2019年度会務執行方針

はじめに

世界では、自国第一主義を標榜する国の存在が目に付くようになり、社会の不満がポピュリズムを助長し、民主主義が深刻な脅威にさらされていると言われています。日本がこうした風潮に流されることのないようにしなければなりません。私たち弁護士集団は、司法の担い手という視線から、公正な法の支配の実現を目指していかなければなりません。


2018年度の会務執行の成果を踏まえて更にこれを充実・拡充させていく決意です。


2018年度は、多くの重要テーマについて熟議の末、理事会で基本方針を確認しました。2019年度はこの基本方針に沿って詳細を詰め、実践していかなければなりません。「各論の方が大変」とはよく言われますが、正に仕上げの年にしたいと考えます。


民事司法改革については、政府の「経済財政運営と改革の基本方針2018」(いわゆる「骨太の方針2018」)に「民事司法制度改革を政府を挙げて推進する」と盛り込まれたことを受けて、内閣官房の下に、法務省の協力を得て、民事司法制度改革に向けた諸課題を検討する組織を置くことを軸に骨格が固まってきました。日弁連においても、理事会において政府内に組織を設置し、その下で諸課題を検討する働きかけを行うこと等についての方針が承認されました。法曹三者の連携の下に、司法予算の拡充を含め、長年の諸々の課題に取り組みます。


2018年度に策定した「えん罪を防止するための刑事司法改革グランドデザイン」をバックボーンに、改正刑訴法施行後3年後見直しに向けた取組を推し進めるとともに、諸外国の制度にも目を配りながら、取調べへの弁護人立会権の確立や再審における証拠開示などの更なる刑事司法改革に鋭意取り組みます。また、死刑制度については、2018年度は15人の死刑執行が相次ぎ、EUを始め国際社会から大きな批判がなされました。理事会では、死刑の代替刑として、仮釈放のない終身刑制度を原則として、例外的に一定の時間の経過に加えて本人の更生が進んだときには、恩赦の適用とともに、主として裁判所の新たな判断により無期刑への減刑などを可能とする制度を併せて採用すべきであるという基本的方向性を確認しました。その詳細を詰めるとともに、世論に働きかけを強め、京都で第14回国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)が開催される2020年に向けて死刑制度の廃止を目指します。


法科大学院改革については、政府は、法学部に法曹コースを設置し、法学部と法科大学院を連携させて教育の充実を図りつつ、法学部3年での早期卒業・飛び入学の拡充と、法曹コースと法科大学院を接続する、いわゆる3プラス2構想に加えて、法科大学院在学中の司法試験受験を認め、法科大学院修了を条件に司法研修所への入所を認めるという法案を国会に提出しました。理事会では事前にかかる案への対応に関する基本方針を承認しており、併せて日弁連及び法科大学院の関係者を交えた会議体を設置し、司法試験の在り方等について議論することを求めています。


憲法改正問題については、その是非について各弁護士会で議論がなされていますが、多くの弁護士会では、市民を交えての改正案の課題分析・説明をして議論の深化を求めています。この方向性は2018年度の定期総会決議に沿った動きであり、理事会でも議論を行ってきました。今後とも政治情勢を踏まえながら、慎重に対処していきます。なお、憲法改正手続法の問題点のうち、殊に有料広告放送の在り方について、放送事業者の自主的な規制を尊重した上で、法的規制の必要性を検討し、必要性を認めるときには改正を求める意見書を採択しました。


民事裁判のIT化は、法曹三者等でその実用化に向けて検討が進んでいます。2018年度初め頃の弁護士会及び関連委員会宛ての意見照会では、多くの懸念が寄せられています。その後の検討経過を理事会で適宜正確に報告し、懸念とされた論点を議論しながら、より良い制度設計を目指していきます。国際的にも大幅に遅れているとされる民事裁判手続のIT化に鋭意取り組み、司法の活力を持続させなければなりません。国際展開についても早急な対応が迫られています。2019年度末を目標に、長年の課題であった東京に国際仲裁・調停の審問施設を開設することを目指して取組を進めています。仲裁法の改正、外国法事務弁護士等の国際仲裁に関する代理の範囲の拡大などの法整備が急務であり、また、官民挙げての国際仲裁・調停に関する企業等へのPR活動も必要です。中小企業の海外展開の活発化も、今後の活動領域拡大の大きなポイントです。


子どもの虐待事件が相次いでおり、これらの痛ましい事件に関する報道では弁護士・弁護士会の更なる努力が求められているようにも聞こえてなりません。子どもの人権は、日弁連の人権擁護活動の中でも最も注力している課題の一つであるところ、児童相談所は現場で生じる事件に十分機動的に対処できていないのではないかとの批判もあり、これにどう応えるか。児童相談所への弁護士配置をどう推進し、児童相談所のマンパワーの限界をどう乗り越えていくのか、弁護士・弁護士会は、社会が直面するこれらの試練に立ち向かわなければなりません。また、スクールロイヤーの在り方と取組を確定していかなければなりません。政府は、少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げる方向で検討していますが、日弁連はかねてより反対しており、運動を強めていきます。


FATFの第4次対日相互審査への対応について、96.8%の会員から年次報告書が提出されたのは、改めて会員の弁護士自治に対する意識の高さを実感するところです。2019年4月から6月にかけての2回目の年次報告書の提出については、本人特定事項の確認義務及び記録の保存義務等の履行状況が更に向上していることが求められています。


重要課題はこの他にも山積しています。弁護士職務基本規程の改正や不祥事対策、殊に弁護士後見人の横領事案に対処すべく、理事会で確認された方針に従い、第三者機関を保証人とする保証機関型信用保険の全国的導入を目指し、その実現に向けた具体的取組を推進します。


2019年2月の理事会の拡大理事懇談会では、司法試験合格者が3年連続で1500人台となったことを受けて、法曹人口の検証をテーマとした議論をしました。2016年3月の臨時総会決議を受け、今後の検証すべきファクターについて、様々な角度から貴重な意見が寄せられました。検証方法・検証の在り方を含め、継続的に議論をしていきます。


谷間世代に対する国による支援については引き続き粘り強く訴えていきます。弁護士費用保険の拡充などによる積極的な業務拡大も急務です。人権擁護大会のテーマでもある個人通報制度及び政府から独立した国内人権機関の創設や各種人権擁護活動を「人権のための行動宣言」に沿って一層の活動の拡充を図ります。災害対策についても緊張感を持って臨みます。


