榎井村再審請求事件裁判官忌避申立却下に対する特別抗告棄却決定について

当連合会は、高松高等裁判所に係属中の吉田勇氏請求に係るいわゆる榎井村再審請求事件につき、真実の究明と無辜の救済に力を尽してきた。


しかるところ、昨年8月、高松高等裁判所は、高松高等検察庁から弁護人に秘密裡に、かつ非公式に事件発生当時の捜査報告書等多数を含む「昭和21年重要犯罪捜査報告綴」などと題する資料とその一部の写しの提出を受け、その写しを保管し、これを検討、合議し、これに基づいて裁判所が請求人尋問を行ったうえで、証拠調べを終結しようとしたことが判明した。


弁護団は公正、公平であるべき裁判所において、あってはならないこととして、裁判官忌避の申立をした。しかし、昨年12月4日、高松高等裁判所は、右忌避申立を却下したので、弁護団は最高裁判所に憲法の規定する適正手続、防禦権、弁護権の保障及び公平な裁判の保障について憲法37条違反により特別抗告を申立てた。


ところが、去る4月27日、最高裁判所は右裁判官らが弁護人らに対し事実に反する応答したことにつき「右対応は遺憾とすべきである」というにとどまり、裁判官らがなした前記資料をめぐる不公平な裁判については憲法37条等違反にあたらないとして何ら自主的判断をしないまま、形式的理由だけで本件申立てを棄却した。


この決定は、誠に遺憾であるし、国民の裁判に対する不信の念を一層増幅させる以外の何ものでもない。


当連合会は、司法の一翼を担うものとして、司法の権威は国民の信頼にその基礎を置くものであること、その信頼はまず何よりも裁判が公正、公平であることから生まれてくるものであることを最高裁判所ならびに最高検察庁に対し自戒するよう強く求める。


また、当連合会は公平な裁判の保障などの確立と吉田勇氏の雪冤のため、引き続き一層の力を尽す決意である。


1992年(平成4年)4月30日


日本弁護士連合会
会長 阿部三郎