水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法に基づく申請締切の撤回を求める会長声明

環境省は水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法(以下「特措法」という。)に基づく新救済策については、昨年12月までの申請状況を踏まえて締切りの時期を検討すると表明していたが、本年2月3日、申請期間について本年7月末をもって受付を締め切ることを表明した。



しかしながら、環境省の発表では、昨年末までの申請者は熊本県、鹿児島県、新潟県の3県で計4万9636人であり、昨年秋以降も毎月数百人で推移している。そして被害者掘り起こしを進めてきた医師らによる継続的な検診で、特措法における救済対象地域外の地区でも多数の被害者が確認されている状況である。不知火海沿岸地域のほか、首都圏などでの集団検診の結果、裁判原告を抱えている患者会では、昨年3月の和解以降、昨年末までに感覚障害などの水俣病特有の症状が認められた人が1800人を超え、申請手続を順次進めている。



かかる状況で本年7月末で申請を締め切るのは時期尚早であるばかりか、今後新たに水俣病被害者として名乗りをあげる予定の潜在患者の切捨てになるものである。また、当連合会は昨年12月に環境省に対して、救済対象地域及び出生年月日で対象外となっている被害者からの申請について情報開示を求めたが、環境省は予断を与えるという理由で開示を拒否した。



しかし、救済がどの程度進んでいるのかほとんど判断できない状況で申請を締め切ることは水俣病の被害状況を知らせないまま、救済の途を閉ざして水俣病問題の幕引きをすることにつながるものであり、断じて許されないものである。特措法に定める3年の期間というのはあくまで目処であり、努力目標であって、期間を経過することで失権するような性質のものではない。この点はこれまで当連合会の意見書等で強調しているところであり、本来3年という期間にこだわるべきではない。



さらに、今回申請の締切りが実施されれば、救済は終了したものとしてチッソの分社化が進むことになるが、全ての水俣病被害者の救済が終わらない段階でのチッソの分社化は水俣病被害者の切捨てにつながるのであり、チッソの消滅の可能性との関係で、水俣病被害者が金銭補償を全く受けられないということにもなりかねず、水俣病被害者の人権侵害の可能性があることについても、当連合会はこれまで再三指摘しているところである。



当連合会は、環境省が本年7月末をもって特措法の申請受付を締め切ると表明したことについて断固反対するものであり、その撤回を求めるものである。
 

2012年(平成24年)2月15日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児