「松橋事件」検察官の特別抗告に対する会長声明

いわゆる「松橋(まつばせ)事件」の再審開始決定を維持し検察官による即時抗告を棄却した福岡高等裁判所第1刑事部の決定に対して、本年12月4日、検察官が特別抗告の申立てをしたことは、誠に遺憾である。


本件再審開始決定は、申立人と犯行を直接結び付ける証拠は、捜査段階における自白以外に存在しないと認めた上で、弁護人らが提出した多くの新証拠に新規性を認めた。そして、明白性の判断において、新証拠に基づき申立人の自白の核心となる部分が動揺し、確定判決の事実認定には合理的疑いが生じているとして、再審開始を決定した。


即時抗告審においても、新旧証拠の総合評価により、再び申立人の自白全体の信用性が否定され、再審開始決定が維持されたのである。


この決定につき、当連合会は、去る11月29日、検察官に対し、特別抗告をすることなく速やかに再審公判に移行させるよう求めていたところである。


再審開始決定に対する検察官の不服申立ては、無辜の迅速な救済という再審制度の理念に反しており、禁止されるべきである。検察官に望まれるのは、公益の代表者として、この決定を謙虚に受け止め、再審開始後の審理において公正な裁判を実現することである。審理の開始自体に異を唱える特別抗告は、いたずらに審理を長引かせるだけである。申立人は、今年84歳の高齢となっており、再審無罪判決による権利救済には、もはや一刻の猶予も許されない。


当連合会は、一日も早く再審開始決定を確定させ、再審公判において迅速に審理の上、無罪判決が言い渡されるよう強く求める。


 

  2017年(平成29年)12月14日

日本弁護士連合会      

 会長 中本 和洋