以上、執行部一丸となって課題克服のために全力を尽くす所存です。


第1 平和と人権 

1 憲法の基本理念・原理を守る

(1) 憲法改正問題の取組

立憲主義と憲法第9条の恒久平和主義を含む日本国憲法の基本理念・原理を堅持する立場から、憲法審査会等の議論の進展を踏まえつつ憲法改正問題に取り組みます。国会では具体的な憲法改正案の議論の前に、憲法改正手続法の改正案が審議される可能性があります。テレビの有料広告には多額の費用がかかることや広告代理店の寡占の問題が指摘されており、憲法改正案に対する賛成意見及び反対意見の公平性を確保するために、放送の自由の観点から放送事業者の自主的な規律を尊重した上で、テレビの有料広告放送の法的規制の必要性を検討し、必要性を認めるときには憲法改正手続法を改正すべきとの立場で活動をします。憲法改正手続法には最低投票率等の多数の問題点があり、引き続きこれらの整備を訴えていきます。憲法改正案が国会等で審議される状況が見えてきた場合には、国民の間で憲法への理解が深まることを目指して改正案の課題や問題を明らかにしていきます。


(2) 特定秘密保護法の抜本的見直しと報道・表現の自由

特定秘密保護法については、国民の知る権利に重大な制約を加えるおそれがあることから、引き続き、その廃止を含めた抜本的見直しに向けた取組を進めます。併せて、同法の運用状況を厳しく監視します。また、報道・表現の自由を守る活動を続けるとともに、情報自由基本法の制定を求めます。


(3) いわゆる共謀罪法の廃止

2017年、いわゆる共謀罪の創設を含む改正組織的犯罪処罰法が成立しました。日弁連は、共謀罪の創設は市民の人権や自由を侵害するおそれが強いものとして、本法律の成立に一貫して反対してきました。今後は、本法律が恣意的に運用されることがないように厳しく本法律の適用状況を注視し、全国の弁護士会とともに、本法律の廃止へ向けた取組を行っていきます。


 

2 人権擁護活動の実践

(1) 国際基準による人権保障

我が国は、自由権規約委員会等の国際人権条約機関から、長年にわたり、個人通報制度の導入や国内人権機関の設置を勧告されています。実際、経済先進国G7は日本を除き個人通報制度を導入し、また多くの国が政府から独立した国内人権機関を設置しており、我が国は国際水準による人権保障がなされているとは言い難い状況です。これらの実現に向けて、引き続き取組を進めます。


なお、2019年10月の人権擁護大会では「今こそ、国際水準の人権保障システムを日本に!~個人通報制度と国内人権機関の実現を目指して~」と題したシンポジウムを開催予定です。

 

(2) 個人情報の保護と報道による人権侵害

公権力などによる違法・不当な個人情報の収集・利用が行われないよう、個人情報保護法の改正を求めるほか、マイナンバー制度の運用状況等を厳しく監視・検証し、必要な改善提言をしていきます。特に近時問題となっている企業が保有するビッグデータの取扱いやそれに対する行政規制について注視しつつ、適宜提言等を行っていきます。
報道される人の名誉・プライバシーを守り、報道による人権侵害を救済するための取組を継続します。

 

(3) 高齢者・障がいのある人の権利

高齢者や障がいのある人が「人」として尊重され、安心して自分らしい生き方を選択できるよう、専門家として積極的に各種の制度構築と運用改善に努めます。特に、成年後見制度については、本人の意思や身上に配慮した運用の充実、中核機関の設置・運営に対する支援、利用促進のための運用改善に努め、併せて、弁護士後見人による不祥事の根絶に向けた取組を継続するとともに、不祥事が発生した場合の被害賠償を担保する、第三者機関を保証人とした保証機関型信用保険制度の全国的導入を目指し、その実現に向けた具体的取組を推進します。また、行政を含む福祉関係者との連携を構築し、「ホームロイヤー制度(家庭弁護士・かかりつけ弁護士)」の普及等に努めます。そして、精神保健の分野においても、入院者の権利擁護のための適切な退院請求・処遇改善請求に向けた取組を強化します。

 

(4) 子どもの権利

児童虐待防止のための取組を強め、全国の児童相談所に弁護士の配置等がなされるよう態勢を構築します。

さらに、子どもの権利基本法の制定を目指し、いじめや体罰等の根絶のための取組、無戸籍解消のための取組、「スクールロイヤー制度」の整備を求める取組を強め、子どもの手続代理人の費用が公費から支出されることを求めます。

少年法の適用年齢については、少年の立ち直りや再犯防止に有効であるかという観点などから判断されるべきであり、その引下げに反対します。国選付添人制度については、身体拘束事件全件への対象拡大の実現を目指します。

 

(5) 両性の平等と女性の権利・性の多様性と平等の保障

公平な社会を実現するために、個人の尊重、男女の平等の見地から、あらゆる分野での両性の実質的な平等を図り、女性の地位・権利を確立するための取組を継続します。選択的夫婦別姓制度の導入、再婚禁止期間の廃止等、女性を差別する民法の規定の改正を求めます。

また、いわゆるLGBTなど性的少数者に対する偏見・差別を無くし、性の多様性を尊重し、個人の尊厳を確保するための活動にも取り組みます。

 

(6) 外国人の権利

2018年10月の人権擁護大会では、「新しい外国人労働者受入れ制度を確立し、外国にルーツを持つ人々と共生する社会を構築することを求める宣言」を採択し、外国にルーツを持つ全ての人々の人権保障のために、国や地方自治体に対し、施策の立案、実施、そのための体制整備を行うことを提言しました。

同じ頃、臨時国会において出入国管理及び難民認定法(入管法)改正案が議論され、同年12月に可決されました。これにより14の業種につき一定の専門性・技能を有する外国人を受け入れることが可能になり、外国人労働者の増加が見込まれます。そこで、上記宣言の趣旨に従い、外国人労働者を法的に支援するための体制の整備に取り組みます。

 

(7) 消費者の権利

消費者の権利を確立・充実させるため、消費者基本計画への適時適切な対応、消費者契約法の改正、消費者教育の推進、地方消費者行政の強化などの課題に取り組みます。また、民法の成年年齢引下げについては、引下げによって生じる消費者被害防止のための保護施策の拡充を提言していきます。
さらに、いわゆるカジノ解禁実施法の廃止に向けて取り組むとともに、ギャンブル依存症の対策にも取り組みます。

