「臓器の移植に関する法律案に対する修正案」に関する声明

本日「臓器の移植に関する法律案に対する修正案」が法律案の提案者によって提出された。修正案は、法律案第6条1項を「医師は、死亡した者が生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合であって、その旨の告知を受けた遺族が当該臓器の摘出を拒まないとき又は遺族がないときは、移植術に使用されるための臓器を、死体(脳死体を含む。以下同じ)から摘出することができる」と改めるなどをその内容としている。


もともと「臓器の移植に関する法律案」は、


  1. 脳死状態を「人の死」としている
  2. 家族の意思だけで脳死状態からの臓器移植を認めている

などの点で根本的欠陥を有していて人権擁護上見逃すことのできない問題点があるものであることは、当連合会や市民団体がつとに指摘し、法律案の修正を求めてきたところである。 こうした状況の中で、本人の書面による承諾を必要とした上記の修正案が提出されたことは、国民の声を一定程度反映した結果であるということができる。しかしながら修正案は、依然として脳死状態を「人の死」としていて、法律案の持っていた根本的欠陥が是正されたと評価することはできない。修正案は、脳死状態を「人の死」とすることによって、将来的に家族の意思だけで臓器移植を可能とする途を開くおそれがある。 当連合会は、1995年3月17日(同年10月17日改訂)の意見書において、


  1. 脳死状態を「人の死」とする社会的合意はできていない、
  2. 脳死状態からの臓器移植は、ドナーカードなど、臓器提供に関するドナー本人の明確で自発的な意思を確認できる書面がある場合に限る、
  3. 脳死判定後でも脳死状態の患者があくまでも人権の主体であることを基礎に個人の尊厳を最後まで保ちながら、死を迎えることができるよう留意する、
  4. 摘出・移植を実施する医療施設は、日常診療においてもカルテの閲覧謄写権、患者の自己決定権など、患者の権利が十分に尊重されている施設でなければならない、

との基本的立場を表明し,法律案の問題点を指摘するとともに,臓器移植に関する必須の項目を法律案に対する修正案として提案した。


当連合会は,衆参両院の議員各位が法律案の提案者によって提出された「臓器の移植に関する法律案に対する修正案」を了として拙速に法律案を成立されることなく,当連合会の提案をも含め法律案の問題点の審議を尽くし,国民に祝福される「臓器移植法」を実現するよう望むものである。


1996年(平成8年)6月14日


日本弁護士連合会
会長 鬼追明夫