「鶴見事件」第3次再審請求即時抗告棄却決定に関する会長声明
東京高等裁判所第8刑事部(齊藤啓昭裁判長)は、2024年5月31日、いわゆる鶴見事件の第3次再審請求の即時抗告審について、再審請求を棄却した横浜地方裁判所の原決定を是認し、故髙橋和利氏(以下「和利氏」という。)の妻髙橋京子氏(以下「京子氏」という。)による即時抗告を棄却する決定をした。
鶴見事件は、1988年6月20日に発生した強盗殺人事件である。和利氏は、同年7月1日、警察に任意同行を求められ、当初は殺人について否認していたが自白するに至り、逮捕された。和利氏は、殺人については第1回公判から一貫して無罪を主張しており、確定判決は和利氏の自白の信用性を否定したにもかかわらず、情況証拠のみで有罪を認定し、和利氏に対して死刑判決を言い渡した。
和利氏は、2021年10月8日、第2次再審請求の途中で病死し(享年87歳)、京子氏が、和利氏の遺志を引き継ぎ、同年12月24日に第3次再審請求を申し立てたものである。
第3次再審請求審において、弁護人は、①本件の凶器は確定判決が認定した「バール様の凶器」「プラスドライバー様の凶器」ではないとする法医学鑑定、②和利氏以外の真犯人の可能性を示す証拠、③本件現場から採取された黄色ビニール片と黒色小片は、いずれも和利氏に由来するものではなく、真犯人に由来するものであるとする証拠、④和利氏の自白は虚偽であり、和利氏は犯行を体験していない可能性が高いとする心理学鑑定等、多数の新証拠を提出した。
しかし、原決定は、弁護人が提出した鑑定等の新証拠について事実の取調べを行うことなく、また、弁護人が請求していた未開示証拠の開示を検察官に命じることなく、再審請求を棄却した。
そのため、即時抗告審において、弁護人は証拠開示命令の申立てを行い、手続の進行に関する裁判所、検察官及び弁護人の協議(三者協議)の開催を求めていたが、裁判所はこれを一顧だにすることなく、わずか6か月余りの書面審理のみで、即時抗告を棄却したのである。
本決定は、弁護人が提出した新証拠を十分に検討することなく、原決定を無批判に追認して、その証拠価値を否定したものである。また、本決定は、新旧全証拠の総合評価を行っておらず、白鳥・財田川決定の示した判断手法にも反するばかりか、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則にも反しており、到底是認できない。
和利氏は、逮捕されてから33年以上もの長期間にわたり、死刑執行の恐怖の中で身体を拘束されてきたのであり、生存中に救済されるべきであった。和利氏の遺志を引き継いだ京子氏も現在90歳という高齢であり、速やかに再審が開始され、雪冤を果たすことなく他界した和利氏の名誉回復がなされなければならない。
弁護人は、2024年6月10日に最高裁判所に対して特別抗告を申し立てたところであり、当連合会は、引き続き鶴見事件の再審を支援し、再審開始決定及び無罪判決の獲得に向けて、あらゆる努力を惜しまないことをここに表明する。
また、本件のようにえん罪の救済に極めて長い期間を要している等の現状を踏まえ、改めて再審請求手続における証拠開示の制度化、再審開始決定に対する検察官の不服申立て禁止及び再審請求人に対する手続保障を中心とする手続規定の整備を含む再審法改正を早期に実現すべく全力を尽くす決意である。
2024年(令和6年)6月20日
日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子