 

(8) 労働者の権利

迅速な労働紛争解決のために有益な役割を果たしている労働審判制度がより効果的に機能するための方策を検討し、労働審判制度に適した事案の解決手段として同制度を選択してもらうための取組を進めます。また、外国人も含め労働問題に悩む労働者の救済策の充実にも取り組みます。さらに、幅広い世代の各段階に応じたワークルール教育を推進する法律の制定を支援する諸活動を推進するとともに、現在も行われているワークルール教育の教材作成、教育の担い手の供給、学校関係者その他の教育実施主体との緊密な連携等を継続していきます。

 

(9) 貧困問題の取組

生活保護基準の引下げや非正規従業員の増加、低賃金などによる貧困層の拡大等によって、社会的弱者へのしわ寄せが深刻です。
2019年2月に公表した「生活保護法改正要綱案(改訂版)」に基づく法改正を求めるとともに、いわゆる水際作戦の防止など運用改善に取り組みます。
また、最低賃金の迅速かつ大幅な引上げを求めていきます。
さらに、2018年の人権擁護大会決議を踏まえ、一人ひとりの若者が自分の人生や生き方を自己決定できる機会を保障し、若者が希望を持って今を生き、自由な再チャレンジが保障されることで未来にも明るい希望を抱ける社会の実現に向けて取り組みます。

 

(10) 犯罪被害者の人権

各地で設置されている性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの更なる充実を求め、各自治体・相談センターの取組に関する情報収集、情報提供、協力、支援等を行うとともに、政府に対し財政的な支援や基盤の整備を求めます。また、犯罪被害者を総合的に支援するための被害者庁の創設等、将来にわたる一元的・継続的な被害者支援態勢の在り方について検討していきます。さらに、犯罪被害者法律援助事業の国費化に向けた取組も一層強めます。

 

(11) 民事介入暴力の根絶

暴力団対策法を始めとする法律、条例や制度を利用し、あるいは違法収益などの剥奪等に関して新たな制度を提言するなどして、市民や企業、行政に対する暴力団等による被害の防止、救済を図るとともに、潜在化、匿名化、不透明化する暴力団等の活動の排除に取り組みます。

 

(12) 死刑制度廃止と刑罰制度改革の実現に向けての取組

2016年の人権擁護大会宣言(福井宣言)が唱える2020年までの死刑制度の廃止に向けて、2019年度は正念場の年となります。犯罪被害者・家族・遺族の方々の心情と置かれた実情に配慮しつつ、「死刑廃止及び関連する刑罰制度改革実現本部」を中心に,人の生命の尊さや誤判・えん罪の可能性などから、死刑制度が廃止されるべきであることを、引き続き市民やマスコミに訴えていきます。会員勉強会や市民集会、シンポジウムを開催する弁護士会が増え、死刑制度廃止を決議する弁護士会も出てきており、これらの取組を促進します。福井宣言を踏まえて、代替刑については、2019年1月の理事会で仮釈放の可能性のない終身刑(ただし主として裁判所の新たな判断による無期刑への減刑などを可能とする)制度を導入すべきであるとする基本的方向性を確認したので、これに基づき具体的な要件を検討します。その他、2018年12月には超党派の議員連盟「日本の死刑制度の今後を考える議員の会」が発足しました。今後、様々な形で世論に対し、死刑制度廃止の働きかけを強めていきます。

 

(13) 罪に問われた高齢者・知的障がいのある人の支援

高齢者・知的障がいのある人の刑事弁護において、社会福祉士等と連携し、接見同行や更生支援計画書を作成するなどの活動を、研修等を通じて全国に広めていく取組を進めます。2018年4月、東京において更生支援計画書を矯正の現場につなげる試行プログラムが始まっており、2019年度は同様の試行が大阪に拡大されます。今後は同様の試行を広げていくべく関係諸機関への要望を継続します。更生支援計画書の作成等環境整備のために弁護人が支弁した経費の国選弁護費用化に対しては、具体的な実務例の集積が急務となっており、情報収集が課題となっています。

 

(14) 犯罪者処遇の在り方

法制審議会における少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会において、非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法及び手続法の整備の在り方並びに少年法適用年齢引下げの議論が佳境に入っており、2019年度に答申が出される可能性もあります。日弁連は2018年に、18歳及び19歳の者について、少年法の果たす機能を代替するためのいかなる刑事政策的な配慮をしたとしても、現行少年法制の果たしてきた機能や効果には遠く及ばず、少年法における「少年」の年齢を18歳未満とすることに反対する意見を述べていますが、引き続き積極的な発信をしていきます。

 

(15) 公害・環境問題と持続可能な社会の実現

現在及び将来の世代が等しく自然環境の恵沢を享受し、健康で文化的な生活を確保できるようにするため、公害・環境破壊の根絶を目指すとともに、環境権及び自然享有権が確立された持続可能な社会の実現に向けて取り組みます。また、国に対しオーフス条約への加入を働きかけるとともに、同条約にうたわれている、市民が権利として国や地方自治体の意思決定に参画し、かつ環境保全のための司法手続にアクセスできる制度の実現を目指します。さらに、海洋プラスチック問題、空き家問題などに積極的に取り組み、環境問題に対処する弁護士の活動領域を広げます。


(16) ビジネスと人権

政府は、国連が各国に策定を推奨している「ビジネスと人権に関する国別行動計画」について、2018年から策定作業を開始し、2020年半ばの公表を目指しています。日弁連は、同計画の策定に向けて、企業活動がもたらす国内及び国外における人権侵害の危険性を防止し、被害者には救済へのアクセスが適切に提供されるよう、政府に対する働きかけや利害関係団体としての協力を行ってきました。今後も、同計画が企業活動における人権の保護・促進を推進する内容となるよう、策定プロセスに積極的に関与します。

 

第2 弁護士の業務拡充と活動領域の拡大

 

1 弁護士費用保険の拡充

市民の司法アクセスを弁護士費用の面から改善する弁護士費用保険のより一層の拡充を図ります。交通事故刑事事件の弁護士費用が支払われる保険(刑事弁護費用保険)が2019年1月に発売され、今後、中小企業向け弁護士費用保険も発売される等、引き続き保険の対象事件の拡大に積極的に協力します。紹介弁護士への研修を充実させ、保険から支払われる弁護士費用をめぐる紛争をADRによって適正・迅速に解決していくこと等により、弁護士費用保険制度の信頼性を高めていきます。また、各種保険における示談代行の実態について調査・検討を行います。

