旧優生保護法国賠訴訟の最高裁判所大法廷判決を受けて、被害の全面的回復及び一時金支給法の改正を求める会長声明
本日、最高裁判所大法廷は、旧優生保護法に基づいて実施された強制不妊手術に関する国家賠償請求訴訟の5件の上告審において、旧優生保護法による被害について、除斥期間(平成29年法律44号による改正前の民法第724条後段)の適用を制限するとの統一的判断を示し、国に対して被害者への損害賠償の支払いを命じた(原審が仙台高等裁判所の事件については、損害額等について更に審理を尽くさせるために原審に差戻)。
本判決は、特定の疾病や障害を有する者等を対象とする旧優生保護法の不妊手術に関する規定は、「個人の尊厳と人格の尊重の精神に著しく反する」上、差別的なものであり、憲法第13条及び第14条第1項に違反するものであったことを認め、同規定の立法行為は違法であったと判断した。
その上で、除斥期間の適用について、①立法という国権行為が憲法上保障された権利を違法に侵害することが明白である場合は法律関係の安定という除斥期間の趣旨が妥当しない面があること、②長期間にわたり国家の政策として多数の障害のある者等を差別して不妊手術という重大な人権侵害を行った国の責任は極めて重大であること、③被害者らが損害賠償請求権を行使するのは極めて困難であったこと、④国会は、1996年に旧優生保護法を母体保護法へと改正した後、適切に立法裁量権を行使して速やかに補償の措置を講じることが強く期待されていたにもかかわらず、長期間にわたり補償の措置をとらなかった上、2019年4月に成立した「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」(以下「一時金支給法」という。)は国の損害賠償責任を前提とするものではなかったこと等を理由として、旧優生保護法による被害に除斥期間を適用することは、著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができないと判断したものである。
これまで、旧優生保護法国賠訴訟に関しては、全国各地の地方裁判所及び高等裁判所において、除斥期間の適用の有無について判断が分かれてきたが、本判決によって、除斥期間の適用が制限され、国は被害者である原告らに対して賠償金の支払義務を負うことが明確になった。
1948年に制定された旧優生保護法は、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」ことを目的に掲げた法律であり、このような優生思想に基づき、1996年に母体保護法に改正されるまでの間、障害のある人に対して、不妊手術が約2万5000件、人工妊娠中絶が約5万9000件、合計約8万4000件もの手術が実施された。これは戦後最大規模の重大な人権侵害である。
国は、本判決を尊重し、旧優生保護法による被害の全面的回復に向けて、大きく舵を切らなければならない。
まずは、現在上告受理申立てをしている2件の高等裁判所判決について、速やかに同申立てを取り下げるとともに、係属中の全ての訴訟について、原告らとの間で協議を行い、和解による早期の全面的解決を図るべきである。また、旧優生保護法国賠訴訟の原告らだけでなく、全ての被害者について被害回復を実現する必要がある。
被害回復措置について、一時金支給法は、一時金が低額であることや配偶者に対する支給規定がないなどの点で極めて不十分である。また、同法による一時金支給の認定件数は、2024年5月末時点で1110件にとどまっている。
そこで、現行の一時金支給法を抜本的に改め、旧優生保護法の違憲性を法文に明記するとともに、不妊手術等を受けた者の配偶者を含め、全ての被害者に対して被害を償うに足りる適正な額の補償金の支給を定めた補償制度を再構築すべきである。
旧優生保護法に基づく手術の実施が開始された1949年から75年、旧優生保護法が母体保護法へと改正された1996年から28年もの年月が経過した。旧優生保護法の被害者らは皆、既に高齢であり、亡くなった被害者も数多くいるのであるから、上記の被害回復措置の実現には、もはや一刻の猶予も許されない。
なお、当該大法廷での審理及び判決に当たり、裁判所は、弁護団等との協議に基づき、障害のある当事者及び傍聴者に向けた様々な配慮を提供し、全ての人に開かれた裁判に向け、歴史的な一歩が踏み出された。その一方で、当事者向けの手話通訳等の手配が公費で行われないことなどの課題もあり、引き続き、障害者権利条約に基づく手続上の配慮及び合理的配慮の提供が求められる。
旧優生保護法は、多数の障害のある人に取り返しのつかない被害を与えただけでなく、優生思想に基づく差別・偏見を社会に深く根づかせ、障害のある人の尊厳を傷つけた。今もなお、障害のある人は、結婚、妊娠及び出産、子育て等の家族形成に限らず、日常のあらゆる場面で周囲からの差別・偏見に苦しんでいる。
当連合会は、本判決を機に活動を更に充実かつ加速させ、被害回復が全ての被害者に行き届くまで真摯に取り組み続けるとともに、優生思想に基づく差別・偏見をなくし、被害者の尊厳が回復され、誰もが等しくかけがえのない個人として互いに尊重し合うことができる社会を実現するために、全力を尽くす決意である。
2024年(令和6年)7月3日
日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子