を侵害するとか、独禁法に違反するといった反対意見も根強い。しかし、本来、依頼者の権利の守り手であるべき弁護士からその依頼者を保護しなければならないとすれば、弁護士の社会的信用は危機的状況にある。自らの手で処置するのが自治団体としての責務ではないか▼今や、海外でも職業としての弁護士は危機的状況といわれている。インターネットの普及により、弁護士の法律知識が陳腐化してしまったとか、不景気と競争激化により、弁護士の失業や破産が急増しているといった話を聞く▼内外ともに弁護士という職業のあり方が揺らいでいるのかもしれない。9月のすっきりした空気の中で少し頭を冷やしてから再度議論してみよう。(S・Y)


第4回 高校生模擬裁判選手権
8月7日 東京・大阪 福岡・香川

東京地方裁判所の法廷で行われた関東大会

酷暑の中、東京、大阪、福岡、香川の4会場で、第4回高校生模擬裁判選手権が開催された。事案は、被告人が酒に酔い、同僚に暴行を加え死に至らしめた傷害致死の案件で、犯人性が問題となるもの。高校生たちは、難しい事案にもかかわらず、数か月に渡る練習の成果を十分に発揮し、白熱した試合を繰り広げた。
高校生による、模造紙での図解を用いた分かりやすいプレゼンテーションや、メモを配布しての冒頭陳述、そして反対尋問での的確なアドリブなどに、審査員からは驚きの声が漏れた。


講評において、関東大会審査員の河原田慎一氏(朝日新聞記者)は、「司法裁判を担当し、毎日、本物の裁判を見ているが、高校生による本番さながらの臨場感溢れる裁判を見せてもらい勉強になった」と述べた。


また、法曹三者の模擬裁判で同一事案を経験したことがあるという布施京子氏(法務省大臣官房司法法制部部付)は、「難しい事案を本当によくまとめてあり、感心した」と語った。さらに、同じく審査員の磯山恭子准教授(静岡大学)は、「高校生の皆さんなりにさまざまな表現を工夫し裁判を意識して市民に訴えようとしている姿に感銘を受けた。今日の経験は、必ず将来何らかのかたちで役に立つはず」と講評した。


参加したのは、全22校。関東大会では、湘南白百合学園高等学校、関西大会では、京都教育大学付属高等学校が優勝し、それぞれ4連覇を成し遂げた。また、九州大会では福岡県立福岡高等学校、四国大会では、高松第一高等学校が優勝した。


関東大会で優勝した湘南白百合学園の学生は「優勝できて嬉しい。今後も、何らかの形で高校生模擬裁判に関わっていきたい」と述べ、準優勝の早稲田大学高等学院の学生は、「8月に入って毎日、夜遅くまで議論したり喧嘩したりしながら頑張ってきた。結果が出せて嬉しい」と語った。惜しくも優勝を逃した学生たちからも「仲間と一つのことに取り組むことができ、楽しかった」「いい経験となった」「ぜひ、来年も出たい」などの感想が聞かれた。


給費制存続を求める市民集会
熱く 全国展開中!

パリ弁護士会のジャン・カストゥラン会長(右)と宮崎誠前会長

「暑い夏に汗をかき、その実を秋に収穫しよう」を合い言葉に、司法修習費用の給費制存続を求める市民集会が、酷暑の中、全国で展開されている。


7月24日は静岡。参加者は約200人。法科大学院生、訴訟などの事件当事者、労働団体、市民団体などからの賛同、応援のメッセージが多数披露された。また、国会議員本人が2人出席し、6人の議員がメッセージを寄せた。集会終了後はうちわを沿道の市民に配布しながらのパレード。宇都宮会長を先頭に約100人が参加した。


29日は埼玉。参加者は約120人。この集会にも2人の国会議員本人が参加。若手弁護士による寸劇の後、労働、消費者、貧困、オンブズマンなど各界からの賛同、応援のメッセージと埼玉の法科大学院生からの現場の声が寄せられた。