 

2 国・自治体との連携

弁護士任用の促進、公金債権の管理・回収や包括外部監査人の就任促進、条例制定支援等、行政との連携の取組を一層推進します。また、子ども、高齢者、障がいのある人、生活困窮者等の福祉分野における法的支援を継続的・安定的に行うことができるよう事業化を推進し、弁護士による継続した権利擁護活動ができる取組を推進します。また、任期付公務員として働く弁護士を通じて、より一層連携を図るよう尽力します。

 

3 企業法務、企業活動のモニタリングなどの活動

2011年の国連人権理事会決議「ビジネスと人権の国連指導原則」を受け、企業活動をめぐる法制度・実務は大きく変化しています。2018年、「ESG(環境・社会・ガバナンス)関連リスク対応におけるガイダンス(手引)」を公表し、今後もコンプライアンス・CSR・ESG・SDGs等の視点に基づき、継続して、人権や環境への配慮を含むより広い意味での企業活動の適法性の確保に、弁護士が重要な役割を担うことができるよう、積極的な取組を推進します。

 

4 中小企業に対する法的支援、積極的なアプローチ

中小企業者向け相談受付専用ダイヤル「ひまわりほっとダイヤル」を通じて、事業再生、創業支援、海外展開支援等、中小企業支援の取組を推進します。また、近時、大きな社会問題となっている中小企業の事業承継について、税理士会等の関連団体との連携を促進するほか、中小企業向けの弁護士費用保険の販売を機に、中小企業者の弁護士へのアクセス障壁を解消し、弁護士業務の拡大を目指します。

 

5 組織内弁護士の拡大と支援

任期付公務員である弁護士は国と地方公共団体を合わせて207人(2018年6月1日現在)、企業内弁護士は既に2、300人(2019年1月現在)を超えており、弁護士にとって大きな活躍の場になっています。今後も、法の支配の担い手である弁護士が組織内において活躍できるよう、弁護士や企業等の関係者への情報提供や、関係機関に対する働きかけを行うとともに、組織内弁護士のキャリアパスの調査・研究、留学支援や国際公務キャリアサポート、研修等各種支援を通じて組織内弁護士が働きやすい環境を作り、志望者を確保する取組を推進します。

 

6 国際展開

中小企業や個人でも海外との契約や紛争で弁護士の助力を必要としており、国際的な業務に関する弁護士の法的ニーズは飛躍的に高まっています。これらの法的ニーズに応え、さらに国際仲裁・調停における仲裁人・調停人・代理人となる人材を増やすために、国際的に活躍できる弁護士の育成・支援の活動を推進していきます。

 

7 インターネットによる業務広告の適正化と促進

インターネットは、市民が弁護士に関する情報等を入手するための重要な手段ですが、業者が運営する広告サイトの中には、不適切な運営が疑われる広告サイトも散見されるとの指摘があります。会員が、適正に、広告サイトを利用した業務広告ができるように、2018年1月に制定した「icon_pdf.gif弁護士情報提供ウェブサイトへの掲載に関する指針 (PDFファイル;236KB)」を会員や業者に周知し、適正な業務広告による市民の弁護士へのアクセス向上に努めます。

 

8 ニーズに応えられるスキルの養成

価値観の多様化と経済のグローバル化は、紛争の多様化・特殊化を招来し、これまでにない複雑で解決困難な紛争を増加させています。それに伴い弁護士に求められる知識・技術も専門化・高度化しています。会員がこれらの複雑困難な紛争の解決に的確に対処することができるように、市民のニーズに合致した高い専門的知識の習得を目的とした体系的な研修制度の在り方について検討します。

9 業務妨害対策

近年、事件の相手方による弁護士刺殺事件、インターネットの普及に伴うネット上の弁護士業務妨害等、弁護士に対する業務妨害行為は多様化する傾向にあります。弁護士や法律事務所事務職員が脅迫や暴力等によって不当に業務を妨害されることがないよう、事務所のセキュリティ確保の方策や警察との連携を含む対策を検討し、推進します。

 

10 IT化、AI技術の進展への対応

民事裁判手続等のIT化に向けた動きが急ピッチで進んでいることを受け、会員に対し、必要な準備(デジタルデバイドへの対応やセキュリティの確保等)について情報を発信し、共有します。
また、AI技術の社会的な利用の拡大に伴い、AIにまつわる新しい法的課題が指摘され、鑑定などの立証活動や判例検索、契約書作成など弁護士業務におけるAI技術の活用も視野に入ってきています。AIに関する倫理を含む法的課題、AI技術の利用といった弁護士業務に関する事項について検討を進めていきます。

 

第3 法曹養成制度の改革

 

1 法科大学院制度の見直し

法曹養成制度をめぐる諸課題に関し、「法曹養成制度改革の確実な実現のために力を合わせて取り組む決議」(2016年3月11日臨時総会)等を踏まえた取組を進めます。とりわけ、法科大学院を中核とする法曹養成制度が、試行錯誤を重ねながらも十数年にわたって多くの法曹を輩出してきた実績は十分評価すべきものであり、今後も改善・見直しを重ねて、制度を成熟させるべく努力を続けていくべきと考えます。この点、政府において、2018年度までの法科大学院集中改革期間に検討されてきた法曹コースについての議論に加え、時間的負担の軽減策として法科大学院在学中の司法試験受験を認める制度変更が検討され、これらの改革案が2019年度の通常国会に提出されました。在学中受験の問題については、プロセスとしての法曹養成制度の中核である法科大学院教育に大きな影響を与えることが想定されます。そこで、今後設置される予定の会議体において司法試験の在り方等について十分な検討がなされるよう求めるなど、積極的に関与して必要な取組を進めていきます。

 

2 司法修習の充実

法曹の実務に必要な能力を習得させるという司法修習の重要な役割に照らし、司法修習の充実に引き続き取り組みます。また、新たに創設され、71期司法修習生から導入された修習給付金制度の運用状況を見守るほか、司法修習生が安心して修習に専念できる環境整備について引き続き取り組みます。

 

