北朝鮮による日本人拉致事件に関する会長談話

朝鮮民主主義人民共和国(以下「北朝鮮」という。)の金正日総書記は、2002年9月17日、小泉首相に対し、日本人拉致の事実を認めて謝罪し、拉致されたと見られていた8件11人を含む14人の安否を明らかにしたが、内訳は生存者は5人に過ぎず、8人が死亡しているという悲惨なものであった。被害者とその家族のお気持ちを考えると、何とも言いようがなく、胸が痛む思いである。


当連合会は北朝鮮による日本人拉致事件について、拉致被害者の家族からの人権救済申立を受け、2000年3月27日に、8件11名が1977年11月から1978年8月にかけて失踪したのは、北朝鮮に拉致された高度の蓋然性があると認定したうえ、小渕恵三内閣総理大臣及び河野洋平外務大臣(当時)に対し下記のとおり要望した。



本件拉致被害の多くが発生以来すでに20年以上も経過している事実を真摯に受け止め、北朝鮮政府とその早期解決のため政府間交渉を開始のうえ、本件拉致被害者の所在の確認と身柄の返還を求め、一日も早く家族全員が一堂に会することができるように努力されたい。仮に北朝鮮が交渉において事実関係を否定する場合には、日本政府は拉致の疑いがあると判断している根拠を証拠によって具体的に明らかにして本件拉致被害者の身柄の返還を強く要求し交渉の進展を図るための適切な措置の発動を考慮されたい。本件に関し家族が国連などの国際機関に対する人権救済の申立を余儀なくされる場合、日本政府はこれに全面的に協力されたい。


しかるに日本政府は、当連合会の要望にもかかわらず、被害者家族の永年にわたる救済を求める声に応える真剣な努力を尽くすことなく、日時を経過させた。そして今日拉致被害者8名が既に死亡しているという悲惨な事態を招来させたことは、遺憾の極みである。


北朝鮮による拉致被害者に対する拉致行為は許し難い重大な人権侵害行為であると同時に、逮捕・監禁罪及び国外移送目的略取罪に該当する刑法上の犯罪行為である。


当連合会は、人権の擁護・救済を使命とする法律家団体として、上記要望の趣旨が活かされなかった事実に鑑み、改めて日本政府に対し、被害者の人権救済に真摯に取り組むことを求めて


  1. 北朝鮮による拉致行為を刑法上の犯罪として徹底的に捜査し、事件の全貌を解明し、適正なる処罰を求めること、
  2. 既に亡くなったとされる被害者について、死亡に至る経緯、原因を含めた真相を徹底的に解明すること、
  3. 生存者の肉親との面会と帰国をすみやかに実現すること、
  4. 全ての被害について適正なる補償の実現を図ること

を強く要請するものである。


2002年9月19日


日本弁護士連合会
会長 本林 徹


(この談話は、9月17日に小泉首相に伝えられた内容を前提としたものです。)