選択的夫婦別姓制導入等民法改正案の今国会上程を求める会長声明

1.

法制審議会は、 5年余の審議の末、1996年 2月、選択的夫婦別姓制導入と非嫡出子の相続分差別を撤廃すること等を内容とする民法の一部を改正する法律案要綱を答申したが、この答申に基づく民法改正案は、いまだ国会に上程されていない。


2.

日本国憲法は、個人の尊厳と法の下の平等を基本とし、家族法を個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定しなければならない、とうたっている。ところが、いまだに民法は、結婚にあたり夫婦同姓を強制して、どちらかが結婚前の姓を改姓しなければならない。その結果、夫の姓を称する夫婦が圧倒的に多く、妻の姓は夫と平 等に尊重されているとはいえない。価値観・生き方の多様化する現在、別姓を望む夫婦にまで同姓を強制する理由はない。別姓も選択できる制度を導入して、個人の尊厳と平等を保障するべきである。近年、平均初婚年齢も上がり、女性の職場進出が進むにつれ、改姓によって受ける不利益や不都合は、増える一方である。これらを避けるために、結婚後も旧姓を「通称」として使用する人も増えているが、運転免許証、パスポート、印鑑登録証明書など戸籍名しか使用できない場合も多く、通称使用では解決できない。1985年に日本が批准した女子差別撤廃条約は、姓(氏)及び職業選択を含めて、夫及び妻に同一の個人的権利を保障することを締約国に求めている。


諸外国をみても、夫婦別姓を選択できる国が大多数であり、夫婦同姓を強制している国は、 先進国の中では日本だけである。日本も夫婦別姓を許容する社会になる必要がある。次に、民法は、非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1と定めている。だが、子には、両親が結婚しているかどうかについて、何の責任もない。非嫡出子の相続分を嫡出子のそれと同等にすることは法律婚主義に反し、嫡出子や正妻の権利を損なうことになるとの批判もあるが、配偶者の相続分には何ら影響を及ぼさないので あり、法律婚主義にも抵触するものではない。非嫡出子の相続分差別は、父の相続において合理的理由がないばかりか、母の相続においては一層その不合理なことが明らかである。日本が批准している国際人権(自由権)規約と子どもの権利条約も、出生等による差別を禁止している。昨今、嫡出子と非嫡出子の地位の平等化を図る立法が相次ぎ、いわゆる先進国で差別を残しているのは日本とフランスのみとなっている。国際人権(自由権)規約委員会は、1993年、日本政府に対し、非嫡出子の相続分差別が同規約に抵触するとして、法改正を勧告している。


3.

ところで、今国会は既に会期の終わりに近づいているが、上記法制審議会の答申にかかわらず、民法改正案は一向にその上程がされていない。当連合会は、かかる状況にかんがみ、法制審議会の答申を得た現在、速やかに民法改正案を今国会に上程されることを強く求める。


1996年(平成8年)4月26日


日本弁護士連合会
会長 鬼追明夫