3 いわゆる「谷間世代」の問題への対応

司法修習生の修習期間中に給与及び修習給付金の支給を受けられなかった会員(谷間世代の会員)に対し、一定の給付を行う制度を設けました。
谷間世代を含む修習期の新しい会員が様々な分野において積極的に活躍できるように、引き続き、会内施策を検討するとともに、国に対しても、国費により修習期の新しい法曹の活動を支援する政策などを求めていきます。


4 法曹人口

法曹人口は、法曹養成制度の成熟度、現実の法的需要、司法基盤の整備状況とのバランスの中でその方向性が検証されなければなりません。司法試験の合格者数は、3年連続で1500人台となっており、法曹人口の増員ペースが一定程度緩和されていますが、この傾向が継続するかを注視しながら、その影響度につき検証するための継続的なデータ収集を引き続き行い、拡大理事懇談会等を活用して意見を伺いながら、検証に必要なデータを集めていきます。
併行して、関係諸機関・諸団体とも協力しながら、司法基盤整備の推進、司法アクセスの拡充、弁護士の活動領域の拡大のための取組とともに、法曹養成制度をめぐる諸課題を克服すべく必要な取組を行います。

 

5 法曹志望者増加の取組

法曹志望者増加のための取組を最重要課題の一つとし、その具体的活動として、各弁護士会から各地の中学校・高校・大学等に出向いて、法曹という仕事の意義・魅力や法曹養成制度の概要等について発信する取組を継続します。2019年度は、「法曹の仕事」を若い世代にアピールする取組についても、最高裁判所、法務省と連携しながら検討しています。また、市民向けシンポジウム等イベントの開催を含め、各種広報媒体を活用しながら、弁護士の魅力や多方面での活動の姿を「見える化」して、広く社会にアピールします。そして、何より私たち弁護士一人ひとりが弁護士の魅力を実感し、自ら発信していくことが大切であり、それを実現できる日弁連になるべく、努力します。


第4 民事司法改革等の推進

 

1 裁判所支部機能の拡充と司法予算

司法予算は、国家予算の0.3%程度で、国家予算の伸びに比べて伸び率が低い傾向にあります。また、ここ10年で弁護士は約1.6倍(約1万5000人)の増加であるのに対し、裁判官は定員ベースでもわずか約1.03倍(約100人)しか増えていません。市民にとって身近で利用しやすく、頼りがいのある民事司法を実現するためには、司法予算を充実させ、裁判所の人的・物的基盤を整備することが重要と考えます。とりわけ市民の司法アクセス改善のためには、裁判所支部機能の拡充が求められます。日弁連は、引き続き、非常駐支部の常駐化、開廷日の拡大、合議事件取扱支部拡大、家庭裁判所出張所の増設・運用改善、労働審判実施支部の増加などの課題に取り組んでいきます。

 

2 民事裁判手続等のIT化

急ピッチで検討が進められている民事裁判手続等のIT化については、2019年度中に開始が予定されている特定庁におけるITツールを利用した争点整理の試行等に向けて、情報提供その他の必要な支援を行っていきます。また、地域司法の問題や本人訴訟のサポート、セキュリティ対策などの懸念に配慮しつつ、国民にとって利用しやすい司法制度及びシステムの構築に向けて、民事訴訟法改正に向けた研究会等で意見を述べていくとともに、最高裁判所、法務省等の関係機関と鋭意協議し、引き続き積極的かつ慎重に取り組んでいきます。

 

3 民事執行法の改正

2019年の通常国会において、主として財産開示、不動産競売からの暴力団排除、子の引渡し執行について、強制執行制度の実効性の強化のための民事執行法改正が予定されています。法改正後も引き続き裁判所規則制定に対して意見を述べていくとともに、研修等を通じて改正内容の会員への周知を図り、法改正後の適正な運用の実現に向けて積極的に取り組みます。

 

4 証拠収集制度の拡充

証拠の偏在に対処して審理の適切さを確保し、市民の権利救済を実効的なものにするためには、弁護士会照会制度、当事者照会制度及び文書提出義務の強化など、証拠・情報収集制度の拡充が必須と考えます。具体的な法改正に向けて「民事司法の在り方に関する法曹三者連絡協議会」における議論・検討を進めます。

 

5 依頼者と弁護士の通信秘密保護

依頼者が弁護士の法的助言を受けるための弁護士との間の通信内容の開示を強制されない権利(依頼者と弁護士の通信秘密保護制度)は、欧米において、司法制度の原則として確立しています。他方で、日本では、民事・刑事・行政の各種手続において弁護士との相談が秘密でないことから、依頼者が防御を十分に行うことができない、あるいは弁護士に相談することを躊躇するなどの弊害が指摘されています。
2019年の通常国会における独占禁止法の改正により通信秘密保護制度の一部導入が予定されていますが、具体的な制度設計において通信秘密の保護が実質的に保障されることが明確になるよう重点的に取り組みます。


6 改正民法とその他民事実体法改正への対応

民法改正については、施行に向けて(債権関係は2020年4月1日、相続関係は2019年7月1日原則的施行、配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設等は2020年4月1日。)、会員への周知、研修の実施などの諸準備を加速させます。
2019年2月に改正要綱案が採択された会社法改正については、上場企業等に社外取締役設置が義務付けられることに関して、今後も、社外取締役が期待される役割を果たすための活動を継続するとともに、新設が提案されている社債管理補助者につき、会則等による規律を行い、弁護士・弁護士法人が、その職務を適切に行う体制を整えます。
さらに、所有者不明土地問題に関係した登記制度・土地所有権の在り方、動産・債権担保法制の見直しなど新たに予定されている民法等の改正にも積極的に関与し、適切な法改正が実現するよう積極的に取り組みます。


7 行政訴訟改革と行政手続への関与

現行行政訴訟制度を国民にとって利用しやすいものとするために、差止訴訟、非申請型義務付け訴訟などの各訴訟類型の訴訟要件の緩和や、違法性審査、裁量に関する司法審査の在り方などの行政訴訟制度の改革に取り組みます。
また、改正行政不服審査法により新たに導入された審理員による審理手続と行政不服審査会等への諮問手続について、実務上の様々な課題を解決するための方策の実現に取り組みます。
さらに、調査の適正化、被調査者の防御権の保障のために、行政処分の前提となる行政調査に弁護士が立ち会う機会を確保するなどの改善を目指します。


