声明(障害のある人に対する差別を禁止する法律の制定について)

通常国会において、障害者基本法改正案が与党3党によって提出され、臨時国会において審議されようとしている。


当連合会は、2001年11月の人権擁護大会において、「障害のある人に対する差別を禁止する法律の制定を求める宣言」を採択し、差別禁止法の制定を求めて活動を継続してきた。この宣言は、世界で既に43カ国以上の国が障害のある人に対する差別を禁止する法制を有するに至ったことと、我が国の障害のある人たちが置かれた厳しい現実を踏まえ、障害のある人に対する差別を禁止する法律を制定することを求めたものである。


これに対してこれまでの障害者基本法は、国や地方公共団体などのあるべき施策の指針と努力目標を示すにとどまるものであり、障害のある人の具体的な権利を定めるものではなかった。今回の改正案は、障害のある人の権利に関しては「何人も障害者に対して、その障害を理由として、不当に差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」との1条項を加えるのみで、国や地方公共団体などの行うべき施策に関する規定を加え、電気通信などの事業者に「障害者の利用の便宜を図るよう努めなければならない」との努力目標を定める規定を加えるなどの改正を行うにとどまっている。


しかし、障害のある人はこれまで、障害のある人にとっての権利とは何か、障害のある人に対するいかなる行為が差別となるのか、についての具体的な法的規定がないゆえに、裁判その他の場で救済の途を閉ざされてきたのであり、それらの具体的規定こそが今求められている。従って、あるべき差別禁止法は、諸外国の例に見るとおり、例えば職場において、採用・賃金・昇進などにおける差別を禁じ、合理的配慮としてバリアフリーのための職場施設の改造・手話通訳の配置・特別な訓練の実施などを義務付けることなどを規定し、あるいは公衆の出入りする建築物へのアクセスについては、車椅子の使用などを理由とする建築物へのアクセスの制限を禁じ、スロープや点字板の設置などを義務付けることなどを規定するものである。差別禁止法は、その他にも教育・住宅や交通手段の利用・情報へのアクセスなどのあらゆる生活の場面についてこのような具体的規定を設けるべきものである。障害のある人は、これらの規定によってはじめて、自ら差別を受けない権利を主張し、権利侵害に対する法的救済を得ることができ、これらを通じてバリアのない社会の実現が近づくものである。


今回の改正案は、当連合会が制定を求めてきた差別禁止法とは本質的に異なるものであり、国や地方公共団体などの施策や努力義務を定めるというこれまでの障害者基本法の性格を変えるものではない。従って、この改正案が成立したとしても、差別禁止法を直ちに制定する必要性は何ら変わるものではない。


当連合会は、この改正案をもって障害のある人に対する差別を禁止する法律の制定が引き延ばされるような結果とならないよう訴えるとともに、障害のある人や諸団体の意見を踏まえながら、障害のある人に対する差別を解消するために、実効性のある差別禁止法の制定に向けて引き続き全力をあげる決意である。


2003年(平成15年)9月25日


日本弁護士連合会
会長 本林 徹