製造物責任法の制定に求める

日本弁護士連合会は、かねてから、弁護士実務の経験にてらし、人権擁護の観点から製造物責任法の制定が必要なことを主張し、平成3年3月15日に「製造物責任法要綱」を発表し、同年5月24日には「製造物責任法の制定を求める総会決議」を可決公表しているところである。


欠陥商品による被害者救済につき、欧米では無過失製造物責任(厳格責任)の原則が確立し、日本にも同制度の導入が要求されている状況の中で、去る6月10日の通産省の外郭団体日本産業協会に設置された製品安全対策研究会報告に続き、この度自由民主党の「製造物責任制度に関する小委員会」(林義郎委員長)でも「日本は薬事法や食品衛生法など国による安全規制が実施され、被害救済に関しては、SGマーク制度での救済もある。現在の民法が過失責任を採用しているために救済を受けられない例がどれだけあるのか。判例では無過失責任に近い考えを採用するなど原告負担を軽減する工夫をしてきて」おり、PL制度導入は時期尚早として、製造物責任法の立法に消極的な姿勢と伝えられる(平成3年9月16日付日本経済新聞第1面)。


もともと、製造物責任制度は、製品の安全性を高めるとともに、欠陥による被害が発生したときには被害者を簡易迅速に救済するための制度である。この点に関する日本の現状は、決して満足すべきものではなく、PL制度導入を時期尚早とする上記見解は、高度な技術発展を背景にその早期導入が求められている世界的潮流にも逆行するものである。


当連合会が、昨年と今年行った「欠陥商品110番」では、わずか2~3日の電話受付で各年700件前後の被害・苦情が寄せられ、消費者の過失や因果関係の証明の負担が重く救済されていない実情が明らかとなった。また、昨年当連合会会員に対して行ったアンケート調査においても欠陥商品事件の相談のうち66%は、これらの立証困難を主な理由として、救済請求を断念している実態が明らかになっている。


また、現在あるSGマーク制度や、医薬品副作用等の救済制度についても調査したところ、司法的救済における厳格責任制度をとるものでなく、(1)制度の存在が知れ渡っていない、(2)請求手続が煩瑳、(3)損害賠償としては給付内容が不十分、(4)審査が非公開、(5)不服申し立ての制度がない、など多くの問題点があることが明らかになっている。また、消費生活センター等の紛争処理でも大半は欠陥品の交換、治療実費の支給に留まり、慰藉料、休業損害、逸失利益の支払はなされておらず、公開の司法制度のもとでこそ被害の救済が実現され、かつ悪用が防止できるものである。


このように、これら現行制度は不十分であり、これらを是正するためには、基本原則において民法の過失責任主義を見直し、無過失責任を原則とする製造物責任制度に転換することが不可欠である。


10月中旬頃には、国民生活審議会の製造物責任制度に関する答申が予定されている。上に述べた欠陥商品被害の実情をふまえて、消費者重視の政策の実現のために、関係各方面が一丸となって製造物責任法の立法化を推進されることを強く要望する。


1991年(平成3年)9月20日


日本弁護士連合会
会長 中坊公平