「姫路郵便局強盗事件」差戻し審・特別抗告棄却決定に対する会長声明


最高裁判所第一小法廷(山口厚裁判長)は、本年3月30日、いわゆる姫路郵便局強盗事件再審請求事件の差戻し・特別抗告審において、弁護人の特別抗告を棄却する決定(以下「本決定」という。)をした。


本件は、2001年(平成13年)6月19日、兵庫県姫路市内の郵便局に、目出し帽、雨合羽等を着用した2人組が押し入り、2275万円余りの現金を強奪した事件である。請求人であるナイジェリア男性(以下「請求人」という。)は、直接証拠のない中で、実行犯の一人として逮捕・起訴された。請求人は、逮捕時から自らの無実を主張したが、実行犯の一人であるとされ、懲役6年の有罪判決が確定した。これに対し、当連合会は本件再審請求の支援を行ってきた。


本件は請求人の犯人性が唯一の争点である。この点、再審請求以降、請求人が使用・管理していた倉庫内から被害品である現金や犯行に使用された自動車等が事件発生後間もなく発見されたという事実等に基づき請求人が実行犯であることが推認できるかどうか、これに対して弁護人が提出した各種証拠が再審を開始するための新たな証拠にあたるかどうかが主に争われていた。


差戻し前・第一審(神戸地方裁判所姫路支部)は、再審請求自体は棄却したものの、「請求人が本件強盗の実行犯人の一人ではないと立証できたとしても、請求人が本件強盗の犯人の一人であるとの強力な推認が妨げられるわけではない」との判断をしたため、その即時抗告審(大阪高等裁判所)は、「原裁判所が、申立人の実行共同正犯以外の共犯を含めた犯人性について、何ら争点を顕在化するための措置を講じず、当事者に主張、立証の機会を与えなかったことは、刑訴規則286条の趣旨等に照らし、申立人に不意打ちを与え、申立人の防御権を侵害する違法なものといわなければならない」として、神戸地方裁判所に差し戻した。しかしながら、差戻し後・第一審(神戸地方裁判所)も、その即時抗告審(大阪高等裁判所)も、確定審段階の証拠との横断的・総合的な考察を加えることなく、結局は再審請求段階における弁護人提出証拠の個別評価に終始して請求人の実行犯人性について疑いが生じる余地を否定した。そして、本決定は、何ら実質的判断をすることなく、その判断を追認したのである。


再審請求段階における弁護人提出証拠は、請求人の実行犯人性について、一旦は確定審判決の証拠構造や推認過程に合理的な疑いを与えた。それにもかかわらず、本決定に至るまでの裁判所の認定判断は、「疑わしいときは被告人の利益に」の原則が適用されることを明言した白鳥・財田川決定や、無辜の救済という再審制度の趣旨を根底から否定するものである。


また、本件では、捜査機関の下には、犯人を特定するに足りる指掌紋、毛髪及び体液等の証拠物のほか、これらについての鑑定結果を記載した科学的証拠が未提出のまま多数存在するはずである。しかしながら、再審請求以来、検察官に対する証拠開示の勧告等は一度もなされたことがなく、このことも無視することはできない。


当連合会は、引き続き本件に対する今後の対応を検討する所存である。



 2022年(令和4年)4月13日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治