日本政府に対して拷問等禁止条約の選択議定書を支持し、その早期批准を求める声明

当連合会は、日本政府に対して拷問等禁止条約の早期批准を求め、先の第145通常国会に「拷問及びその他の残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取り扱い又は刑罰を禁止する条約」(拷問等禁止条約)の批准承認案が提出された際、これを歓迎する旨の会長声明を発している(平成11年1月28日)。


1. 議定書の社会経済理事会での採択


2002年7月24日ニューヨークで開催されていた国連社会経済理事会は拷問等禁止条約の選択議定書案を採択した。この選択議定書はコスタリカ政府の1991年の提案に基づいて、国連人権委員会内に1992年に設立された起草委員会に検討が重ねられていたものである。議定書の内容の核となる部分は、この議定書に基づいて設立される拷問等禁止委員会内の拷問等防止小委員会が、締約国内の公私の身柄拘禁施設を訪問し、その施設の状況について改善の勧告などを行うこと、各国の国内にも拘禁施設に対する訪問機能を持った同様の一つ以上の委員会を設置することを義務づけるものである。


2. 条約の原型・ヨーロッパ拷問等防止委員会


ヨーロッパには、同様の目的と機能を持つ拷問等防止委員会が、活動を開始しており、各国の拘禁施設における人権侵害の防止と処遇の改善に画期的な成果を上げている。


ヨーロッパ拷問防止委員会はヨーロッパ評議会の起草したヨーロッパ拷問防止条約の実施機関である。この機関は司法的な機関ではなく、各国の自由を奪われた人々が拘束されている施設を定期的、もしくは臨時に訪問する機関である。この条約の8条では施設のいかなる区画へも立ち入ることのできる権限、立会なしの被拘禁者との面会などの権限が明確に決められている。訪問には定期訪問と臨時訪問があり、臨時の訪問の場合は直前に通告するだけでどの施設についても調査を実施できることになっている。この委員会の調査は原則としては秘密裡に行われる。加盟国の3分の2の賛成があれば公式の声明を出すことができることとなっている。実際にトルコではこの委員会の活動によって、刑務所内で拷問の被害者が発見され、その証言にもとづいて拷問道具の設置されている警察署内の部屋が摘発されたことがある。


3. 条約内容と日弁連としての評価


議定書案では、訪問の対象となる場所は「公的機関の命令、ないしはその扇動、同意、黙認によって、締約国の管轄と管理下にある、人が自由を奪われているあらゆる場所」とされており(4条)、民間の精神病院、民営化された場合の刑務所、軍事政権下の秘密監獄なども含みうる非常に広範なものである。


また、小委員会は拘禁施設の場所と数に関する情報、被拘禁者の処遇と拘禁の条件に関する情報に無制限のアクセスできる権限を認められている。さらに、委員には被拘禁者との看守者の立ち会いのない秘密の面会を許さなければならないことも規定されている。国内査察機間の設置の義務づけと小委員会との協力規定は、国際的な小委員会の活動の限定されたキャパシティを補完する上でも画期的な提案であり、日弁連の年来の主張である拘禁施設に対する第三者機関の設置の要望に国際人権法上の根拠を与えるものであるといえる。


4. 日本政府に対する要望


よって、当連合会は日本政府に対して、次の3点を強く要望するものである。


  1. 拷問等禁止条約の選択議定書について、日本政府が本年12月に開催される国連総会での成立に反対することなく、むしろ積極的に支持し賛成すること、また、採択されれば直ちに署名をすること。
  2. この条約は我が国の公私の拘禁施設に広範に見られる閉鎖性と人権侵害の救済が困難である状況を改善するうえできわめて重要な制度的な提案を含んでいるので、政府部内の議論を早期に集約して、議定書を批准すること。
  3. 拷問等禁止条約によると第1回政府報告書は条約批准後1年内に委員会に提出することが条約で義務づけられているにもかかわらず、日本政府は条約批准後3年を経過しても報告書を拷問等禁止委員会に提出せず、いまだに第一回の政府報告書審査実施のめども立たない事態となっている。政府報告書を期限内に提出することは条約上政府に課された最低限の義務であり、速やかに報告書を提出すること。

2002年(平成14年)12月12日


日本弁護士連合会
会長 本林 徹