会長からのご挨拶(2022年7月1日)

会長からのご挨拶

本年4月1日に会長に就任して、3か月が経過しました。


6月10日に開催された定期総会では、前年度決算報告及び本年度予算、並びに弁護士情報セキュリティ規程の制定等について承認を得ました。


今後は各法律事務所等において情報セキュリティを確保するための基本的な取扱方法を定めていただくことになりますが、日弁連としては、各地のご意見も伺いつつ、作成のご参考になるモデル案を策定してまいりたいと考えています。


さて、本年は、法律扶助制度が我が国に導入されてちょうど70年の節目の年です。


1952年(昭和27年)1月24日、日弁連の呼び掛けにより財団法人法律扶助協会が設立されました。基金100万円と寄付金160万円によるスタートであり、訴訟の結果相手方から利得が得られた場合を除き、扶助金は給付とされましたが、相手方からの利得のある事件が想定以上に少なかったため、たちまち資金難に陥ってしまいました。


1958年(昭和33年)には、国が支援に乗り出し、補助金が交付されるようになりましたが、相手方からの利得の有無にかかわらず扶助金は被援助者への貸付とされ、全額償還制がとられることになりました。これが今日まで続く償還制のはじまりです。財政当局としては貸付とすることで財政支出を最小に押さえることになりますが、資金難と法的支援の必要からの苦渋の選択でした。


その後、司法制度改革の中で総合法律支援法が成立し、2006年(平成18年)に日本司法支援センター(法テラス)が設立され、現在の法律扶助を担っています。


ところが、時代と社会生活の変化の中で、償還制による不都合が見られるようになってきています。


例えば、超高齢社会を迎えている中で、高齢者本人による成年後見申立てに扶助が認められないこと、自己破産と同時に離婚事件等の一般事件を申し立てると、後日免責によって、償還金を返済できないために一般事件への扶助が原則認められないことなどです。離婚事件で毎月の養育費が合意された場合、弁護士報酬は法テラスからではなく、毎月の養育費の中から弁護士に支払われることになりますが、それは厳しい生活の中でやりくりするひとり親を苦しめるだけでなく、代理人に事件終了後も報酬取立てを担わせるといった不都合も生じさせています。


また、生活保護受給者に準ずる方への償還金免除制度も、資力回復困難要件が厳しく、件数が伸び悩んでいると考えられるのが現状です。これら生活困難者については一律給付制を採用して保護を図る必要があります。このような事態の原因はいずれも、法律扶助が貸付金になっている償還制に起因しており、要保護者への法的支援という法テラスの目的に沿った改革が求められます。


法律扶助の担い手である弁護士の報酬についても触れておきたいと思います。当初、国からの補助金交付に当たり、弁護士手数料等については日弁連の旧報酬等基準規程の範囲内とされていましたが、後に法務省は法律扶助立替金に最高基準額を定めることを求めました。この基準額は極めて低く、その背景には、立替金が利用者の負担となる償還制の下では、弁護士にとっても、労力に見合うものを求めにくいという事情もありました。


利用者負担と弁護士の報酬をリンクさせない制度にするには、原則給付制にすることが求められます。この問題は、同時に持続可能な法律扶助制度の維持・発展のため、担い手の確保という観点でも重要な課題です。


引き続き、当連合会へのご理解をどうぞよろしくお願いいたします。



2022年(令和4年)7月1日
  日本弁護士連合会会長     

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