弁護士による土地売却代金横領事件に関する会長談話

このたび、東京地検特捜部が、依頼者から預かった土地売却代金を横領した容疑により弁護士を逮捕したとの報道に接しました。この容疑事実が真実とするならば、かかる不祥事は、弁護士に対する信頼を著しく損ねるものであり、心底から遺憾とするところであります。


改めて申し上げるまでもなく、弁護士は、職務上、依頼人の財産管理に関与する場合が多く、そのため高度の職業倫理に基づき、職務を誠実に全うすることが求められています。当連合会が定めている「弁護士倫理」においても、弁護士に対し、廉潔の保持だけでなく、事件に関する金品の精算及び引渡しなどを厳格に行うよう具体的に規定し、この遵守を強く求めております。


また、本年度は、特に当連合会の最重要課題の一つとして、いわゆるバブル崩壊時に生じた弁護士の不祥事に対し、あらためて倫理の確立を求め、全国の弁護士会を挙げてとりくんでいるところであります。具体的には、全国の弁護士会において、弁護士の倫理研修に力を注ぎ、登録の初年度に限らず、その後も継続的な研修を事実上義務化する方向を示すなど一段の努力を払っているところであり、本年11月25、26日の両日には全国の弁護士会の綱紀委員長会議を招集し徹底化をはかる所存でありました。個別の不祥事については、今回の事案を含め、綱紀・懲戒手続において迅速・厳正な措置をもって臨んでおり、改革に努めてまいります。


このように当連合会及び各地の弁護士会を挙げて努力が続けられている過程において、金銭にまつわる弁護士の不祥事があとを絶たないことについては、誠に残念な事態といわなければなりません。


当連合会としては、弁護士に対する信頼の回復をめざし、心を新たにして引続き全力を挙げ、会員に対し一層の倫理意識の高揚・向上を求め、指導していく所存であります。


1996年(平成8年)10月4日


日本弁護士連合会
会長 鬼追明夫