刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会「取りまとめ報告書」に関する会長談話


法務省が設置した刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会が、2022年(令和4年)3月15日に開催され、報告書が取りまとめられた。


報告書においては、「刑事手続における情報通信技術の活用は、刑事手続に携わる者の負担を軽減し、その合理化に資するものであるが、それのみを目的とすべきではなく、『公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする』(刑事訴訟法第1条)刑事手続の円滑かつ適正な実施に資するために、そして、被疑者・被告人、被害者をはじめとする国民について、捜査・公判に関与する負担を軽減し、それらの者の権利利益(憲法上保障されたものを含む。)の保護・実現に資するために活用されるべきである」との認識のもと、「書類の電子データ化、発受のオンライン化」及び「捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」について、考えられる方策が示されている。


もとより、情報通信技術は、刑事手続の円滑かつ適正な実施及び被疑者・被告人や被害者をはじめとする国民の権利利益の保護・実現に資するために活用されるべきであるとの基本的認識に異存はない。また、ビデオリンク方式による接見交通、証拠開示のオンライン化など、被疑者・被告人の弁護人の援助を受ける権利を含む憲法上保障された国民の権利利益の保護・実現に資する場面は想定できるから、報告書の基本的方向性には賛同できる。もっとも、対面による手続とビデオリンク方式による手続との間には事実上の差異があることは否定できないから、証人尋問や勾留質問等をビデオリンク方式に代替することにより、被疑者・被告人の証人喚問権・証人審問権や公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利などの憲法上保障された権利を制約することはあってはならないことである。


このような観点から見ると、報告書は、ビデオリンク方式による接見交通を被疑者・被告人の「権利」と位置付けていない点において不十分であることは否めないが、「もとより、身体の拘束を受けている被疑者・被告人にとって、刑事施設・留置施設が弁護人等の法律事務所から遠く離れている場合等を含め、弁護人等の援助を受けることは重要な権利である」「被疑者・被告人との接見交通について、非対面・遠隔でも行うことができるようにするため、情報通信技術を活用することが考えられる」との認識を前提に、今後、関係機関において「更なる協議が進められることが期待される」と整理されている。また、オンラインによる証拠開示は、「その『閲覧』・『謄写』は、電子データのまま行うこととすることが合理的であると考えられる」と整理されており、例外的な場合を除いて、オンラインによる証拠開示が実現することが期待できる。また、情報セキュリティ確保のための方策が「防御権や弁護権を不当に制約するものとなることがあってはならないことはもとより当然である」と整理されている。他方で、証人尋問や勾留質問等は対面により行うのが原則であると整理されており、ビデオリンク方式により行うことができるのは例外的な場合に限定されている。そうすると、被疑者・被告人の権利利益の保護・実現に資するものであると評価することができる。


それゆえ、当連合会は、報告書の取りまとめには賛同する。今後、取りまとめを受けた刑事訴訟法等の改正の議論が開始された際には、以上の観点を踏まえた上で、情報通信技術が国民の権利利益の保護・実現のために活用されるようにすることを求めるとともに、証人喚問権・証人審問権などの憲法上保障された権利が制約されることのないよう、慎重な検討を求めていく。また、あらゆる場合において、弁護人の援助を受ける権利を実現するため、ビデオリンク方式による接見交通に関しては、速やかに、関係機関による協議が開始されることを求めていく所存である。



 2022年(令和4年)3月15日

日本弁護士連合会
会長 荒   中