旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者等に対する補償金等の支給等に関する法律の成立に対する会長声明
2024年10月8日、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者等に対する補償金等の支給等に関する法律」(以下「本法律」という。)が参議院において全会一致で可決され、成立した。
本法律は、本年7月3日に、最高裁判所大法廷が、旧優生保護法下の強制不妊手術に関する国家賠償請求訴訟の上告審において、国による除斥期間(改正前民法724条後段)の主張を認めず、国に対して被害者への損害賠償を命じる判決を言い渡したことを受け、超党派議員連盟と原告側弁護団らとの協議を経て内容が固められ、成立したものである。
本法律の成立によって、訴訟を提起していない被害者についても広く被害回復が図られることとなった。
本法律は、憲法違反である旧優生保護法の立法及び執行に関する国会及び政府の責任と謝罪を明記し、優生手術を受けた本人に1500万円、その配偶者に500万円の補償金の支給を認めた。また、補償金について一定範囲の遺族に請求権を認め、第三者機関への委託を前提として原因究明や再発防止のための調査及び検証を行うとした。これらの点は、2019年4月に成立した「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」(以下「一時金支給法」という。)の不十分な点を改め、適正な被害回復を定めたものと評価できる。
また、本法律が、人工妊娠中絶を受けた本人に対して、一時金として200万円の支給を認めたことは、上記訴訟において人工妊娠中絶のみを受けた原告がいなかったことも一因として、これまで人工妊娠中絶の被害者が議論の枠外に置かれがちであったことに鑑みれば、大きな前進と言える。
今後、政府は、補償金及び一時金支給の認定手続を柔軟かつ適正に行っていくとともに、本法律による被害回復が広く行き届くよう、補償内容及び申請方法の連絡・広報の仕方を工夫し、相談窓口を拡充して、被害者への周知徹底を図るべきである。
特に、一時金支給法による一時金の支給認定件数が2024年8月末時点で1129件に留まっていることを考慮すれば、各都道府県が把握している被害者に対してプライバシーに配慮した方法での個別通知を実施することが強く求められる。これまで、一時金支給にあたり個別通知を実施した自治体が複数あるのであるから、その方法を参考に、政府の推進及び支援によって、プライバシーに配慮した方法での個別通知を積極的に実施すべきである。
また、政府は、優生思想に基づく差別・偏見をなくし、誰もが等しくかけがえのない個人として互いに尊重しあうことができる社会を実現するために、人権教育及び啓発活動に継続的に取り組むとともに、障害のある人への生活支援及び子育て支援を充実させるべきである。
本法律に基づく新たな補償制度では、被害者の補償申請を弁護士会等が支援することが想定されている。当連合会は、各弁護士会とともに早急に支援を担当する弁護士の名簿を整備するなど、被害者に十分な支援を提供することができるよう真摯に取り組む所存である。
また、今後も、旧優生保護法による被害の全面的な回復を実現させるとともに、社会の目が届いていないところで侵害されている人権の回復に向けて、全力を尽くしていく。
2024年(令和6年)10月9日
日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子