「独占禁止法審査手続についての懇談会報告書」に関する会長声明

 

2005年(平成17年)及び2009年(平成21年)の独占禁止法改正により公正取引委員会(以下「公取委」という。)の審査及び執行権限が大幅に強化されたが、当連合会は、2006年以来、事情聴取の際の可視化、証拠開示の拡大、弁護士・依頼者間秘匿特権の導入、審査手続における適正手続の保障を求めてきた。


2013年(平成25年)改正法附則16条において、「事件関係人が十分な防御を行うことを確保する観点から検討を行い、公布後1年を目途に結論を得て、必要があれば所要の措置を講ずるものとする」とされ、衆議院経済産業委員会の2013年11月20日付け附帯決議で、「事業者側の十分な防御権の行使を可能とするため、諸外国の事例を参考としつつ、代理人の立会や供述調書の写しの交付等の実施について我が国における刑事手続や他の行政手続との整合性を確保しつつ前向きに検討する」とされた。


これらを受けて、独占禁止法審査手続についての懇談会(以下「懇談会」という。)が設置され、2014年6月12日付けで「独占禁止法審査手続に関する論点整理」(以下「論点整理」という。)がパブリックコメントに付され、2014年12月24日に「独占禁止法審査手続についての懇談会報告書」が取りまとめられたところである。


当連合会は、論点整理に対し、公取委の審査手続における被処分者の防御権確保のための方策として、弁護士・依頼者間秘匿特権の導入、供述聴取時の弁護士の立会い、録画等による供述聴取の可視化、立入検査時の提出資料の謄写、供述調書写しの供述人への交付、供述聴取時の供述人のメモの録取、公取委の審査に関するマニュアルの公表等を求めてきた。


とりわけ、弁護士・依頼者間秘匿特権の導入について、当連合会は、弁護士・依頼者間の自由かつ率直な交信を保護することでコンプライアンスが促進されること、及び、近時、各国独占禁止法の国際的執行が活発となる中で、弁護士・依頼者間秘匿特権がないために日本企業が他国企業よりも米国民事訴訟やその他諸手続等で不利な取扱いを受ける危険性があることを指摘してきた。また、全米法曹協会、欧州弁護士会評議会のほか多数の海外弁護士会及び法律事務所からも、弁護士・依頼者間秘匿特権の必要性を説く意見が寄せられていた。


しかしながら、今回の報告書は、①立入検査時に一定事項を告知することを明記した指針、②供述聴取の性格、休息時間における弁護士との相談、審査官の対応への苦情受付等の仕組みの整備について明記した指針及び③標準的な審査手続の指針の策定、公表に言及するに止まり、弁護士・依頼者間秘匿特権の導入を認めず、供述聴取時の弁護士の立会いや録音等の可視化にも踏み込まなかった。同報告書は、2013年改正法の趣旨及び前記附帯決議の趣旨にも反するもので、遺憾というほかない。


当連合会は、引き続き、公取委の審査及び執行手続において、弁護士・依頼者間秘匿特権の導入等、被処分者の十分な防御のための手続保障が実現されるよう、強く求めるものである。


 


 2014年(平成26年)12月25日

  日本弁護士連合会
  会長 村 越  進