「日本の死刑制度について考える懇話会」報告書の公表を受けての会長声明
本年11月13日、「日本の死刑制度について考える懇話会」(以下「懇話会」という。)の報告書が公表された。
この懇話会は、井田良座長(中央大学大学院教授、前法制審議会会長)の下、 国民各界及び各層の有識者の参加を得て、活発な議論を行い、日本の死刑制度のあるべき方向性について提言を行った。当連合会は、立場の異なる様々な方々が、議論の上で一致した結論を導かれたことに対し、敬意を表するものである。
懇話会報告書は冒頭で「基本的な認識」として、「死刑は個人の生命を剥奪する究極の刑罰であり、他の刑罰(自由刑や財産刑)が個人の権利の一部を制限するのとは異なり、人権の基盤にある生命そのものの全否定を内容としている。しかも、人の行う裁判である以上、誤判・えん罪の可能性が常に付きまとい、ひとたび誤った裁判に基づく執行が行われるに至れば、取り返しのつかない人権侵害となる。」、「現行の日本の死刑制度とその現在の運用の在り方は、放置することの許されない数多くの問題を伴っており、現状のままに存続させてはならない。」と述べている。その上で、報告書は、「早急に、国会及び内閣の下に死刑制度に関する根本的な検討を任務とする公的な会議体を設置すること」とし、その会議体においては、特に「国際社会の中の日本」という視点、死刑と無期拘禁刑の分水嶺に関わる事件における特別な手続的保障の制度化の要否、被害者遺族の置かれた実情と支援の在り方、死刑を廃止した上で代替刑の創設等により国民の危険や不安を取り除けるのかどうか、死刑執行に至る手続における諸問題及び国民の死刑制度に関する意見を的確に集約する方法について、慎重かつ具体的な検討を行うべきことを提言している。
報告書の上記「基本的な認識」及び「提言」において示された問題意識は、人権保障の理念に合致するものであり、賛意を表する。
当連合会は、死刑制度が人権問題であるとの認識の下、死刑制度の廃止を訴え(2016年10月7日人権擁護大会「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」、またそれ以前からも死刑制度の問題点の改善と死刑制度の存廃について国民的な議論を行うための検討機関として衆参両院に死刑問題に関する調査会を設置することを求めてきた(2004年10月8日人権擁護大会「死刑執行停止法の制定、死刑制度に関する情報の公開及び死刑問題調査会の設置を求める決議」)。
そして、当連合会は、報告書の公表を受けて、そこで示された貴重な意見を参考にしながら、引き続き死刑制度の廃止の実現に向けて全力を尽くすことを表明するとともに、改めて国に対し、早急に報告書が提言するような公的な会議体を設置し、同会議体の下で、死刑制度に関する正確な情報や実態を公表した上で広く様々な人々の意見を聴き、国際的な情勢も踏まえながら、1年ないし2年といった短期間において集中的に検討を行い、死刑制度の廃止に向けた立法措置を講ずることを求める。
また、死刑が取り返しのつかない究極の人権侵害でありながら、死刑に関する刑事司法制度上及び運用上の問題が抜本的に改善されていない状況で死刑執行が続くことは適切ではない。とりわけ死刑再審無罪が確定した「袴田事件」などの死刑再審事件においては死刑執行による人権侵害が顕著である。よって、死刑制度の廃止についての結論が出るまでの間、死刑の執行を停止すべきである。
2024年(令和6年)11月14日
日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子