もんじゅ行政訴訟控訴審判決にあたって

  1. 名古屋高裁金沢支部は、2003年1月27日に高速増殖炉「もんじゅ」について1983年になされた設置許可処分の無効を確認する判決を下した。
    判決は、1995年12月8日ナトリウム漏洩火災事故が現実に発生したことを重く受けとめ、事故内容を検討した上で、(1)ナトリウム漏洩時の高温ナトリウムによる床ライナー鉄板の腐食性破壊に関する知見を考慮せず、熱的影響の評価を誤ったこと、(2)蒸気発生器伝熱管の高温ラプチャ型破損の可能性を考慮していなかったこと、(3)炉心崩壊事故時に生ずる機械的エネルギーの遷移過程での評価をしていない重大な欠落があることを認定し、原子力安全委員会の行った安全審査には調査審議の過程に看過しがたい過誤・欠落があって違法であり、しかもその違法は重大なものであると判断した。
    そして、判決は、結論において変更許可申請によって瑕疵が是正されるものではないとし、「もんじゅ」の安全審査は全面的やり直しを必要としていると断じた。
  2. 当連合会は、1976年、1983年の2回の人権擁護大会で、危険性・環境汚染の観点から、国及び企業に対して、「現に稼動中の原子力施設の運転及び原子力施設建設の中止を含む根本的再検討」を行うように求め、その後、調査を進め、1998年5月の日弁連総会では、使用済核燃料の再処理を止め、高速増殖炉・プルサーマルなどプルトニウムをエネルギー源とする政策を転換すべきであることを提言した。
    そして、2000年の人権擁護大会では、「もんじゅ」のナトリウム漏洩火災事故などを踏まえ、(1)安全規制の機関が,原子力開発の推進機関と分離されていない、(2)安全審査の人的構成が推進に偏っており不公平である、(3)諸外国と対比して、安全規制にかかわる人員が不足している、(4)原子力安全委員会の審査では、ダブルチェックは機能していない、(5)審査の対象がことさらに狭く解されており、現実に発生している事故の防止には役立たないなどがシンポジウムで当連合会から問題点として報告された。これを受けて、原発の新増設を停止し、既存の原発については段階的に廃止すること、原子力安全規制行政を独立行政委員会に一元化し、推進官庁からの独立を確保すること並びに再処理政策の放棄を求める大会決議を行った。
    さらに、2002年12月に、東電不正問題に関連して、経済産業省から独立した一元的規制機関を内閣府に置き、規制と推進の分離の徹底をはかることを改めて提言した。
    今回の判決は、当連合会のこれらの提言が指摘した安全審査の過誤・欠落を認定したものであり高く評価することができる。
  3. 先の東電不正問題では原子力技術への不信を増大させたが、今回の判決は、全面的なやり直しを必要とするほどに安全審査が機能していないことを明らかにした。その意味で当連合会がかねてより主張してきた安全審査体制の抜本的改革が急務である。
    また、原子力大国であるフランスを含め世界各国が、ナトリウムの制御の困難性に起因する安全性に対する危惧などから、高速増殖炉計画を放棄し、さらには原発からも撤退もしくは新規原発建設を停止している中で、日本が高速増殖炉計画に固執していることは異常と言わざるを得ない。東電不正問題を契機にプルサーマル計画も中断している今こそ、冷静にプルトニウムリサイクル政策の見直しをする必要がある。
    高速増殖炉の問題点は、使用済核燃料の再利用を前提とした核燃料サイクルの挫折を示すものであり、当連合会が提言してきた脱原発への方向性が正しかったことを明らかにしたものである。

そこで当連合会は、裁判所によって設置許可処分無効確認の判断が下されたことを重く受け止め、段階的脱原発政策への転換の必要性を再確認するとともに、改めて国に対し以下の点を緊急に提言するものである。


  1. 「もんじゅ」の廃炉および高速増殖炉計画の放棄
  2. 使用済核燃料の再処理を含めたプルトニウムのリサイクル計画の放棄

2003年(平成15年)2月7日


日本弁護士連合会
会長 本林 徹