刑事収容施設における感染拡大の防止を求める会長声明


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令和2年4月7日、日本政府により、新型コロナウイルス感染症を対象とする新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき、7都府県を対象とする緊急事態宣言が発令され、同月16日、その対象地域が全国に拡大された。新型コロナウイルス感染症は、全国で蔓延する状況が見られる。


刑事収容施設(刑事施設、留置施設及び海上保安留置施設)は、一般的に窓が少なく、また、狭い空間内に多数の者を所在させざるを得ない場合が多いことから、恒常的に、いわゆる「3密」(密閉空間、密集場所、密接場面)を避けることが困難な状態にある。


このような刑事収容施設に新型コロナウイルス感染者が現れた場合、施設内において集団的な感染を招く危険性が高く、多数の被収容者、被留置者及び海上保安被留置者(以下「被収容者等」という。)に健康上重大な被害を引き起こしかねない。


新型コロナウイルス感染者の中には、無症状又は極めて軽い症状を呈するにとどまる者も多く、刑事収容施設における集団的な感染を防止するためには、感染者が重症化し、PCR検査により陽性の判定を受けてから対応するのでは、手遅れである。


刑事収容施設内でゾーニングや消毒の徹底等の措置が講じられるとしても、実際には、マスクも支給しないまま、数名を同室に収容している施設もある。また、そのような措置だけで集団的な感染を防止するのに十分でないことは、刑事収容施設での感染例が増えていることのほか、多くの医療施設での院内感染の例からも明らかである。集団的な感染を防止するためには、刑事収容施設内での「3密」を可能な限り低減することが急務であり、そのためには、現状の刑事収容施設の収容能力に照らせば、被収容者等の人数を抑えることが必要である。


以上の点を踏まえ、法務省、検察庁、海上保安庁及び各都道府県警察本部に対し、次の3点を求める。


1 身体の拘束により被疑者が受ける健康上の不利益(生命身体の危険)が著しく増大していることを考慮して、事案ごとに逮捕・勾留の必要性を厳格に吟味し、可能な限り、逮捕・勾留を回避したり、既に逮捕・勾留されている被疑者を釈放したりする等して、在宅での捜査を行うこと。


2 刑事収容施設内での感染拡大防止のため、可能な限り1人1室で処遇し、 刑務官及び留置担当官等との近接を最小限にし、消毒や換気を徹底するなど、最大限の防止策を講じること。


3 被収容者等に新型コロナウイルス感染が疑われる症状が現れた場合には、速やかに医療機関で受診させるなどして、生命身体の安全の確保と感染拡大防止のための最大限の措置を講じること。


 2020年(令和2年)4月23日

日本弁護士連合会
会長 荒   中