31日は福岡。参加者はこれまでの集会で最多の約500人。市民・弁護士共演の寸劇、薬害・環境訴訟原告本人、医師会副会長らによる熱い応援のリレートーク、佐木隆三氏(作家)と宇都宮会長、上田國廣会員(福岡県・九州大学法科大学院教授)との鼎談と続き、最後に6人の国会議員からのメッセージが披露された。集会終了後は約300人による繁華街天神を行進するパレードが行われた。


8月6日は山梨、和歌山、佐賀、7日は兵庫と連続で集会が開催された。それぞれ約80~150人の参加者のもと、寸劇やビデオ、対談など工夫を凝らした企画により給費制廃止の問題点が指摘され、多様な分野の市民や団体から賛同、応援のメッセージが寄せられた。また、どの集会でも多数の国会議員、議員秘書の出席またはメッセージがあった。


これらの集会により、潮目が変わりつつあると感じている。不可能と思われていた給費制維持という「実」をこの秋に収穫したい。


(司法修習費用給費制維持緊急対策本部事務局長 釜井英法)


多重債務者対応策を考える
第13回多重債務相談に関する全国協議会
7月17日 弁護士会館

前半は、鈴木田幸治氏(警察庁生活経済対策管理官付補佐)からヤミ金融対策の現状と課題の基調報告があった。ヤミ金融事犯は、検挙人員は減少傾向にあるものの、検挙件数は400件台で推移し、依然高水準にある。ヤミ金融は国民生活の安全を脅かす重要な問題と認識し、特に貸金業法改正によってヤミ金融被害の増加を懸念する声があることから、警察では引き続き、ヤミ金融に対する取締り強化を推進している。また、ヤミ金融の三種の神器といわれている振込口座、携帯電話、債務者名簿のうち、特に振込口座、携帯電話については貸付条件や返済免除としてヤミ金融から要求され提供するケースが後を絶たないことから、警察は、口座凍結依頼、携帯電話契約者確認の求めを積極的に実施し、ヤミ金融の犯行ツール対策を推進しているとの報告があった。


その後、取引経過の開示、残元本の確定、残元本のみを対象とする弁済案の提示という任意整理に関する全国統一基準の説明があった。


近年、利息を付して弁済を求める強硬業者が増加しているが、これに対しては、破産申立の際に強硬業者の存在により任意整理が頓挫したと説明する、他社とは任意整理を行った上で特定調停を活用する。提訴された場合には、統一基準に従わないことが違法であるとして、不法行為に基づく損害賠償請求で相殺する、過剰貸付であり、請求は権利の濫用であると主張する、与信審査に過失があるとして過失相殺を主張するといった対応策があるとのことであった。


後半は、債務整理事件処理の目的が債務者の経済的更生にあることに鑑み、低所得者向けのセーフティネット貸付の利用をサポートする体制の必要性、相談体制の整備、広報の必要性について活発な議論がされた。


新事務次長紹介

8月31日をもって、柳志郎事務次長(第二東京)が退任し、後任には、9月1日付で市毛由美子会員(第二東京)が就任した。


市毛由美子会員

市毛由美子(いちげゆみこ)(第二東京・41期)
弁護士に対する市民の信頼と期待に応え、社会の隅々まで法の支配が行き渡るよう尽力する所存です。宜しくご指導のほどお願いいたします。


ハーグ条約の実務に関するセミナー
7月20日 弁護士会館 7月21日 外務省

2日間にわたり行われたセミナーには、多くの参加者が集まった

2日間にわたり、「ハーグ条約と日本の子の監護に関する実務」と題するセミナーが開催された。


ハーグ条約の正式名称は「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」である。条約の締約国(A国)から、他の締約国(B国)へ、子の監護権を侵害して連れ去りまたは留置がなされた場合、残された親は、A国の中央当局に子の返還を求める申立ができ、一定の要件のもとでB国は、子の返還を命じなければならない。同条約は1980年に採択され、現在82か国が締約国となっている。日本は締結しておらず、現在、同条約の締結の是非について、政府内で検討が進められ、また、国内でもさまざまな議論がなされている。


今回のセミナーには、すでに同条約に基づく実務の蓄積がある国々の裁判官、弁護士などの法律実務家やハーグ国際私法会議の事務局の方に参加いただいた。セミナーでは、条約の目的や仕組み・運用についての説明があり、子の監護・引渡しに関する日本の法制度や実務との違い、子どもの人権やDVからの女性の保護など、さまざまな角度から、活発な意見交換が行われた。


