自衛隊における特定秘密の漏えい等に関する会長声明


本年7月、防衛省は、特定秘密の保護に関する法律(以下「秘密保護法」という。)に基づく「適性評価」を経ていない複数の隊員に特定秘密を取り扱わせたなどの43件の漏えい事件について、事務次官や統合幕僚長を始めとする100名を超える関係者の処分を行った。特定秘密の漏えいは、2022年(令和4年)12月の海上自衛隊元1等海佐が懲戒処分を受けた事件、本年4月26日に公表された海上自衛隊及び陸上自衛隊における事件、そして今般の処分に係る事件と相次いでいる。


防衛省は、このように特定秘密の漏えいが相次いでいる原因について、適性評価の実施を含む特定秘密の管理に問題があった旨説明している。


しかし、本年4月26日に公表された陸上自衛隊の漏えい事件(2023年7月に部隊指揮官が指示伝達を行う際に特定秘密の情報を知るべき立場にない隊員に特定秘密の情報を漏えい)については、参議院情報監視審査会において、防衛省から、「当該指揮官は、指示伝達の後、自らの発言について特定秘密に該当する可能性があることを認識した」旨や、同省防衛政策局及び陸上幕僚監部が漏えいしたとされる情報の特定秘密該当性の検討に約2か月もの期間を要した旨の説明がなされている。また、同審査会委員からも、「特定秘密に該当するか否かの判断が難しい情報について、現場で伝達の可否を判断できるのか。」との指摘がなされている(同審査会令和6年年次報告書42~44頁)。これらのことからは、そもそも特定秘密を取り扱う者でさえ、どの情報が特定秘密であるのかを容易に判別できていないことがうかがわれる。これは、当連合会が従前から指摘している特定秘密の範囲が広範かつ不明確であるという秘密保護法の本質的な問題に起因していると考えられる。


また、他の漏えい事件は、適性評価未実施の隊員に特定秘密を取り扱わせたり、適性評価未実施の隊員を特定秘密を知り得る状態に置いたりしたというものである。これは、自衛隊内において当該特定秘密に対する保全意識が希薄化していることを表しているが、それに加えて、そもそも適性評価未実施の隊員との間でも実際には特段の問題を生じることなく共有されてきた情報までもが、不必要に特定秘密に指定されているのではないかとの疑いは拭えない。


政府は毎年、国会に「特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施の状況に関する報告」を提出しているが、本年6月に提出された同報告によれば、防衛省においては、特定秘密文書の不適切な管理や誤廃棄等が多数発覚しており(同報告11頁)、これらの中にも、同様の問題があるのではないかと疑われる。


当連合会は、これまで、特定秘密の範囲が広範かつ不明確であるため特定秘密に該当しない情報までもが秘密指定されるおそれを指摘してきた。特定秘密文書の不適切な管理や誤廃棄等が多数発覚していることや、相次いで特定秘密が漏えいし、その後の検証に時間を要していることは、特定秘密の範囲が広範かつ不明確であることの問題が顕在化したものと言える。このような本質的な問題を抱えた秘密保護法は、当連合会が法案段階から指摘してきたとおり廃止され、又は抜本的に見直されなければならない。


また、廃止又は見直しがなされるまでの間、上記の問題の原因として考えられる不必要・不相当な特定秘密指定を防止するために、少なくとも当連合会が繰り返し指摘してきた事項、すなわち、①各行政機関は、衆参両院の情報監視審査会に対し、積極的な情報提供に努め、情報監視審査会が特定秘密の提示要求の議決をした場合には、当該特定秘密を提示すること、②秘密保護法施行以降、特定秘密を記録した文書は国立公文書館等に移管されたことはないが、今後は、全て国立公文書館等に移管し、事後的にチェックできるようにすること、③情報公開訴訟において、裁判所が開示請求にかかる行政文書の提示を求め、当該訴訟当事者に閲覧させずに、その内容を裁判所が見分することができる審理方法(インカメラ手続)を設けるなどして、各行政機関による特定秘密該当の主張の真実性を裁判所が確認できるようにすること、が速やかに実現されるべきである。



2024年(令和6年)10月31日

日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子