目的別メニュー0>
弁護士 久野 実
■プロフィール 久野 実 日弁連中小企業法律支援センター 事務局次長(愛知県弁護士会 所属) |
もし、中小企業が地震災害にあったら、企業は存続のためにどのように対策を整えればよいでしょうか。中小企業経営者の方は、普段から多くの経営に関する問題を抱えており、震災対策は後回しになっているのが現状かもしれません?
しかし、もしあなたの企業が地震被害に巻き込まれ、企業活動が長期の停滞もしくはその結果廃業にまで至ったら、あなたやあなたの家族、取引先だけでなく、従業員やその家族など、多くの生活を困窮させることになるのです。そこで、中小企業経営者の方に検討頂きたいのが、万一に備えての事業継続計画いわゆるBCPの策定です。
BCP(Business Continuity Plan)とは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことをいいます。
BCPの効果は、もし策定していなければ緊急事態によって事業を縮小または廃業せねばならないリスクを回避でき、中核事業を早期に復旧することで操業を緊急事態の前の状態に戻すことができることにあります(図を参照)。
内閣府の公表によれば、BCPを策定済みまたは策定中である中堅企業は2008年1月段階では16%であったのが、2009年11月には27%まで増加しているとのことです。ただ、内閣府の発表は、中堅企業に対するものであること、アンケートに積極的に回答している企業の統計であることからすると、実際にBCPを策定している中小企業はそれほど多くないといえるのではないでしょうか。
今回の東日本大震災では、沿岸部を中心に多くの中小企業にも被害がありました。
平成23年4月3日の河北新報では、「早期復旧BCPが奏功」とのタイトルで、BCPを策定していたことで、早期復旧を果たした中小企業である宮城県名取市のリサイクル業「オイルプラントナトリ」を取り上げています。
同社は今回の震災により、沿岸近くにある廃油や廃プラスチックの再生処理工場内のタンク15基の3分の2が流失し、プラント建屋も破壊されました。しかし、今年1月に策定したBCPが奏功し、震災後約1週間で、廃油回収業務が再開、震災からおよそ10日後には残ったタンク車と設備で工場排水中和処理も始めることができました。
同社は震災直後、従業員約40人を非難させ登記上の本社がある内陸側の民家に本社機能を移し、廃油回収の再開に当たっては、宮城県内の同業者と連携をしました。
社長は「どの設備を復旧させるかなどの手順を決めていたのが大きかった」と強調しています。
BCPの策定は緊急時の対応だけでなく、平時においても、企業を差別化する上でとても意味があるものです。
まず、緊急事態においては、被害を軽減でき、他の企業よりも早く復旧できる体質ができるので、他企業よりも競争力を備えることになり場合によっては事業を拡大できることも考えられます(図を参照)。
また、平時においても、BCPを策定して、その問題点を繰り返し見直すことで、企業戦略の明確な位置づけができ、さらに協力企業との連携強化を図るなどの利点もあります。さらに、中小企業庁のホームページにおいてBCP策定企業の登録公表制度を設けており、BCP策定をしていることを一般に公表できる仕組みが出来ています。BCP策定企業を優遇する傾向があることから、BCP策定済であることを公表することで企業取引において有利に利用できることが考えられます。
このように、BCPの策定により中小企業にとって緊急時だけでなく平時にも多くの恩恵があるのです。
平成21年3月に中小企業庁は「BCP策定のためのヒント~中小企業が緊急事態を生き抜くために~」というガイドブックを発表し、またホームページ上でも「中小企業BCP策定運用指針」を発表しております。
これらのガイドブックや、ホームページでは丁寧にBCP策定方法を公表していますので、これらが参考になります。
ガイドブックでは10のステップが紹介されています。
ステップ1「自社が遭遇する重大な自然災害などを確認する」
国や自治体が公表している地震被害想定などを想定する方法があります。
ステップ2「自社の存続にかかわる重要な業務を挙げてみる」
企業が継続するにあたって、経営上最優先すべ事業(中核事業)を決めます。
ステップ3「中核事業を復旧させる目標時間を設定する」
経営者のセンスでもかまわないので、目標時間を設定します。
ステップ4「復旧に長時間を要する資源を特定する」
自治体で実施している地震被害想定調査の結果などを参考にして、不可欠な経営資源の中で、目標復旧時間内での復旧を阻む経営資源は何かを見つけます。
ステップ5「資金調達についても考えておく」
大地震に遭遇し業務が停滞すると収入は減少しますが、支出は継続的に発生するので、資金調達についても計画を立てる必要があります。
ステップ6「対策や代替手段を考える」
従業員が出社可能か、家族の支援が期待出来るか、重要施設の代替があるか、ライフライン、輸送方法、連絡手段の代替があるかなどを検討してください。
ステップ7「従業員、取引先などとの共通認識を持つ」
従業員だけでなく、取引先や協力会社、組合等と連携出来るようにあらかじめ意見交換や調整を行っておきましょう。
ステップ8「安否確認と取引先との連絡手段を考える」
大地震発生直後は連絡を取りににくくなります。災害伝言ダイヤルなど の安否確認方法を選択し、周知しておいてください。
ステップ9「今後、実施すべきことを整理し、計画的に進めていく」
今後実施すべきことをまとめて書き出してみましょう。
ステップ10「1年間の活動を総括して、BCPを見直す」
組合等で共同訓練を行うなどできることからしてみましょう。また、チェックリストなどを利用して、事業継続能力を毎年向上させることが望まれます。
中小企業は具体的にどのようにしてBCPの策定をすればよいのでようか。先にも述べた中小企業庁が作成したガイドブックには、丁寧にBCPの策定手順が書かれていますので、参考にして策定をすることも可能です。また、自治体がBCPのガイドを公表しているところもありますので参考になります。
また、BCPの策定には、会社の意思決定方法や、雇用の問題、従業員の処遇の問題、事業承継の問題等の法律問題が関連します。
中小企業経営者の方が相談するのには、企業のことをよくわかっている顧問弁護士や、親身になって相談にのってくれる弁護士が役に立ちます。
是非、この機会に専門家に相談してみてはいかがでしょうか。