旧優生保護法国賠訴訟の大阪高裁判決を受けて一時金支給法の見直しを求める会長声明
本年2月22日、大阪高等裁判所第5民事部は、旧優生保護法に基づいて実施された強制不妊手術に関する国家賠償請求訴訟の控訴審において、国に対し、被害者である控訴人らに対して賠償金の支払を命じる判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。
本判決は、全国各地で提起されている旧優生保護法国家賠償請求訴訟に関する最初の高等裁判所判決であるとともに、原告(控訴人)の請求を認めた初めての勝訴判決である。
これまで、仙台、東京、大阪、札幌、神戸の各地方裁判所では、旧優生保護法自体又は同法に基づく不妊手術が違憲であることを認めながらも、訴訟提起時には、改正前民法724条後段の除斥期間が経過していたことを理由に、原告の請求を棄却してきた。
本判決は、旧優生保護法によって「不良」であるとの烙印を押され、社会的な差別・偏見を受けることへの危惧感から司法へのアクセスが著しく困難となっていた被害者に対して、除斥期間の適用をそのまま認めることは著しく正義・公平の理念に反するとして、除斥期間の適用を制限したという点で、画期的意義がある。
また、本判決は、強制不妊手術を受けた被害者の配偶者についても、「配偶者との子をもうけるか否かという幸福追求上重要な意思決定の自由を妨げられ」たとして、慰謝料請求を認めた。これは、子どもをもうけ育てるかどうかを自由に決定する権利の侵害が、被害者本人だけでなく、人生をともにする配偶者に対しても重大な権利侵害となることを認めたものであり、権利の性質を正当に評価した判断である。
旧優生保護法下で行われた強制的な不妊手術に関しては、2019年4月24日に「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」(以下「一時金支給法」という。)が成立した。同法の前文には、旧優生保護法の被害者に対して、「我々は、それぞれの立場において、真摯に反省し、心から深くおわびする。」と記載されている。また、同日、内閣総理大臣は、「政府としても、旧優生保護法を執行していた立場から、真摯に反省し、心から深くお詫び申し上げます。」との談話を発表した。
国は、旧優生保護法の被害について真摯に反省し、心から深くおわびする以上、本判決を速やかに確定させた上で、一時金支給法の見直しを行うべきである。
一時金支給法は、被害者が高齢となる中で、被害の早期回復を実現したという点で意義があった反面、被害回復を充実させるという観点からは、内容に不十分な面があった。
本判決では、一時金支給法で定められている一時金の額を超える慰謝料額が認められていること、被害者の配偶者による請求が認められていることなども踏まえ、国は、速やかに一時金支給法の内容を充実させるべきである。
そして、一時金支給法の申請件数が少ない現状に鑑み、国は、一時金支給法の申請期限を十分な期間に延長するとともに、被害者の特性等に配慮した情報提供の在り方等について早急に検討の上、一人でも多くの被害者に被害回復の途が開かれるよう積極的な対応を行うべきである。
当連合会は、今後も、一時金支給法の適正な見直しがなされ、あまねく被害回復がなされるよう必要な提言を適時行っていくとともに、旧優生保護法により侵害された尊厳の回復を含む真の被害回復の実現に向けて、真摯に取り組んでいく所存である。
2022年(令和4年)3月3日
日本弁護士連合会
会長 荒 中