8 知的財産権関連

各種知的財産法の改正に対応して、検討課題提案やパブリックコメントの募集に応じて、専門家・利用者の視点から迅速に適切な意見を述べていきます。また、最高裁判所・法務省・特許庁・知財を取り扱う弁護士の任意団体である弁護士知財ネットとも連携して、知的財産権の国際化に伴う課題や人材育成に取り組みます。

 

第5 司法アクセスの拡充

1 日本司法支援センター(法テラス)事業の取組

(1) 民事法律扶助の拡充と適切な運用

2018年1月に施行された改正総合法律支援法に基づき、認知機能が十分でない高齢者・障がい者等やDV・ストーカー・児童虐待の被害者に対する法律相談事業が開始されています。利用者にとって利用しやすい制度となるよう、適正な運用の実現を目指します。


(2) 法テラス事業の拡充

法テラスと連携し、法律扶助対象事件の拡大、弁護士業務の実情に見合った立替基準の適正化、DV・離婚事案などの困難案件加算や償還免除の活用・拡大等に取り組みます。なお、2019年4月から2年間にわたり、民事法律扶助制度を利用して受任した離婚関連事件の活動及び業務量並びに報酬決定の実態を把握するため、会員を対象としたモニター調査を開始します。


(3) 法律援助事業の国費・公費化

2018年6月に、勾留されている全被疑者に対し国選弁護が拡大され、これまで法律援助事業として実施していた弁護援助制度の一部が国費化されました。引き続き、法律援助事業を安定的に運営するとともに、逮捕段階における被疑者国選弁護制度の実現、国選付添人制度の対象拡大や、人権分野の法律援助7事業の本来事業化等を目指します。


(4) スタッフ弁護士の人材確保と支援

法テラスによる法律業務の提供は、ジュディケア弁護士(一般契約弁護士)が担うことを基本としつつも、スタッフ弁護士がこれを補完して、様々な活動を担うことが期待されています。このようなスタッフ弁護士の重要性に鑑み、スタッフ弁護士の人材確保、養成及び支援に努めます。


2 司法過疎・偏在の対応

司法過疎・偏在解消に向けた取組として、法律相談センターの設置(全国で約300か所)、ひまわり基金法律事務所の全国展開(2019年4月1日現在、累計で120か所、稼働中は43か所。)、偏在対応独立弁護士や養成事務所等に対する経済的支援等の施策を実施しています。地方裁判所の支部単位で弁護士が1人又は0人の、いわゆるゼロワン地域は2017年に解消されていましたが、残念ながら、2019年3月1日現在、弁護士ワン地域が一つあります。引き続き取組の成果を検証しながら、弁護士ゼロワン地域の解消への取組を始め、地域の実情に応じた司法過疎・偏在解消に向けた施策を推進します。

 

3 公設事務所の支援

ひまわり基金法律事務所については、開設費・運営費等の経済的支援や支援委員会による人的支援を行っており、今後もこの支援を推進します。都市型公設事務所については、これまで司法過疎地に赴任する弁護士の養成に寄与しており、2019年4月施行の改正規則に基づき、より手厚い支援を行います。また、司法過疎地に赴任する弁護士のキャリアパスを視野に入れた継続的な養成支援及び安定的な人材確保が重要であることから、これらの課題に対応すべく施策を検討の上、実施します。


4 各種法律相談の活発化

近年、弁護士会の法律相談センターにおける法律相談件数が減少しているところ、その要因の分析と対策について日弁連公設事務所・法律相談センターが取りまとめた中間検証を踏まえ、法律相談センターの運営や援助の在り方に関し検討を行い、各弁護士会と連携しながら法律相談の活性化に取り組みます。


 

第6 憲法の理念に基づく刑事司法の実現

1 新たな刑事司法の対応

(1) 取調べの可視化への対応

取調べの全件・全過程の録画の実現のために、改正刑訴法施行後3年後見直しに向けて、取調べが録画されなかったことによって問題が生じた事例や、録画の存在及び内容が判決等に影響を与えた事例など、立法事実となるべき事例の収集分析を強化していきます。


(2) 捜査・公判協力型協議・合意制度(いわゆる「司法取引制度」)への対応

改正刑訴法の成立により、2018年6月から新たに導入された捜査・公判協力型協議・合意制度(いわゆる司法取引制度)について、引き込みの危険等に留意しつつ、新たな制度が誤判原因とならないよう、その運用を注視するとともに、協力者及び標的者の弁護人の弁護活動について検討を深めていきます。


(3) 拡大された被疑者国選弁護制度の実践

勾留された全ての被疑者を対象とする国選弁護制度が実現しましたが、各弁護士会の対応は特段の支障はなく順調なようです。今後は3年後に予定されている制度の見直しを念頭に置いて、逮捕段階にまで被疑者国選弁護を拡大するために、その実現に向けた検討を続けていきます。


2 裁判員裁判の更なる改革と充実

裁判員法は2019年5月に施行10周年を迎えます。これを機会に、裁判員裁判の弁護活動を振り返るとともに、裁判員制度の課題について検討を進めます。裁判員にとって分かりやすい弁護を目指して、実演型の研修を続けるとともに、研修受講を裁判員裁判の国選弁護人候補者名簿の登載要件とするなどの取組も進めていきます。

 

3 更なる刑事司法の改革を目指して

(1) 活動内容に見合った国選弁護報酬基準の整備

国選弁護人の活動が報酬面において正当に評価されるよう、2017年に実施した会員へのアンケートを参考にしながら、国選弁護報酬基準の改定について継続的に検討し、法テラス・法務省との対外折衝に努めます。また、弁護活動の独立性に配慮しつつ、裁量的評価の検討も視野に入れ、国選弁護報酬の増額に向けて様々な取組を推進します。


(2) 弁護人立会権の実現

取調べにおいて、個人の尊厳を守り、供述の強要等によるえん罪を防止するためには、憲法第38条の黙秘権の実質的な保障、すなわち、捜査機関の圧力に屈することなく、自由に黙秘権を行使できる状況を確保することが必要です。そのためには弁護人立会権の確立が不可欠であり、この実現に向けた取組を進めていきます。


(3) 再審を含む全面的証拠開示制度の実現

全面的証拠開示の立法事実となるべき事例を収集分析することが必要です。再審が無辜の救済のための制度であることに鑑み、再審請求審における証拠開示制度の法的整備も喫緊の課題です。


