押収拒絶権に関する会長談話

2000(平成12)年11月7日、松山地方検察庁宇和島支部は、被疑者を恐喝未遂被告事件の被告人、被疑事実を同被告事件と事実及び証拠の大部分を共通にする貸金業の規制等に関する法律違反とする宇和島簡易裁判所の発した捜索差押令状により、同被告事件の弁護人である弁護士の法律事務所、自宅、自動車、鞄の捜索を行った。この程判明した愛媛弁護士会の調査結果によれば、この捜索は、同弁護士が同被告人の依頼により同法違反の証拠である借用書を所持している疑いがあるとしてなされたものであるが、同弁護士はこれを所持しておらず、検察官からの事前の問い合わせにもその旨回答しており、同弁護士が不在のまま、したがって同弁護士に対する令状の提示がないまま開始され、借用書は発見されなかったとのことである。


弁護士には、秘密を委託される業務及びこの業務を利用する社会一般を保護するため、刑事訴訟法により押収拒絶権が保障されており、これを行使するか否かは弁護士の専権に属するところである。この押収拒絶権の行使の機会を保障するには、令状の押収拒絶権者への提示が絶対の条件でなければならない。


また、被疑者・被告人には、その防御権を全うするため、弁護人との秘密交通権が保障されているのであって、検察官が恣に対立当事者である弁護人に対し捜索差押をなすとすれば、秘密交通権が侵され、当事者対等の原則が失われることともなりかねない。そのため、捜査機関は、弁護士自身が被疑者である場合など例外的な場合にしか、弁護士の事務所等の捜索差押をなすことはなかったものと承知している。


しかるに、この度の捜索は、押収拒絶権行使の機会そのものを奪ってなされたものであり、結果としても秘密交通権が侵害の危険にさらされたものと言わざるをえない。


当連合会は、違法な令状執行と安易な令状発付に強く抗議するとともに、同様の事態を今後再び招くことのないよう求めるものである。


2001年(平成13年)6月29日


日本弁護士連合会
会長 久保井 一匡