「送還忌避者のうち本邦で出生した子どもの在留特別許可に関する対応方針について(結果公表)」に対する会長声明
2024年9月27日、出入国在留管理庁は、2023年8月4日に示していた「送還忌避者のうち本邦で出生した子どもの在留特別許可に関する対応方針について」(以下「対応方針」という。)を踏まえた在留特別許可の状況等を公表した(以下「結果公表」という。)。
対応方針の概要は、2024年6月10日(2023年改正入管法の施行日)までに、日本で出生し、小学校、中学校又は高校で教育を受けており、引き続き日本で生活をしていくことを真に希望している子どもとその家族を対象に、原則として、家族一体として在留特別許可をして在留資格を与えるというものである。そして、結果公表によれば、日本に生まれながらも在留資格のない子どもたちで、2022年12月31日時点で退去強制令書が発付されている201人のうち、171人の子どもに在留資格が認められた。
しかしながら、以下に指摘するとおり、当連合会が2023年9月4日付け「「送還忌避者のうち本邦で出生した子どもの在留特別許可に関する対応方針について」に対する会長声明」において懸念を表明した点を含め、複数の問題が現実のものとなっている。
第一に、対応方針の対象が日本で出生した子どもに限定される結果、日本で出生していない子ども94人及び日本で出生したが成人した者は、そもそも対応方針の枠組みから漏れている。本来、どこで生まれたかにかかわらず、日本で育ち、暮らしていることに変わりがなければ、分け隔てをすべきでない。また、18歳を迎えた者であっても、日本で成長し暮らしてきた環境、人格形成過程を保護するとの観点から、日本を「自国」として在留する権利が認められるべきである(自由権規約12条4項についての自由権規約委員会の一般的意見27参照)。
第二に、対応方針の対象となる子どもは小学校、中学校又は高校で教育を受けていることとされていることから、就学年齢に達していない子ども11人が在留資格を得られなかった。しかしながら、日本で生まれ、日本で生活をしている子どもである以上、就学年齢に達しているか否かを問わず、日本での安定した生活が必要不可欠であることに変わりなく、子どもの最善の利益(子どもの権利条約3条)の観点から、在留資格が判断されるべきである。
第三に、対応方針は、日本で生まれた子どもであっても、「親に看過し難い消極事情がある場合」には原則として対象外としており、これを主な理由として、10人もの子どもが在留資格を得られなかった。しかし、子ども自身の在留資格が親の事情によって左右されることは、子どもの権利条約2条が禁止する「差別」にほかならず、子どもを人格主体として尊重することと相容れない。子どもの在留資格は、その親に看過し難い消極事情がある場合でも、それを理由に否定されるべきではなく、子ども自身の最善の利益を検討して判断されるべきである。そして、子どもに在留資格を認める場合に、消極事情を有する親だけを送還させるか否かについては、当該消極事情が親だけを送還して家族結合権(自由権規約17条、23条)を制限することの正当理由となるのかといった比例原則の観点から慎重に判断すべきである。
第四に、対応方針が、2022年12月31日時点で退去強制令書が発付されている子どもを対象としているために、退去強制令書が発付されず、仮放免の状態にある子どもたちは顧みられていないが、これらの子どもたちを対応方針の枠外とする合理的理由はない。
当連合会は、日本で生まれたか否か、年齢の長幼、親の事情といった子ども自身がいかんともし難い事情に影響されず、子ども自身の権利が擁護されるよう、対応方針の適用範囲の拡大を重ねて求めるとともに、子どもが差別されない権利、子どもの最善の利益、家族結合権が、国際条約上保障される権利であることに鑑み、これを機に不透明な在留特別許可の在り方そのものを見直し、国際人権法にのっとった在留特別許可制度の実現を求める。
2024年(令和6年)11月18日
日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子