(4) 人質司法を打破するために

「人質司法」は、我が国における刑事司法改革に残された課題の一つです。裁判官が被疑者又は被告人の身体の拘束に係る判断に当たり、否認又は黙秘をしていることを理由に不当な扱いをしていないかなど、立法事実の集積に取り組んでいきます。


(5) 逮捕段階の公的弁護制度の実現

国選弁護本部を中心に逮捕段階の公的弁護制度の議論を進め、逮捕段階の公的弁護制度に関する具体的構想(日弁連試案)の策定を目指します。


(6) 全面的な国選付添人制度の実現

被疑者国選弁護制度の対象拡大にもかかわらず、国選付添人制度の対象はいまだ一定の範囲に限定されています。そこで、身体拘束された全ての少年の事件を対象とした全面的国選付添人制度の実現を目指します。



第7 被災者支援と災害対策

1 災害復興法制の改正と生活再建支援施策の見直し

災害時、弁護士にはその頼りがいを市民の目に焼き付けるような活動が期待されます。
東日本大震災・福島第一原子力発電所事故、熊本地震など、災害時に復旧・復興にかける弁護士の姿は、市民の信頼を十分に勝ち得ました。しかし、震災の爪痕は深く、今なお約5万人もの方が避難生活を続けるなど復興も途半ばです。また、2018年に発生した記録的な集中豪雨や台風による被害など、自然の猛威は予断を許しません。
日弁連としては、各地の弁護士会等と連携しながら、被災者等の救済及び生活再建が完全に達成されるまで災害復興支援活動に取り組んでいきます。

 

2 原発被害者への早期かつ完全な賠償と被災地の復興の実現

福島第一原子力発電所事故による損害の完全な賠償と被災地の復興を実現するため、被害者への支援、賠償基準等についての意見表明、原子力損害賠償紛争解決センターの運営への協力などの活動に引き続き取り組みます。また、同センターが提示する和解案を東京電力が尊重するよう引き続き求めていきます。

 

3 脱原発への取組

広範な地域に深刻な放射能汚染の被害をもたらした福島第一原子力発電所事故を踏まえ、日本の原子力推進政策を抜本的に見直し、原子力発電と核燃料サイクルから撤退し、再生可能エネルギーの推進、省エネルギー及びエネルギー利用の効率化と低炭素化を中核とするエネルギー政策の実現に向けて取り組みます。


4 防災・減災に向けた取組

これまでの災害対策で日弁連及び弁護士会が実践で蓄積してきた経験値を集大成し、防災・減災のための一般市民向けの情報提供ツールの作成や、万一災害が発生した際に直ちに対応できる相談・援助のための態勢を平時から構築していきます。


5 大規模災害に関する自治体との連携

災害復興支援や被災者支援に当たっては、平時からの行政との連携が不可欠です。日弁連では2018年12月に全国市長会との間で協定を締結し、災害発生時に被災地域の自治体と弁護士会の連携をサポートする体制を構築しました。今後、全国知事会などとの協定締結に向けた取組を行うとともに、各弁護士会と自治体の連携促進に向けて支援していきます。

 

第8 若手会員への支援

1 弁護士業務支援

登録5年目以内の弁護士が業務について幅広く電話で相談できる「弁護士業務支援ホットライン」や対象年齢を小学生以下に拡大した「育児期間中の会員に対するベビーシッター費用等の補助」の会内での周知に注力し、その利用を促進します。

 

2 研修の充実、情報提供

弁護士研修は、業務・職務の質を向上させる自己研鑽の場として極めて有益であり、重要です。時代に即応した的確にして良質な法律サービスを提供することこそが市民の信頼を得て業務基盤を強固なものにする第一歩です。効果的で充実した研修を企画するとともに、いつでもどこでも受講可能なeラーニングのコンテンツを充実化することによって、若手会員を含む全ての会員のために、様々な有益な情報を提供していきます。

 

3 就業支援・独立開業支援・孤立化防止

就職相談会の開催やひまわり求人求職ナビ等の各種広報媒体による求人情報の提供を通じて、司法修習生や若手会員の就業及び独立開業支援を継続して行います。また、弁護士業務支援ホットラインやチューター弁護士制度を通じて、若手弁護士が経験豊富な弁護士の助言を受けられる体制を整え、若手会員の孤立化を防止します。

 

第9 男女共同参画の推進

副会長に占める女性会員の割合を高めるためのクオータ制が2018年度から実施されましたが、引き続き、日弁連の政策・方針決定過程への女性会員の参画拡大を目指し、理事者に占める女性会員の割合を計画的に高める方策を検討します。
2018年度から第三次日本弁護士連合会男女共同参画推進基本計画を実施しており、日弁連・各弁護士会での取組・進捗状況をフォローアップするなど積極的に推進していきます。
さらに、女性社外役員候補者名簿提供事業の利用を促進するなど、社会のダイバーシティを推進するために、内閣府男女共同参画局と引き続き連携するなど、弁護士会内と社会の両面から男女間格差を解消する取組を進めます。

 

第10 法教育の充実

法の支配が国民に浸透し、民主的で公正な社会を実現するためには、早い年齢のうちからの基礎的な法教育が重要ですが、日本では法教育の実践が十分とは言えません。骨太の方針2018で民事司法改革の中身として法教育の推進が明記されたことを受け、法教育に関する具体的な施策を国に対して求めていきます。また、若年層の法教育の充実のために、教員等に向けたセミナーなどを実施し、法教育の担い手を多数養成するとともに、高校生模擬裁判選手権の企画運営や、会員による法教育授業の支援、関係機関との連携などを通じて、多くの人に広く法教育が浸透するよう、活動を続けていきます。

 

第11 司法及び弁護士の国際化の推進

1 日弁連の国際交流の推進

日弁連が加盟している国際法曹団体は7団体、友好協定を結んでいる諸外国弁護士会・法曹団体は14に上っています。2019年9月には弁護士会の事務総長が一堂に会する世界弁護士会事務総長会議(IILACE)が東京で開催されるため、この準備を進めています。近年、国際会議への参加機会が執行部のみならず会員にも与えられており、国際交流活動を一層進めていきます。


2 中小企業の海外進出支援

日本貿易振興機構(JETRO)や東京商工会議所等と連携し、海外展開に取り組む中小企業に対して、国際的な企業法務の経験を有している弁護士による法的支援を推進します。また、連携機関の拡大を推進するとともに、研修の実施等により全国に海外展開に対応できる弁護士を育成し、支援を強化します。


