安田好弘弁護士保釈問題に対する会長声明

当連合会は、1990年以来、当番弁護士制度の実施等により、刑事司法の改革に向けて積極的に取り組んできた。このような弁護の立場からする改革は一定程度前進がみられているものの、刑事手続全体をみると、未だその成果は十分でなく、むしろ、状況は悪化しているのではないかともいわれている。その一つが「保釈の運用」であって、権利保釈の除外事由の著しい拡大解釈によって、被告人の保釈は極めて困難となり、保釈率は年々顕著に低下している。刑事手続のこのような傾向は、「人質司法」という不名誉な呼称まで付されるに至っている。


その象徴的事例が安田好弘弁護士に対する保釈問題である。同弁護士は、強制執行妨害罪で平成10年12月6日逮捕、同月25日起訴されたが、勾留期間が6ヶ月以上に及んで、ようやく東京地方裁判所は二度にわたって保釈を許可した。ところが、その都度、検察官が抗告し、東京高等裁判所が保釈許可を取り消したため、同弁護士は今なお勾留されている。安田弁護士に対する7ヶ月半に及ぶ勾留は、強制執行妨害罪の法定刑(長期懲役2年)に比して不当に長期にわたり、国民の常識ともかい離した事態となっていること、すでに事実審理を担当している東京地方裁判所が保釈を許可していること、3,357名に及ぶ全国各地の弁護士から早期の保釈を求める要請がなされていることを考慮すると、当連合会としても、保釈制度の趣旨に照らし、これを単に個別事件に関わる問題として黙過するわけにはいかない。


折しも、本年は刑事訴訟法施行50年にあたり、当連合会としては、とくに無罪推定原則の下、無実を争う者が身体拘束から速やかに解放され、人身の自由の保障された状態で「公正な裁判」を受けることができるよう、関係諸機関において、憲法及び国際人権法の理念に従った適切な対応が取られることを強く要望するとともに、刑事手続を含め、広く司法全般にわたる改革を実現するため、国民とともに全力を尽くす所存であることを重ねて表明する。


1999年(平成11年)7月23日


日本弁護士連合会
会長 小堀 樹