日本の同条約の批准については、賛否両論あるが、セミナーでは、条約の趣旨目的や構造、運用や具体的な実務について学び、日本が批准するとした場合の問題点や懸念を明らかにする上で、有意義な議論が行われた。


セミナーの内容は、「自由と正義」11月号の特集やオンデマンド配信を通じて、会員に報告する予定である。本セミナーを企画運営したハーグ条約に関するワーキンググループでは、今回のセミナーで得た貴重な情報や課題を整理し、同条約に関する議論をさらに深めていきたいと考えている。


(ハーグ条約に関するワーキンググループ幹事 藤原家康)


日弁連夏期研修(関東地区)

会社分割の利用法と実務上の問題点

多くの受講者が耳を傾けた
7月27日 弁護士会館

会社法の立案などに携わった郡谷大輔会員(第一東京・元法務省民事局付)を講師として、会社分割を利用する場合の留意点などについて研修が行われた。


まず、「会社分割」は、会社が有する権利義務の全部または一部を他の会社に承継させる行為であり包括承継と言われているが、合併や相続などの包括承継とは異なることや、会社分割の無効は訴えによってしか主張できず、提訴権者や提訴期間も限定されていることに注意が必要なことなど、会社分割を検討する際のポイントについてわかりやすい説明があった。


続いて、会社分割手続についての解説があり、金融商品取引法上、有価証券届出書を提出する必要がある場合や、債権者異議手続の対象となる債権者が限られることなどの指摘があった。


また、事業譲渡と比較すると、債権者異議手続の要否、効力の争い方、事前・事後備置書面の備え置きなどに違いがあるとのことであった。


さらに、会社分割による各種権利義務の承継について、指名債権や不動産などの移転には、対抗要件を具備しておくことが必要であることなどの注意点についての解説があった。


取締役の責任

7月27日 弁護士会館

最近、株主代表訴訟において、取締役が敗訴する判決が目立っている。このような状況を踏まえて、取締役の責任についていかにアドバイスを行うかという観点から、土岐敦司会員(第一東京)が講演を行った。


まず、会社法では任務懈怠責任を原則とし、無過失責任の範囲を限定したものの、決議に反対の場合は議事録に異議をとどめておくことが重要であるとの指摘があった。また、取締役の責任は、総会特別決議、定款、責任限定契約によって限定されるとはいえ、最低限度額(施規113条)は免除されない点も注意する必要がある。


株主代表訴訟に対しては、予防的には専門家の意見書の作成、会社役員賠償責任保険(D&O保険)の活用が重要であること、事後的には担保提供の申立も一つの手段であるとのことであった。さらに、株式会社アパマンショップホールディングス株主代表訴訟事件を題材に、経営判断の法則とは、前提事実の認識と意思決定の過程に誤りがない場合には、違法とはならないことであって、後者の意思決定をするにあたっては、具体的に定量的な分析をすることが不可欠であるとの指摘があった。


最後に、贈収賄罪などの取締役に刑罰を科される場合につき説明があった。


なお、この夏期研修の講演は、「現代法律実務の諸問題」(第一法規)として来年、発行される予定である。


三極会議 7月9・10日 スペイン トレド

フェルナンデスCCBE会長(左)に記念品を贈る高木副会長日弁連、欧州弁護士会評議会(CCBE)および中華全国律師協会(ACLA)の三者による三極会議が行われた。三極会議は、2005年から毎年行われている恒例行事であり、今年度は、CCBEがホストとなって、若手法曹支援、弁護士の独立性、弁護士の国外業務を含む5つのテーマにつき、広く意見交換を行った。若手法曹支援は、日弁連が提案したテーマであり、冒頭、高木光春副会長による若手法曹の現状の説明や、日弁連の取組みの紹介が行われた。これに対し、CCBEやACLAからは、若手法曹がLLMを取得するための留学や海外事務所勤務などの海外研修について、弁護士会を挙げての画期的な取組みが紹介された。中国では、単に法律事務所同士の協定に基づく研修にとどまらず、弁護士会が媒介となり、政府の関与を伴う国家プロジェクトとしての海外研修も行われており、国際競争力の習得を重視する中国の強い姿勢が窺われた。

