平成29年4月付け「独占禁止法研究会報告書」に対する会長声明
裁量型課徴金制度の在り方について検討していた独占禁止法研究会から、今般、報告書(以下「本報告書」という。)が提出された。本報告書では、企業形態のグローバル化等に対応し、調査協力インセンティブを付与するために、課徴金について硬直的な算定・賦課方式を見直し、一定の柔軟性を認めること等が提案されている。
本報告書において提案されている裁量型課徴金制度については、事業者の調査協力度合いに応じて課徴金を減算し、検査妨害罪やそれに準ずるような一定の調査妨害行為を行った場合に課徴金を加算するという方向性については、積極的に評価できる。また、事業者から提出された証拠の評価方法及び減算の程度等について事前に公表することについても、賛成である。調査妨害行為の範囲については今後の検討に委ねられるであろうが、単に調査に協力しなかったという不作為について調査妨害行為として課徴金の加算行為とすべきではない。
手続保障について、かねてから当連合会は、独占禁止法調査手続における防御権保障の必要性を指摘し、同研究会が新制度との『見合い』で手続保障を検討し、また防御権の確保と実態解明機能を対立的に見ることに対して、その検討枠組み自体の問題を指摘していた。本報告書において、仮に当該枠組みを前提とするならば、「弁護士とその依頼者(事業者)との間のコミュニケーション…秘匿特権」について運用において配慮する旨の記載がなされたことに評価の余地はあろうが、「新たな課徴金減免制度の利用…に限定して」「実態解明機能を損なわない範囲に」「運用において」「配慮する」という限られた範囲においてしかこれを認めないのは、検討枠組みの限界を示すものであり、依頼者と弁護士の通信秘密保護の必要性と趣旨を理解しない提案と言わざるを得ない。
さらに、本報告書においては、供述聴取への弁護士の立会い、供述聴取の録音・録画、供述録取時におけるメモ取り等については、従来どおりこれを認めないこととされているが、これらの制度は手続の適正化を担保するために必要であるとともに、実態解明にも資するものである。
当連合会は、依頼者と弁護士の通信秘密の保護をはじめとする防御権の保障を国際標準に近づけることが喫緊の課題であること、そのような手続保障が不十分なままでの裁量型課徴金制度の導入は問題が大きいことを改めて指摘する。本報告書を踏まえた立法等の過程においては、秘匿特権をはじめとする上記の各制度についても、これらの本来の趣旨を十分に尊重した制度が実現されるよう重ねて求める。
2017年(平成29年)4月25日
日本弁護士連合会
会長 中本 和洋