プルトニウムの海上輸送実施に際して

本年秋にフランスのラ・アーグ再処理工場から日本の東京港に向けて約1トンのプルトニウムの海上輸送が、動力炉・核燃料開発事業団により、実施されようとしている。


プルトニウムは極めて発癌性の強い放射性物質であり、その毒性は半永久的に残存する。そもそもプルトニウムは核兵器の材料であり、軍事転用の容易な物質である。また、再処理とプルトニウムを利用した高速増殖炉による原子力発電の計画はアメリカ、ドイツ、イギリスなどでも中止の方向にあり、最も積極的な推進の姿勢をとっていたフランスでも、本年7月高速増殖炉スーパーフェニックスの運用再開を核暴走の危険があることなどを理由に当面見送ることを決めている。このような物質を今後何十トンも保有し、そのため大量に海上輸送するという日本政府の政策は、冷戦の終結によりプルトニウムを減少させて行こうという世界の潮流にも逆行するものである。


このプルトニウム輸送については、民間の研究団体などから輸送容器が船舶火災や沈没に耐えられないのではないかとの指摘がなされており、ハワイ州、南アフリカ、インドネシア、チリをはじめ予想されている輸送ルートの周辺の各国で通過や寄港を拒否したり、安全性に不安を表明する声があげられている。これに対し、日本政府および動力炉・核燃料開発事業団は、核物質防護の名の下に、輸送日時・ルートはもちろん輸送容器及び輸送船の設計というプルトニウム輸送の安全性の根幹に関する情報の大半を秘匿している。


プルトニウムのような危険性の高い物質の取り扱いについては、安全に万全を期し、かつその安全性に関する情報を公開した上、輸送ルート周辺各国の国民の意思を尊重して民主的に決定されなければならない。核物質防護の名において安全性に関する情報を秘匿することは許されないところである。そのような観点から今回計画されているプルトニウム輸送を見たとき、その危険性、情報の未公開に照らし、強い不安を覚えざるをえないし、輸送ルート周辺の国民の意思を無視するものであって許さるべきではない。


以上の理由から、当連合会は、現状において計画されているプルトニウム輸送については反対であり、動力炉・核燃料開発事業団に対し、計画されているプルトニウム輸送を中止することを求める。


1992年(平成4年)9月18日


日本弁護士連合会
会長 阿部三郎