その他のテーマに関しては、企業内弁護士に秘匿特権が認められるか否か、金融危機が弁護士にもたらした影響など、三者で共通の問題意識について意見交換を行った。さらに、非弁護士による法律事務所の所有や法律業務の国外へのアウトソーシングなど、欧州独特の議論や事案も紹介され、弁護士の独立性や弁護士倫理という観点から、日本との大きな価値観の相違を実感した。短時間ではあったが、各地域の特殊性・問題について幅広く議論を交わし、今後の弁護士および弁護士会のあり方を考えるにあたって、非常に有意義な意見交換の場となった。


(国際室嘱託 森本周子)


労働審判制度5年目記念シンポジウム
労働審判制度の成果・課題・展望 7月24日 弁護士会館

5年目に入った労働審判制度の実績や運用の問題点などを検討し、今後の課題を明らかにするためのシンポジウムが開催された。


まず、早田尚貴判事(東京地裁)から「労働審判制度4年間の実績」というテーマで報告があった。労働審判手続の年間利用数は、施行前は1500件程度を予測していたが、2009年度は3468件であったこと、労働審判手続のうち8割が紛争解決に至っていること、双方に代理人がいる場合は解決率が高くなること、労働審判員を確保するための社会的仕組みを作る必要があることなどが紹介された。


次に、水口洋介会員(第二東京)が「労働審判制度アンケート調査結果・各地の運用状況から見る今後の課題」というテーマで報告を行った。報告では、アンケート結果から労働審判手続に対する満足度は高く、理由として早期解決と判定機能をあげたものが多かったこと、労働審判員用の書証の提出を認めるか否かについては、各地で運用が異なることなどを紹介した。


続いて、「労働審判制度の実情と課題を探る」をテーマにして、菅野和夫名誉教授(東京大学)をコーディネーターに迎え、渡邉弘判事(東京地裁)、石澤正通氏(労働審判員)、村上陽子氏(労働審判員)、石嵜信憲会員(第一東京)、鵜飼良昭会員(横浜)をパネリストとして議論を行った。この中で、第1回期日に争点整理や心証形成がされるので重要であるとの指摘、裁判所からすると複数人併合申立は避けてほしいとの意見、労働審判書の理由をもう少し具体的にしてほしいとの意見、労働審判制度は、今後もその判定機能から労働紛争解決手段の中核となると考えられ、関係諸団体などが協力して発展させていく必要があるとの指摘などがあった。


第21回アジア弁護士会会長会議
7月27・28日 マレーシア クアラルンプール

「弁護士権限の危機」セッションにてプレゼンテーションを行う宇都宮会長

経済発展著しいマレーシアを反映して、「企業統治と取締役の責任」「金融商品の誤販売」などのセッションが設けられ、「イスラム金融とマレーシアの役割」「マレーシアのサービス部門への投資」の両講演も盛り込まれた。新首都プトラジャヤにも案内され、同国最高裁長官より、裁判官の拡充や審理期間の短縮に取り組む「マレーシアの司法改革」についての説明を受けた。


日弁連は、「弁護士権限の危機」セッションにてゲートキーパー問題を取り上げ、宇都宮会長自らプレゼンテーションを行った。金融活動作業部会(FATF)による「40の勧告」の改訂(2003年6月)、その直後からの依頼者密告義務法制化の動きと日弁連による徹底した反対運動、そして犯罪収益移転防止法からの弁護士ら5士業の除外と日弁連会規「依頼者の身元確認及び記録保存等に関する規程」の制定(2007年3月)、といった経緯について詳細に紹介し、世界的な立法化の潮流に抗すべく、アジア各国の弁護士会に共闘を呼びかけた。この問題では世界が二分されている中、日弁連のプレゼンテーションに対して4か国の各代表より賛意が伝えられたほか、既に法制化された国からも、実際には報告が全くなされていない実情が紹介された。日弁連は人権擁護のため、時に国際機関や政府と対峙することも辞さないこと、そしてこれこそ日弁連が信じる弁護士会のあり方であることを、アジア各国にアピールすることができた。


