放送における苦情対応機関に関する会長声明

郵政省の「多チャンネル時代における視聴者と放送に関する懇談会」(放送行政局長の私的諮問機関)は、今後の放送の在り方と問題点について本日最終報告書を取りまとめた。同報告書の重要な問題点の一つである苦情対応機関について、当連合会の意見を表明する。


1.

言うまでもなく、憲法21条が規定している言論・表現の自由は、我が国の民主主義を支える根幹であり、報道の自由は国民の知る権利に仕えるものとして、最大限に尊重されなければならない。


それ故、放送制度についても、電波が有限であることから導かれる公平原則等の放送制度固有の規制根拠が存在するものの、多チャンネル時代においては、その表現内容については、放送の自由が最大限に保障されるものでなければならない。他方、規制緩和による視聴率競争の激化と番組の低廉化に伴い、放送による人権侵害事例の増加は不可避と推測され、報道被害者の救済も極めて重大な課題である。


2.

そうした事態に備え、報告書では、放送番組に対する苦情への対応機関について、放送事業者の外部に共同の機関として設置する方向性を打ち出している。この「共同機関」については、報告書は、第1に公共的な機関、第2に放送事業者が自主的に設置する機関、第3に両者の中間に位置するものとして法律の規定を基に放送事業者が設置する機関、等を摘示している。


ところで、当連合会は、1987年の第30回人権擁護大会で『人権と報道に関する宣言』を採択し、マスメディアに対して、自主的な救済機関として、「有識者などの参加による報道評議会等の審査救済機関の導入について積極的に検討すること。」を提言した。この提言の趣旨に照し、苦情対応機関が、第2の放送事業者が自主的に共同して設置するものであるならば、放送の自由と被報道者の人権擁護との調和を計るものとして評価することができる。ただし、判断の客観性、公正を担保するために構成員にはふさわしい第三者の参加を求めることが必要である。


このような立場からみると、日本民間放送連盟、放送事業者の一部、さらには新聞各紙が、これまで自主的な共同苦情対応機関の設置については言及しないで、苦情対応機関の設置を一律に新たな規制であるとして反対するのは、放送による人権侵害の救済に配慮を欠くものと言わざるを得ない。


3.

当連合会は、放送事業に携わる人々に対し、改めて自主的に共同の苦情対応機関の検討・設置を行う努力を求めるとともに、郵政当局に対しては、放送事業者等の自主性と自覚が涵養される第2の方法に委ねるよう要請する。


1996年(平成8年)12月9日


日本弁護士連合会
会長 鬼追明夫