談話-司法制度改革審議会「中間報告」の発表にあたって-

本日、司法制度改革審議会が、1年4ヶ月にわたる調査審議の結果を踏まえて、「中間報告」を取りまとめ、発表されました。


審議会が、極めて厳しいスケジュールの中で、大変精力的に充実した審議を進められ、司法制度全般に関する抜本的な改革に向けた報告を取りまとめられたことに対し、心からの敬意を表するものです。


当連合会は、1990年(平成2年)の第1次「司法改革に関する宣言」以来、今日まで憲法と世界人権宣言の基本理念に立って個人の尊厳と人権を確立するため、これまでの「官僚的で小さな司法」を見直し、「市民が参加する大きな司法」を確立することを目指して司法改革運動を進めてきました。具体的には、司法予算の増大による裁判所・検察庁の人的・物的基盤の拡大、法曹人口の増大、法曹一元、陪審制の実現ならびに新しい法曹養成システムの構築などを目指してさまざまな活動を続けてきました。


このような視点に立って今回の中間報告を見ますと、基本的な改革の理念と方向において、憲法の理念を今日の社会情勢の変化の中に生かし、国民のための抜本的な司法改革へ強い決意を示されており、強い共感を覚えます。その上で今回の司法改革の基本的方向として、昨年末の「論点整理」で示された考え方をひきつぎ、21世紀の日本社会において法を血肉化させること、国民がこれまでの統治客体意識から脱却し、一人ひとりが統治主体として社会に参画するために司法(法曹)が社会生活上の医師としての役割を果たすことを目指しています。また司法の現状について、その官僚的仕組みによる弊害の指摘が不十分である点はありますが、わが国社会が行政中心で運営されてきたこと、司法の国民的基盤が狭小にすぎたこと、司法を支える法曹(裁判官、検察官、弁護士)が少なかったこと、法曹の連携が不十分であったこと、司法が国民にとって分かりやすく利用しやすいものでなかったことなど指摘した点はほぼ正当なものと思われます。さらに、今回の中間報告では、法を統治の道具としてではなく、国民がその生活の質の向上を図る観点から「法の支配」を徹底し、司法の国民に対する「アカウンタビリティの強化」を図ろうとする点にこの報告の基本的趣旨があることが理解できます。続いて、改革の柱として「人的基盤の拡充」「制度的基盤の整備」「国民的基盤の確立」の3点を示された点はさらに評価できます。


第1の人的基盤の拡充について、法曹の質と量の拡充を目指して、いわゆる法科大学院構想を示すとともに法曹人口の拡大、裁判所・検察庁の人的体制の充実を提案されたことは、社会の隅々にまで法の支配を確立していくことに積極的に取り組むことを企図したものとして、評価いたします。


また、当連合会が、「市民の司法」の観点から強く訴えてきた、法曹一元に基づく裁判官制度改革に関しては、「明日の日本を担う高い質の裁判官を獲得し、これに独立性をもって司法権を行使させるとの視点」に立って、「裁判官の給源の多様化・多元化」を図ることはもとより、さらに進んで判事の主要な給源とされてきた判事補制度に対しても大胆に見直す方向を明らかにされておられます。また、国民の裁判官に対する信頼を高める観点から民意の反映の保障などをはじめとする裁判官任用システムの改革、裁判の独立の保障を高める観点からの人事制度の改革など、いずれも法曹一元論が提起する重要な改革のポイントを摘示しており、今後これらの課題が、より幅広い国民的議論の中で深められ、具体的な制度として適切に構築されるよう期待するものです。


第2の制度的基盤の整備につきましても、民事法律扶助の拡充、公的費用による被疑者弁護制度の創設など、かねて当連合会が目指してきた司法へのアクセス障害を除去するという課題に積極的に取り組むものとして評価いたします。その他、個々の施策についてのコメントは後日にいたしますが、ただ、裁判へのアクセスの拡充の方策の一つとして示された弁護士報酬の敗訴者負担制度の導入につきましては、わが国の民事訴訟の件数が先進諸外国に比べて著しく少ない現状を考えると、明らかに時期尚早であり、再考を求めたいと思います。


第3の国民的基盤の確立は、国民の司法参加について、「広く一般の国民が裁判官とともに責任を分担しつつ協働し、裁判内容の決定に主体的・実質的に関与していく」として、具体的な司法参加の形態を検討することとされている点は、わが国司法の国民的な基盤を確立する上で画期的な意義を有するものであり、この点についてもその具体的な制度設計が適切に行われることを期待するものです。


当連合会は、去る11月1日に行った21世紀の司法改革に向けた基本方針を宣言する臨時総会決議(法曹一元、陪審制、法曹人口、法科大学院構想について)を踏まえ、弁護士倫理の向上など弁護士の職務の質の確保と向上、弁護士の活動領域の拡大や法律事務所の体制の充実など弁護士のアクセスの拡充をはじめとする諸改革に向けた取り組みを強化し、真に国民のための弁護士制度を確立していくため引き続き努力する決意です。


司法制度改革審議会の中間報告にあたり、今後とも、同審議会が、ここに示された基本的な視点に基づいてより一層具体的な改革構想を提示いただけるよう希望するとともに、この報告が国民各界各層で活発に議論され、国民的な基盤に基づいて司法改革が進展することを願い、そして、当連合会が弁護士と弁護士会に課せられた歴史的使命と重責を十分に果たすことができるよう、国民の皆様とともに歩んでゆくことを改めて誓い、本日の会長談話といたします。


2000年(平成12年)11月20日


日本弁護士連合会
会長 久保井 一匡