名古屋刑務所における暴行陵虐に関する会長声明

  1. 昨年から本年にかけて、名古屋刑務所で、複数の刑務官が男性受刑者を制圧し、革手錠を使用して保護房に収容したところ、受刑者が死傷した事件が3件発生したことが明らかになった。同刑務所の説明によれば、本年発生した2つの事件のうち1件は5月27日、入所時の身体検査を受けていた受刑者が職員につかみかかったため、刑務官らが制圧し、革手錠を使用して保護房に収容したところ、同日死亡した事件(第一事件)であり、もう1件は9月25日、受刑者が刑務官と面接中激高し、詰め寄るなどしたため刑務官が制圧し、革手錠を使用して保護房に収容した際、腹痛を訴えたので、診察をしたところ、腹部内出血があり病院に搬送して手術した(現在治療中)という事件(第二事件)である。なお、昨年発生した同種の事件についてはプライバシーの保護を理由に詳細を明らかにしていない。
    名古屋刑務所は、事件について刑務官が殴る蹴るの暴行を行っておらず、職務として許される範囲の制圧行為である旨説明していたが、名古屋地検の取り調べに対し刑務官は、制圧の範囲を超える暴行を加えていた事実を認め、本日、第二事件に関与した刑務官5名が特別公務員暴行陵虐致傷罪で逮捕された。当連合会はこれらの事件についての事実関係の調査が早期かつ徹底的に行われ、原因と経過が解明され、さらに関係者の厳正な処分がなされることを強く求めるものである。
    また、法務省に対し、1998年に、国際人権(自由権)規約委員会から革手錠等の保護措置の頻繁な使用について懸念を表明されているなか、今回のような事件が起こったことを真摯に反省し、必要かつ十分な再発防止策を講ずるよう強く要望する。
  2. ことに、第二事件の受刑者は、本年4月に名古屋弁護士会に刑務所内の処遇に関する人権救済申立をしており、同弁護士会がこの受刑者本人と刑務所側との事情聴取を2日後に控えた時期に事件が発生したものであり、暴行を受ける直前に同人と刑務官との間で、人権救済申立の撤回を促すやりとりがあったということである。
    現在当連合会及び各地の弁護士会には法務省が所管する刑務所・拘置所の在監者から、処遇についての人権救済の申立が多数なされている。
    しかしながら、刑務所、拘置所は人権救済申立の調査について極めて非協力的であり、弁護士会の調査が十分に行えない状況にある。その上、本件では刑務官が受刑者の処遇についての人権救済申立を撤回するように求めたもので、基本的人権の擁護を使命とする弁護士会の人権救済制度をないがしろにするものであり、極めて遺憾である。
  3. 現在、国会で人権擁護法案が審議中であるが、同法案では、刑務所・拘置所を所管する法務省の外局として人権委員会が設置されるという内容である。法務省からの独立性が疑われる人権委員会が刑務所内での人権侵害について実効的な調査と適切な措置がとれるかどうかは極めて疑問である。当連合会は、本件のような刑務所内での人権侵害に対処するためにも法務省の外局ではなく、真に政府から独立した人権擁護機関の設立を併せて強く求めるものである。

2002年(平成14年)11月8日


日本弁護士連合会
会長 本林 徹