3 国際仲裁・調停

日本の国際仲裁の活用は欧米やアジア諸国と比べて立ち後れている中、2018年に関係省庁連絡会議で中間取りまとめが公表され、国を挙げて国際仲裁の活性化のための施策が進められています。日弁連は、仲裁法の改正や施設整備が急務と考え、関係団体と連携しつつ関係省庁に法整備を要望するとともに、2018年の大阪中之島に続き、東京の審問施設の設置を求めて支援の活動を行います。今後は、海外や企業へのPRも視野に入れつつ、会員に対してこれまで以上にセミナー等の実施による国際仲裁の実務の周知を行います。


4 海外における立法・法制度支援

基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とするNGOとして、「日本弁護士連合会による国際司法支援活動の基本方針」に沿って、主としてアジア諸国に対して実施している国際司法支援活動を、独立行政法人国際協力機構(JICA)等と連携しながら継続していきます。


5 ハーグ条約事件等渉外家事事件についての取組

社会の国際化に伴い渉外家事事件に関する相談が増加していることを踏まえ、裁判所に翻訳文を備え付けたり通訳者を確保したりするなどの運用の改善や、渉外家事事件の当事者のための支援体制の整備に、家庭裁判所の協力を求めながら取り組みます。
国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)については、2019年度の通常国会において同条約の実施に関する法律の一部改正が予定されており、制度の実効的な運用のための調査研究を重ね、関係機関との協議などを通じて、円滑な執行や弁護士紹介制度の効果的な運用に向けた対策に取り組むとともに、必要な環境整備に取り組みます。


6 国際分野で活躍する人材の育成

国際分野で活躍できる人材を拡充するため、海外ロースクールへの推薦留学制度や国際会議への若手会員の派遣制度の実施を続けます。国際機関等の国際公務分野でのキャリア構築に関心を持つ会員に対して、研修やキャリアセミナーの開催を継続して行うほか、2017年に運用を開始した国際公務相談窓口と国際公務メーリングリストも活用し、個々の会員のキャリアパスに即した個別具体的なサポートに取り組みます。


7 京都コングレスへの対応

第14回国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)が2020年4月に京都で開催されます。政府が準備を進めるコングレスに向けて、引き続き情報収集を行い、弁護士団体としての関与の仕方について検討を進めます。


 

第12 広報の充実

「日本弁護士連合会広報中長期戦略」(2018年2月策定)に基づき実施しているイメージアップ広報、弁護士の仕事を市民や企業に知ってもらう広報、会員の利益にも資する広報に引き続き取り組みます。また、弁護士会との連携・支援を継続するとともに、市民や企業が必要とする情報が「伝わる」広報のために、情報の受け手である市民や企業のニーズに配慮したコンテンツ及び媒体を活用していきます。
他方で、これまで実施された広報の成果を検証し、より効果的・効率的な広報活動を推進します。

 

第13 弁護士自治を堅持する方策等

1 不祥事対策

日弁連は、弁護士不祥事が市民の信頼を大きく揺るがすものであることを踏まえ、多角的な観点から対策を講じてきました。2017年10月には、預り金等の適正管理の強化策及び依頼者見舞金制度がスタートし、不祥事対策が更に前進しました。
さらに、弁護士会の市民窓口及び紛議調停の機能強化、懲戒制度の運用面での工夫(会請求や事前公表等)など、実務面の対策を推進するとともに、会員への支援策(メンタルヘルスカウンセリングや会員サポート窓口等)の充実を図ります。


2 弁護士職務基本規程の見直し

弁護士の倫理と行為規範を定めた弁護士職務基本規程は、施行後14年を経過しました。弁護士の存在と役割が広く社会に認識され、弁護士が活動の場を多種・多様な分野へと広げつつある中で、同規程制定後に出された弁護士倫理をめぐる判例や懲戒議決例を踏まえつつ、十分な会内論議を行った上で、必要な改正に向けた検討を進めていきます。


3 適正な会財政と組織改革の検討

積極的な施策を進めるべきところには十分な予算を充て、合理化すべきところは可能な限り圧縮するなどして、健全かつ適正な会財政を目指します。併せて、委員会等の数が過度に肥大化しないよう、統廃合を含む組織改革について本格的検討を進めます。


4 弁護士法第72条と隣接士業との協働

弁護士法第72条が、厳格な資格要件や誠実適正な職務遂行のために必要な規律に服することが要求される弁護士に法律事務の独占を認めた趣旨に鑑み、同条が他の法律により不当に浸食されることがないよう注意を払うとともに、その解釈適用問題については、引き続き検討・議論を進めます。また、市民の権利保護や利益に資するか否かという観点に基づいて、隣接士業との協働に取り組みます。


5 FATF第4次相互審査の対応

2019年に予定されているFATFによる第4次相互審査に向けて、2回目となる年次報告書の提出率の向上並びに本人特定事項の確認義務及び記録の保存義務等の会員による履行の徹底が求められています。会員のために、本人特定事項の確認義務の有無を調べるチェックリストや依頼者に示すチラシなどのツールの提供及び研修の実施を続けていきます。


6 会務の合理化と会務参加の促進

会員の会務参加を促進するために、会務の合理化は必須です。2010年に策定した「委員会等の統廃合に関する指針」や2018年に策定した「定例的イベントのスリム化に関する指針」に基づき、委員会等や定例的イベントの合理化を検討します。また、引き続き、効率的な会議運営や会員の移動時間の負担を軽減するテレビ会議システムの拡充等、会務合理化のための施策を推進します。


7 法曹一元と弁護士任官

法曹一元を実現するための重要な施策として、裁判官の給源の多様化・多元化を図り、弁護士が持つ健全な市民感覚を裁判に反映していくために、弁護士任官の拡大は極めて重要です。今後も、質・量ともに着実に弁護士任官を推進します。また、関係機関と連携して、判事補及び検事の弁護士職務経験制度を継続することで、健全な市民感覚を裁判に反映させていくことを目指します。


「障がい」の表記について

「障害」を「障がい」と表記することについては、これを相当とする意見、これを不相当とする意見があり、そのいずれかに統一することができません。当連合会の文書では、各方面の意見に基づき、「障がい」の表記を使用することがありますが、これに統一するものでも、その使用を推奨するものでもありません。