(国際室嘱託 大川秀史)


JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.47

入国者収容所について

退去強制決定をされた外国人について、その収容施設の状況や、弁護士としてどのような関わり方ができるのか、十分には知られていません。そこで、今回は、入国者収容所の東日本入国管理センター次長の清水洋樹氏と入管手続の問題などに携わる鈴木雅子会員(第一東京)にお話を伺いました。


(広報室嘱託 葭葉裕子)


東日本入国管理センター

東日本入国管理センターは、JR牛久駅からタクシーで20分。バスもあるが本数は少ない
被収容者の特徴は

茨城県牛久市にある「東日本入国管理センター」は、退去強制決定はされたが、難民認定申請中や裁判中などの理由から、直ちに送還とはならない外国人を収容する施設である。同様の施設は、全国にほかに2か所(西日本入国管理センターと大村入国管理センター)ある。


本センターの収容定員数は700人。2010年4月末時点の被収容者は400人、うち難民認定申請中が180人、2年以上の被収容者が8人であった。


被収容者の国籍で一番多いのは、中国、次にフィリピン、スリランカと続く。男女比は、男性5に対し女性1の割合である。


被収容者の生活は

難民認定申請中の被収容者も、退去強制決定を受けている点でほかの被収容者と同じであるとして区別はせず、同じ部屋で過ごす。


被収容者の部屋は、個室と大部屋があり、大部屋は5人から10人部屋である。畳部屋が多く、寝るときは、毛布を敷布団と掛布団にする。冷暖房は完備されており、食事は各部屋でとる。


被収容者の1日は、午前7時に起床、午前8時に朝食、午前9時30分から午前11時30分まで開放時間(自由時間)、その後各部屋に戻り昼食、午後1時から午後4時30分まで開放時間(自由時間)、午後4時30分に各部屋に戻り夕食、その後は部屋で過ごし、午後10時就寝。


開放時間(自由時間)の5時間30分は、部屋を出て各ブロックのホールで電話や、シャワーを浴びたり洗濯などをして過ごす。


被収容者から多い要望は

まず、仮放免をしてほしいという要望が多い。仮放免は、放免すべき相当な理由、身元保証人、300万円以内の保証金などが必要であり、所長が個別に判断する。2009年は、仮放免申請者が548人であり、うち認められたのは208人であった。


食事や診療に関する要望も多い。診療室に訪れる人も多く、医師は、平日1人が常駐し、歯科医は週1回来訪する。


なお、被収容者が入国者収容所等視察委員会に自由に意見を提出できる「提案箱」がホールに設置され、そのアナウンスを各国語で掲示するなどしている。


鈴木雅子会員(第一東京・51期)

「弁護士として助けを求める外国人にも手をさしのべてほしい」と語る鈴木会員
入管手続の問題などに携わるようになったきっかけは

大学生のときにサークル活動などを通じて外国人の人権に関心を持つようになり、弁護士登録後すぐに、修習時代からかかわっていた、在日ビルマ難民申請弁護団に加わった。これをきっかけに、入管手続に関する事件や外国人が当事者となっている事件を広く手がけるようになった。


入国・在留手続、退去強制手続、難民認定手続などの各手続において、弁護士が必要とされる場面は多い。


難民認定における問題とは

在留資格などは、一般に行政裁量があるが、難民の受け入れについては、日本では条約上の義務となっており、本来行政裁量はないはずである。近年改善はされてきているが、それでも本来保護されるべき難民が、難民として認定されていない場合も多い。


また、難民申請者を受け入れる施設が入管施設しかないなどの問題もある。


収容に関する問題とは

入管当局は、退去強制事由があると疑うに足りる相当な理由がある場合には、全て収容するという全件収容主義を採用しているが、収容の必要がある場合のみ収容する扱いとすべきと思う。また、収容から開放する制度として仮放免制度があるが、その判断は行政裁量である。収容が長期となっている人も少なからずおり、人権が十分に守られていないと感じている。


