「弁護人抜き裁判」特例法案に対する最高裁長官の発言に対する声明

現在「弁護人抜き裁判」特例法案は、国会において審議中であり、その成否をめぐり激しく争われている。憲法記念日を迎えるにあたって、右特例法案に関連した5月2日付岡原最高裁判所長官発言は、憲法をまもるべき司法部の最高責任者の立場を著しく逸脱したものであって、とうてい許すべからざるものである。


第一に、右発言は、国民の人権にかかわる重大な憲法問題を含む具体的法案について、三権分立の原則に反し、立法府に介入するもので越権も甚しく、また、あらかじめ司法部による合憲判断の保証を与え、違憲立法審査権を実質的に放棄したものである。


第二に、右発言は、最高裁判所が自ら強調してきた裁判所の「中立・公正らしさ」さえも放棄し、行政府との癒着をはしなくも露呈し、国民の司法に対する信頼をますます失わせるものである。


第三に、右発言は、弁護権の軽視の姿勢に貫かれ、人権擁護のための不可欠な制度的保障である弁護士自治に対し、不当な非難中傷に終始しているものである。


第四に、右発言は、現在系属中の具体的事件について、その最終審たる最高裁判所の長官が、被告人の有罪を断定したにひとしいものであり、自らの手で裁判の独立を侵害しているというべきである。しかも、これらの発言は、すべて正確な事実の認識に基づかないでなされた無責任なものであって、あらゆる意味で民主主義の基本原則を無視したものである。われわれは、最高裁判所長官のこの不当な発言に厳重に抗議し、直ちに撤回することを求める。


右、理事会の決議により声明する。


1978年(昭和53年)5月9日


日本弁護士連合会
会長 北尻得五郎


昭53・5・9記者発表