労働安全衛生法改正に関する談話

政府が今国会においてその成立を図っている労働安全衛生法改正案によれば、化学物質の有害性調査につき労働大臣から意見を求められた学識経験者の知見について、「調査の結果知り得た秘密を漏らした」場合および疫学調査に従事した者が「その実施に関して知り得た秘密を漏らした」場合に、いずれも懲役刑を含む刑事罰を以てのぞむこととし、いわゆる守秘義務の強化強制を企図している。


わが日弁連は次の理由によりこのような改正案には強く反対の態度を表明するものである。


第一に、このような罰則規定は労働安全衛生法の立法の精神に全く反するものであるばかりでなく、企業秘密を無定見に国家秘密に止場し、刑罰をもってこれを保護する結果となる。


この点は更に当会が国民有識者とともに強く反対している刑法改正案の企業秘密漏示罪を部分的に先取りするものである。


第二に、かかる学識経験者等による有害物質調査研究の成果について、刑事制裁の威嚇を以ってその発表公開を抑制することは科学公開の原則に反する刑罰万能主義であって同時に国民の健康被害につきその原因探究を困難にし、被害の事実を隠蔽し、ひろく国民の生命身体の安全を脅かすことに通ずる重大な人権問題といわなければならない。


わが日弁連は、労働者の安全と健康の確保こそが、本法においてすべての施策に優先することに思いをいたし、国民の基本的人権を国民とともに擁護する立場から、以上指摘した観点に立って、今次改正案の右刑罰規定に強く反対するものである。


1977年(昭和52年)5月17日


日本弁護士連合会
会長 宮田光秀