接見室内での写真撮影に関する国家賠償請求訴訟判決についての会長談話
本年11月7日、東京地方裁判所民事39部は、弁護人である原告が東京拘置所の接見室内で被告人と面会した際、被告人の様子がおかしかったことから、その状況を証拠収集の目的で写真撮影したところ、拘置所職員から撮影した写真の削除を求められるとともに、これを拒否したことにより接見を中止させられたことに対し、これらの行為が接見交通権を侵害するとして国家賠償を求めていた事件について、国に金10万円を支払うことを命じる判決を言い渡した。
判決は、接見時における写真撮影一般が刑事訴訟法39条1項の「接見」に含まれるかの明確な判断はせず、写真撮影は、罪証隠滅のおそれを生じさせるほか、未決拘禁者のプライバシー侵害や刑事施設の保安・警備上支障が生じる等の国の主張を排斥した上で、本件拘置所の行為が刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「収容法」という。)117条が準用する113条1項に違反し、違法であると判示した。
刑事訴訟法39条1項のいう「接見」は、身体を拘束された被疑者・被告人(以下「被疑者等」という。)が弁護人からの助言を受け、有効に防御権を行使するための大前提であり、弁護人にとっても弁護活動の全ての出発点となるものである。また、刑事訴訟法39条1項の規定について、大阪地方裁判所平成16年3月9日判決(控訴審である大阪高等裁判所平成17年1月25日判決も同旨)は、「被告人等と弁護人とが口頭での打合せ及びこれに付随する証拠書類等の提示等を内容とする接見」の秘密性を保障するものであると判示しており、過去の裁判例でも「接見」を口頭での意思連絡に限定しないとしている。
これら接見交通権の意義や従前の判例に照らせば、接見の際に得られた情報を記録化することも接見の一環であり、接見状況を写真撮影することは、接見時の被疑者等に関する情報の取得・記録行為にほかならず、その意味で接見時にメモを作成することと本質的な差異はない。実務上も被疑者等との接見の際に写真撮影や録音録画が行えなければ、接見における情報収集及び記録化を前提とする公判廷等への顕出が極めて制限される結果となり、被疑者等や弁護人の防御権は大きく制約されることとなる。
その点、本判決は、接見交通権は未決拘禁者と弁護人との意思疎通を確保するために認められたものであるとし、接見交通権の意義や写真撮影の必要性について十分に理解せず、本件を接見交通権の保障の問題としてではなく収容法の解釈の問題として判断しており、国の過失を認めているものの不十分であると言わざるを得ない。
当連合会は、2011年1月20日付け「面会室内における写真撮影(録画を含む)及び録音についての意見書」において、弁護人が被疑者等との接見の際に「面会室内において写真撮影(録画を含む)及び録音を行うことは憲法・刑事訴訟法上保障された弁護活動の一環であって、接見・秘密交通権で保障されており、制限なく認められるものであり、刑事施設、留置施設もしくは鑑別所が、制限することや検査することは認められない」との意見を表明し、2013年には、同趣旨の申入書を法務大臣、国家公安委員長、警察庁長官宛てに提出していたところであるが、改めて写真撮影が接見交通権の保障を受けるべきことを表明するものである。
2014年(平成26年)11月7日
日本弁護士連合会
会長 村 越 進