少年の実名等報道を受けての会長声明

本年2月10日発売の「週刊新潮」は、2015年2月20日に神奈川県川崎市で中学1年生男子の遺体が発見された事件(以下「本事件」という。)について、被告人である少年の実名を挙げ、顔写真を掲載した。

 

これは、少年の犯行について氏名、年齢等、本人と推知することができるような記事又は写真の報道を禁止した少年法61条に反する事態であり、誠に遺憾である。

 

少年法は、少年が成長途中の未成熟な存在であることに鑑み、「健全育成」すなわち少年の成長発達権保障の理念を掲げている(1条)。凶悪重大な少年事件の背景にも、少年の成育歴や環境など複雑な要因が存在しており、少年のみの責任に帰する厳罰主義は妥当ではない。そして、少年による事件については、本人と推知できるような報道がなされると、少年の更生と社会復帰を阻害するおそれが大きいことから、事件の内容や重大性等に関わりなく、そのような報道を一律に禁止しているのである。

 

国際的に見ても、子どもの権利条約40条2項は、刑法を犯したとされる子どもに対する手続のすべての段階における子どものプライバシーの尊重を保障し、少年司法運営に関する国連最低基準規則(いわゆる北京ルールズ)8条も、少年のプライバシーの権利は、あらゆる段階で尊重されなければならず、原則として少年の特定に結びつき得るいかなる情報も公開してはならないとしている。

 

この点、少年の実名等の報道については、2000年2月29日大阪高裁判決は、報道機関の民事上の賠償責任までは認めなかったが、同判決は、少年法61条の趣旨を尊重した抑制的な対応を報道機関に求めており、同判決を根拠に少年の実名等の報道を正当化できるものではない。また、現実には報道以外のネット上で、既に実名等の情報が拡散されているが、それ自体がプライバシー権の侵害であること、さらには、被害者側が実名等で報道されることとの対比なども議論されているところ、名誉・プライバシー権保護の理念は、被害者とその遺族についても尊重されなければならず、これらのことも少年の実名等の報道を認める根拠となり得ない。

 

もとより、憲法21条が保障する表現の自由が極めて重要であるとしても、少年の実名等が報道に不可欠な要素とはいえない。事件の背景・要因を正確かつ冷静に報道することこそ、同種事件の再発を防止するために不可欠なことである。

 

当連合会は、2007年11月21日付けで「少年事件の実名・顔写真報道に関する意見書」を発表したほか、これまでなされた同様の報道に対し、少年法61条を遵守するよう重ねて強く要請してきた。特に、本事件に関する「週刊新潮」による実名報道・写真掲載については、2015年3月5日付け「少年の実名等報道を受けての会長声明」でも実名報道・写真掲載をすることのないよう要請していたところである。それにもかかわらず、今回同じ事態が繰り返されたことは極めて遺憾であると言わざるを得ない。

 

当連合会は、改めて報道機関に対し、今後同様の実名報道・写真掲載をすることのないよう要請する。

 



2016年(平成28年)2月29日

日本弁護士連合会

会長 村 越   進