参議院情報監視審査会年次報告書に関する会長談話


2021年12月10日、参議院情報監視審査会は、「年次報告書(令和3年12月)」を参議院議長に提出した。


同年次報告書で、同審査会は、「特定秘密の指定が適切であっても、対象情報の拡大解釈等により過剰に特定秘密文書とされていないかといった懸念があることを踏まえ、特定秘密の新規指定や有効期間の延長があった場合、内閣府独立公文書管理監は検証・監察において、実際に当該特定秘密文書の提示を受け、特定秘密とされる情報が妥当な範囲に収まっているか確認すること」が必要であると指摘している。


この点、政府の公表によれば、令和元年末で、特定秘密が記録された行政文書(以下「特定秘密文書」という。)の保有件数は政府全体で48万5108件だったのに対して、独立公文書管理監が確認した特定秘密文書は、令和元年度が3878件、令和2年度が1944件で、全体の1%にも満たない。そうだすると、独立公文書管理監が実際にチェックできている対象情報は全体のごくわずかだということであり、特定秘密が記録されていないのに特定秘密文書として指定されている文書が少なからず存在している可能性がある。


実際にも、同年次報告書のための調査の対象となった、2020年6月19日公表の令和元年度の「特定秘密の指定及びその解除並びに特定行政文書ファイル等の管理について独立公文書管理監等がとった措置の概要に関する報告」(以下「独立公文書管理監報告」という。)によれば、内閣官房の1部署及び防衛省の5部署で、特定秘密でない情報のみが記録されている文書(内閣官房1件及び防衛省7件)について、特定秘密表示をしていたとのことである。また、2021年6月24日に公表された令和2年度の独立公文書管理監報告でも、海上保安庁の1部署において、特定秘密でない情報のみが記録されている文書(1件)について、特定秘密表示をしていたとされている。


よって、独立公文書管理監は、新規指定や有効期間の延長時にとどまらず、確認する特定秘密文書の数を大幅に増やし、適切な検証、監察を行うべきである。


また、独立公文書管理監報告は、上述した文書が、特定秘密が記録されていないにもかかわらず特定秘密文書とされた原因ないし経緯について触れていない。仮に、恣意的な拡大解釈がなされたのであれば、意図的に国民の知る権利を侵害したことになる。手続上のミスであるならば、同様のミスが独立公文書管理監が確認していない特定秘密文書の中に相当数存在し、国民の知る権利が侵害されている可能性を否定できない。特定秘密文書は、原則として特定秘密を取り扱う業務に従事する者しか見ることができないから、国民には拡大解釈や手続上のミスの有無を判別することはできない。


そこで、独立公文書管理監は、こうした事態が生じた原因についても検証し、公表すべきである。



 2022年(令和4年)3月17日

日本弁護士連合会
会長 荒   中