公文書管理法に基づき政府における意思形成過程等の情報を適切に管理することを求める会長声明

2015年9月28日、憲法第9条の解釈変更により集団的自衛権の行使を認めた2014年7月の閣議決定に関し、内閣法制局は、同決定案文の審査を依頼され、翌日「意見なし」と回答したにもかかわらず、内部検討の経緯を記した議事録等を公文書として残していなかったことが報道された。


また、本年2月17日の報道により、内閣法制局が、上記閣議決定に関連し、組織的に国会審議に備えた想定問答の文書を作成していながら、国会からの文書開示の要求があったにもかかわらず、国会に提出していなかったことも明らかになった。この報道に対して、内閣法制局長官は、同月18日の参議院決算委員会で、長官の段階で差し戻した想定問答の存在は認めた一方で、当該想定問答は組織的に用いるものではないため、公文書に当たらないと答弁した。


当連合会は、これまで、「公文書管理法の改正を求める意見書」(2013年11月22日付け)等において、公文書等の管理に関する法律(以下「公文書管理法」という。)の重要性及び改正の必要性を指摘してきた。同法における「行政文書」とは、「行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書(中略)であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているもの」である(同法第2条第4項)。したがって、上記想定問答は、行政機関の職員たる担当者が作成し、内閣法制局がアクセスできるサーバー内の共有フォルダに保存されているということであるから、保存データ自体が同法における「行政文書」に該当する。たとえ、内閣法制局長官が最終的に承認しなかったとしても、これ以外に意思決定に至る議事録等が存在しない状況においては、当該保存データ自体が、不承認とした法制局長官の判断に係る独立した「行政文書」すなわち公文書に当たる。


また、公文書管理法第4条は、行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程等についての文書を作成するよう求めている。よって、憲法第9条の解釈変更を行った上記閣議決定について、政府の法令解釈を司る内閣法制局が内部の検討過程を公文書として作成及び管理していないことは、公文書管理法第4条に明らかに反していると言える。そして、上記想定問答についても、内閣法制局が当該想定問答を使えないものと判断したのであれば、そのこと自体が記録に留めておくべき意思決定であり、承認されなかった想定問答も経緯に関する公文書として管理しなければならない。


上記各報道に加えて、本年2月24日、2008年に成立した国家公務員制度改革基本法の第5条第3項に規定されている国家公務員と国会議員との接触に関する記録について、11省で1通も作成されていなかったことが報道された。


国家公務員と国会議員の接触に関しては、「政官関係の透明化を含め、政策の立案、決定及び実施の各段階にお
ける国家公務員としての責任の所在をより明確なものとし、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資するため」に接触に関する記録の作成義務が国家公務員制度改革基本法第5条第3項に明記されていることを踏まえれば、内容にかかわらずいかなる接触も全て記録して開示するのは当然である。しかるに、所管庁の内閣人事局は、「不当な要求があった時のみ記録する」という独自の解釈を行うことにより、「不当な要求」はなかったとして記録を作成していなかったとのことであり、このような解釈運用は、何が「不当」であるかを主観的ないし恣意的に判断することによって、記録化を意図的に回避するものであり、国家公務員制度改革基本法第5条第3項及び公文書管理法第4条の趣旨を没却していると言わざるを得ない。


以上のように、政府の公文書管理に関する姿勢は、自らの活動の記録を作成・保管・開示することに極めて消極的
であり、公文書管理法の目的(同法第1条)からかけ離れている。このような姿勢は、我が国の政府活動に対する国内外の信用という観点から、極めて由々しい事態である。


したがって、当連合会は、公文書管理を巡る近時の状況について、政府が公文書管理法等の趣旨に反する違法な対応をしていることを強く指摘し是正を求めるとともに、当連合会の上記各意見書の提言に沿って、実効性ある適切な公文書管理を行うよう求める。

 

 

2016年(平成28年)3月10日

日本弁護士連合会

会長 村 越   進