近時、処遇の透明性を確保するための入国者収容所等視察委員会が設置されるなど改善も一部見られるが、さらなる透明性が必要である。


在留に関する問題の本質は

両親に在留資格がないが、子どもは日本語を母国語として育っている事案において、家族離散が生じるなどの問題が起きている。


問題の本質は、日本が外国人をどのように受け入れるのかについて、その政策の検討が十分でないところにあると思う。


あなたのまちに弁護士を ~過疎・偏在の現場から~

対馬ひまわり基金法律事務所

「地元九州の人の役に立ちたい」と語る井口会員

対馬空港に降り立つと、韓国語が目に飛び込んできます。島内の至る所にも韓国語の表示があります。対馬ひまわり基金法律事務所は、そんな「国境の島」にあります。福岡あるいは長崎で飛行機を乗り継いで約30分、対馬空港から車で約20分。今回は、井口夏貴会員(長崎県・61期)にお話しを伺いました。


(広報室嘱託 柴田亮子)


都市型公設事務所勤務から

井口会員は、2008年9月に九弁連が設立した福岡の弁護士法人あさかぜ基金法律事務所の第1期生としての勤務を経て、2009年10月から対馬ひまわり基金法律事務所に赴任した。


井口会員は、福岡県出身であり、そもそも弁護士を目指すきっかけは、地元九州の人の役に立ちたいという熱い想いであったという。その一貫した想いから、対馬ひまわりへの勤務となった。


クレサラ事件が半分以上

近年、対馬の経済状況の悪化から、債務整理案件が多い。船のローンの支払ができないという相談は、漁業従事者の多い対馬ならではかもしれない。


その他の事件としては、相続とならび、相隣関係が目につく。対馬は、その9割近くが山林であり、平地が少ないことから、島民の土地に対する思い入れが強いのかもしれないとの話があった。


1人事務所の悩み

対馬ひまわりは、現在弁護士が1人であり、身近に相談相手がいないのが悩みとのこと。ただし、これについてはメーリングリストの活用などで対応可能で、むしろ、本で丁寧に調べたりすることが、弁護士として大きくステップアップすることに繋がり、また事件解決後の充実感も大きいようだ。


2005年の対馬ひまわり開設以降、2009年1月、法テラス対馬が近くに設立され、現在では島内に弁護士2人となっている。


隣の弁護士さん

対馬では、タクシーの運転手さんも、対馬ひまわりを知っていて、「あそこの事務所、半年くらい前に先生変わったでしょ。今は男性だよね」と話すほど、弁護士が身近な島で、地域に密着した活動ができている。


今後の抱負

今後は、地元九州の中小企業の経営者のために、企業経営者の法律相談などにも積極的に取り組みたいという井口会員。時間を捻出して、事業承継の本を読みたい、釣りもしたいと楽しそうに語る井口会員が印象的だった。


ブックセンターベストセラー(2010年7月・六法、手帳は除く) 
協力:弁護士会館ブックセンター

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訴訟に勝つ実践的文章術 スティーブン・D・スターク 著/小倉京子 訳 日本評論社
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法律家のためのWEBマーケティングマニュアル ~弁護士・司法書士・行政書士がホームページで失敗しないための成功法則~ 出口恭平・真貝大介・黒田 泰・高山奨史 他 著 第一法規出版
季刊 刑事弁護No.63 特集 ビギナーズ医療観察法   現代人文社
10 破産申立マニュアル 東京弁護士会倒産法部会 編 商事法務

編集後記

労働審判制度が始まって5年目に入りました。
現在、当初の予測をはるかに超えた多くの方に利用されるようになっています。その理由として、雇用情勢の悪化もありますが、労働審判制度そのものが、有用な紛争解決手段として、広く知られるようになったことが考えられるとのことです(3面記事参照)。
この労働審判制度への信頼には、労働審判員の存在が大きいと思います。労働審判員は、労働関係の専門的知識経験を有する者として、労使それぞれの立場で経験を積んだ市民が任命されています。裁判官だけではなく、市民である労働審判員が加わることで、労働現場の常識とかけ離れることのない判断がされるとの信頼感を生じさせているのではないでしょうか。
この労働審判制度の定着、発展から学ぶことは多く、市民が司法に参加することの重要性をあらためて感じました。(H・Y)