東京大気汚染公害事件判決に関する会長声明

東京地方裁判所は、本日、東京大気汚染公害事件について判決を言い渡し、都内道路を走行する自動車の排出ガスによる深刻な大気汚染の実態を認定し、その結果として原告が呼吸器疾患に罹患したことを認め、道路の設置・管理者である国、首都高速道路公団及び東京都に対して損害賠償を命じた。


幹線道路を走行する自動車排出ガスによる大気汚染の結果として、気管支ぜん息などの深刻な健康被害が発生していることについては、既に、西淀川公害訴訟(2次~4次)判決(95年)、川崎公害訴訟(2次~4次)判決(98年)、尼崎公害訴訟判決(2000年)、名古屋南部公害訴訟判決(同)と一連の判決で明確にされており、特に、尼崎及び名古屋南部の各判決においては、深刻な被害の実態を踏まえ、大気汚染濃度を一定以下に抑えることを命じた、いわゆる差止の判決が下されてきた。


こうした司法の度重なる警告にも関わらず、充分な公害対策がとられないまま、わが国の大気汚染は大都市部を中心として、二酸化窒素、浮遊粒子状物質の環境基準を超過する状態が継続するというきわめて深刻な状況にある。


こうした大気汚染の結果として気管支ぜん息などの呼吸器疾患に罹患した患者は、公害健康被害補償法により療養費や障害補償費の補償を受けてきたが、1988年の同法の指定地域解除以後は、新規の認定・救済が否定される事態となっている。その結果、新規に発症した公害患者は、生命、健康を害されるだけでなく、病気による経済的な破綻、経済的な理由で充分な医療を受けられないこと、さらにはこうした事態に基づく家庭崩壊など、きわめて広範で深刻な人権侵害にさらされたまま放置されている。


当連合会は、本年8月23日に、大都市圏など自動車排出ガスによる深刻な高濃度汚染地域において健康を害された者を救済するため、公害健康被害補償法の制度を参考とした、原因者負担の原則に基づく被害者救済制度の立法化を求める意見を発表したところであるが、本日の判決は、こうした制度の確立が急務であることをより一層明らかにしたものといえる。


よって、当連合会は、原因者負担の原則に基づき、道路設置・管理者および汚染原因となる自動車、特にディーゼル車を製造販売している自動車メーカー等の負担による被害者救済制度の確立を強く求めるものである。


2002年(平成14年)10月29日


日本弁護士連合会
会長 本林 徹