女性差別撤廃委員会の総括所見に対する会長談話

国連の女性差別撤廃委員会(以下「委員会」という。)は、2016年3月7日、国連女性差別撤廃条約(以下「条約」という。)の実施状況に関する第7回及び第8回日本政府報告書に対して、総括所見を発表した。

委員会は、前回の総括所見発表からの6年間余に、日本で行われたいくつかの女性関連法案の成立、第3次及び第4次男女共同参画基本計画等の諸計画の策定、障害者の権利に関する条約や強制失踪条約の批准について、前向きの要素として評価した(4項ないし6項)。

他方で、51項にわたる懸念事項と勧告を発表した。

まず、委員会は、条約の完全実施を確保する上での立法権の極めて重要な役割を強調し、国会に対し、その権限にしたがって、条約に基づく次回報告期限までの間の本総括所見の実施について、必要な措置を採るよう求めた(7項)。

委員会は、国内の女性差別の問題として、女性差別についての包括的な定義の採用(10、11項)、夫婦同氏の強制及び女性の再婚禁止期間等に関する民法改正、マイノリティ女性に対する包括的な差別禁止法の制定(12、13項)等を勧告した。

また、差別撤廃の制度的な措置として、裁判所が条約の直接適用可能性を否定していることに懸念を示した。個人通報制度を含む選択議定書の批准、法曹等の教育・研修(8、9項)、国内人権機関の設置(14、15項)、内閣府男女共同参画局の強化(16、17項)等についても勧告した。

さらに、委員会は、有害な慣行や暴力・搾取の解消に関して、差別的なステレオタイプや性暴力を助長する商品の規制その他の有害な慣行の是正(20、21項)、性犯罪規定についての速やかな刑法改正(22、23項)、人身取引や買春による搾取に対する規制及び施策の強化(26、27項)、日本軍「慰安婦」問題について被害者の効果的救済等の提供(28、29項)等を勧告した。

その他、政治的・公的活動分野での平等な参画に向けた暫定的特別措置の適用(30、31項)、女性の教育に対するアクセスの保障(32,33項)、雇用・労働分野での構造的不平等の解消と同一価値労働同一賃金原則の実施、セクシュアル・ハラスメントの救済及び雇用差別についての司法アクセスの保障(34、35項)等を勧告した。

上記のうち、ほとんどの項目は前回の総括所見においても勧告がなされていることに留意すべきである。今回の総括所見では「以前の勧告」が履行されていないという指摘が十か所程度なされ、さらに各項目について前回よりも踏み込んだ勧告がなされた。

他方、新たに、災害関連の事項が加わり、福島第一原子力発電所事故汚染地域での避難指示解除に関する国際基準適合性の再確認や女性への医療等の提供(36、37項)、災害場面での女性の参画(44、45項)等が勧告された。さらに貧困削減等の経済的・社会的分野の取組(40、41項)に関して、母子世帯・寡婦・障がいを持つ女性・高齢女性のニーズへの配慮、年金制度の見直し等が勧告された。また、離婚の際の経済的不平等の解消(48、49項)に関して、財産分与の基準となる包括的規定の採用、協議離婚における監護や養育費に対する司法的チェック、養育費の支払いを通じた経済的ニーズの充足等が求められた。

そして、委員会は、前回の勧告においてもフォローアップ事項であった女性の婚姻適齢の引き上げ、選択的夫婦別氏及び女性に対する再婚禁止期間の廃止(13項(a))、マイノリティ女性に対するヘイトスピーチ等を禁止する法の制定(21項(d))及び差別的なジェンダーのステレオタイプや偏見を根絶する取組の効果の監視と評価(21項(e))の3項目をフォローアップの対象とし、2年以内に日本政府の報告を求めている。

この勧告は、条約そのものによって設置された条約の解釈に責務を負う委員会による権威ある所見であり、当連合会は、日本政府が誠意をもって受け止め、優先課題として実現することを求めるものである。当連合会は上記勧告事項の大半について意見書等に盛り込み、実現のための活動を重ねており、引き続きその実現に向けて努力していく所存である。

2016年(平成28年)3月16日

        日本弁護士連合会

       会長 村 越   進