住居確保給付金の支給要件を抜本的に緩和し、より普遍的な住宅手当制度に発展させることを求める会長声明


住居を失うおそれのある生活困窮者の家賃を援助する住居確保給付金は、極めて厳格な要件のため利用が低迷していたが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた特例措置としての要件緩和に伴い、2019年度には4000件弱にとどまっていた新規支給件数が、2020年度は約34倍の約13万5000件に激増し、2021年度も11倍超の約4万5000件と高止まりし、多くの生活困窮者の生活を下支えする重要な役割を果たしている。


このような状況を踏まえ、本年11月14日に開催された社会保障審議会生活困窮者自立支援及び生活保護部会において、厚生労働省が提示した「生活困窮者自立支援制度及び生活保護制度の見直しに関するこれまでの議論の整理(中間まとめ)(案)」には、上記の特例措置の恒久化に向けて検討を進めていくことが必要である旨の記載がある。具体的には、職業訓練給付金との併給を認める扱いなどを恒久的な仕組みとする方向で制度を見直すとともに、「離職・廃業後2年以内」という要件などについても変更するかどうか検討すると報じられている(本年11月15日付け朝日新聞記事)。


当連合会は、2009年9月18日付け「arrow_blue_1.gif生存権保障水準を底上げする「新たなセーフティネット」の制度構築を求める申入書」、2018年1月18日付け「arrow_blue_1.gif生活困窮者自立支援法の見直しに向けた意見書」及び2020年5月7日付け「arrow_blue_1.gif新型コロナウイルス感染拡大によって家賃の支払に困難を来す人々を支援するため、住居確保給付金の支給要件緩和と積極的活用を求める会長声明」などで、繰り返し、住居確保給付金(旧住宅手当)の支給要件を緩和し、普遍的な住宅施策の下で居住の権利として確立された制度にすることを求めてきたところであるが、今般の厚生労働省の動向は、当連合会の見解とその方向性を同じくする点では評価することができる。


しかしながら、検討の対象とされている見直しでは支給要件の緩和が不徹底であり、住居を失うおそれのある生活困窮者をあまねく支援するにはまだ不十分であると言える。


まず、生活困窮者自立支援法3条3項、6条が、住居確保給付金の支給対象を「離職又はこれに準ずるものとして厚生労働省令で定める事由により経済的に困窮し、」「就職を容易にするため住居を確保する必要があると認められるもの」に限定し、これを受けて、離職後2年以内、誠実かつ熱心な求職活動、離職等の前に主たる生計維持者であったこと等が要件とされていること(生活困窮者自立支援法施行規則10条)が問題である。なぜなら、生活困窮者の中には、高齢者、障がいがある者、傷病者、幼児を育てる一人親など直ちに再就職することが難しい者が多数存在し、これらの者を支給対象から除外する理由はないし、「現に経済的に困窮し、最低限度の生活を維持することができなくなるおそれのある者」(同法3条1項)を生活困窮者として支援対象とする同法の中で、住居確保給付金だけが再就職支援の位置付けとなっているのは同法の趣旨にそぐわないからである。


また、収入基準額(生活困窮者自立支援法施行規則10条3号)は、例えば東京23区(一部を除く。)の場合、単身世帯で13万7700円以下、2人世帯で19万4000円以下と生活保護基準額と大差なく、支給される家賃の上限額(同施行規則11条)も、生活保護の住宅扶助特別基準と同額(単身世帯で5万3700円、2人世帯で6万4000円)であり、同法が支援対象として定義している、最低限度の生活を維持することができなくなる「おそれのある者」をも捕捉する基準設定となっていない。さらに、支給期間(同施行規則12条)も、原則3か月(最大9か月)で、前記の特例措置によっても3か月に限り再支給が認められるにとどまっており、余りにも短い。


そこで、当連合会は、国に対し、例えば、①上述した生活困窮者自立支援法3条3項の支給対象を限定する文言を削除し、同法施行規則の離職後2年以内要件、求職活動要件、主たる生計維持者要件を撤廃して、収入基準、資産基準だけの簡易な制度にした上で、②支給要件を恒久的かつ抜本的に緩和すること(具体的には、収入基準について、当連合会が2019年2月14日付け「arrow_blue_1.gif生活保護法改正要綱案(改訂版)」において住宅扶助について提言しているように、生活保護基準の1.3倍にすることのほか、支給家賃の上限額も生活保護基準の1.3倍にしたり、支給期間を大幅に伸ばしたりする等)によって、より普遍的な住宅手当(家賃補助)制度に発展させることを強く求めるものである。



2022年(令和4年)12月8日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治