独立公文書管理監報告書に関する会長声明


特定秘密の保護に関する法律(以下「秘密保護法」という。)は、国民主権の基盤である知る権利を侵害し、憲法に違反することから、当連合会は同法の廃止を求めてきた。その廃止までの間、特定秘密の過剰な指定や、適性評価制度による過剰な調査等を抑制すべく、同法の運用状況についても意見を表明してきたところである。


秘密保護法の運用状況については、衆参両議院に設置された情報監視審査会が年次報告書を公表しているほか、内閣府独立公文書管理監が毎年、「特定秘密の指定及びその解除並びに特定行政文書ファイル等の管理について独立公文書管理監等がとった措置の概要に関する報告」(以下「報告書」という。)を公表している。2015年12月17日に公表された初回の報告書について、当連合会は、「arrow_blue_1.gif「特定秘密の指定及びその解除並びに特定行政文書ファイル等の管理について独立公文書管理監等がとった措置の概要に関する報告」に対する意見書」(2016年12月16日付け)で、独立公文書管理監が検証・監察の対象とする文書を行政機関が恣意的に選択することがないよう、その選択は独立公文書管理監が行うべきだと提案した。翌年以降、独立公文書管理監は運用を改め、自ら対象文書を選択するようになり現在に至っている。


2022年6月21日、内閣府独立公文書管理監は令和3年度を対象期間とする報告書を公表した。報告書によれば、特定秘密の指定状況が適切かどうかを判断するために、独立公文書管理監は、1つの特定行政文書ファイル等(特定秘密を記録する行政文書ファイル等)につき1件以上の特定秘密文書等(特定秘密が記録された文書等)を選んで確認している(報告書10頁)。その結果、防衛省において特定秘密でない情報のみが記録されている文書1件について特定秘密表示をしているものがあり、防衛大臣に当該表示を抹消するよう是正を求め、防衛省がこれに応じたとある(報告書11頁)。


独立公文書管理監の検証・監察の実情からすると、これは偶然発覚した一事例に過ぎないと推察される。独立公文書管理監が検証・監察していない文書の中に同様の文書がないとは断定できない。特定秘密を保有する全ての行政機関は、同様な表記がないか、組織内において総点検すべきである。


また、特定行政文書ファイル等内の文書等件数はファイル毎に様々であろうことからすると、独立公文書管理監は、文書等件数が多いファイルや、1ファイル内の文書等の記述が類型的でないものについては、検証・監察の対象を多くするよう努めるべきである。


特定行政文書ファイル等の保存期間満了時の措置は、公文書等の管理に関する法律8条2項の規定に従って行われることになっており、廃棄予定の文書については事前に内閣総理大臣に協議し、その同意を得なければならないことになっている。


独立公文書管理監は、各行政機関が内閣総理大臣に協議する前に、「行政文書の管理に関するガイドライン」の「別表第2 保存期間満了時の措置の設定基準」(以下「ガイドライン別表第2」という。)を踏まえて、当該行政機関が設けている行政文書管理規則に即した判断を行っているか検証・監察することになっており、対象ファイル計404件(文書件数計2,938件)の提供を受け内容を確認し、全ての廃棄を妥当とした(報告書14頁)。前年の報告書においても、対象ファイル計43件(文書件数計1,706件)の提供を受け内容を確認し、全ての廃棄を妥当とした。このような運用からすると、今後も保存期間が満了した特定行政文書ファイル等はことごとく廃棄され続け、将来、過去の特定秘密文書等を歴史的に検証することが不可能になる。


特定秘密文書等が現用文書として利用されている時期において、国民に知らせないことが国民主権の観点から極めて例外的であることからすれば、せめて将来における検証が可能となるようにしておくことが、現在及び将来の国民に対する国の最低限の責務である。したがって、各行政機関及び独立公文書管理監においては、保存期間を満了した特定秘密文書等は原則として、ガイドライン別表第2の「【Ⅰ】国の機関及び独立行政法人等の組織及び機能並びに政策の検討過程、決定、実施及び実績に関する重要な情報が記録された文書」に該当するものとして、国立公文書館に移管する運用を行うべきである。


独立公文書管理監は、検証・監察の過程において、各行政機関からの説明聴取や実地調査を頻回に実施し、特定秘密を記録した文書等3,261件を確認している(報告書16頁)。報告書には確認を拒否されたという記述はない。これに対して、これまでの衆参両議院の情報監視審査会の年次報告書によれば、各行政機関から十分な説明を受けられておらず、また、特定秘密文書等の提供確認も行えていないことがうかがわれる。このような事態は、情報監視審査会が国民に代わって特定秘密制度の運用をチェックすべき組織として衆参両議院において特別に設置されたものであることからすれば、本来あってはならない事態である。各行政機関は、情報監視審査会に対して十分な説明を行うとともに、特定秘密文書等の提出を求めた場合には速やかに提出するよう運用を改めるべきである。



2022年(令和4年)10月18日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治