榎井村再審請求事件裁判官忌避申立却下について

当連合会は、高松高等裁判所に係属中の吉田勇氏請求に係るいわゆる榎井村再審請求事件につき、真実の究明と無辜の救済に力を尽してきた。


しかるところ、本年8月、高松高等裁判所は、高松高等検察庁から弁護人に秘密裡に、かつ非公式に事件発生当時の捜査報告書等多数を含む「昭和21年重要犯罪捜査報告綴」などと題する資料とその一部の写しの提出を受け、その写しを保管し、これを検討、合議し、これに基づいて裁判所が請求人尋問を行ったうえで、証拠調べを終結しようとしたことが判明した。


このようなことは公正、公平であるべき裁判所に、あってはならないことであるので、弁護団では熟慮のうえ、裁判官忌避の申立をなした。


ところが今般、高松高等裁判所は、憲法の規定する適正手続、防禦権、弁護権の保障及び公平な裁判の保障について何ら積極的に判断しないまま、前記裁判所の行為は手続内の行為であって忌避理由に該当しない、かつ偏頗な裁判をする虞れの徴表とみることもできないとして、忌避申立を却下したのである。


このような決定は、国民の裁判に対する信頼を回復するどころか、一層不信の念を増幅させる以外の何ものでもない。


当連合会は、司法の一翼を担うものとして、このたびの事態を極めて深刻に受け止めており、高松高等裁判所ならびに検察庁に対し、司法の権威は国民の信頼にその基礎を置くものであること、その信頼はまず何よりも裁判が公正、公平であることから生まれてくるものであることをこの機会に今一度自戒するよう強く促すとともに、公平な裁判の保障などの確立と吉田勇氏の雪冤のため、今後とも一層の力を尽す決意である。


1991年(平成3年)12月10日


日本弁護士連合会
会長 中坊公平