2020年度会務執行方針

はじめに

世界各国において高度情報化・国際化が進む中、我が国では経済の長期低迷、少子高齢化が進行し、度重なる大規模災害も相まって、社会全体の活力低下が懸念されています。


そのような中、新型コロナウイルス「COVID-19」の感染者が全国各地に拡大し、社会経済はもとより国民生活にも重大な影響を及ぼし、さらには市民の生命・身体にも関わり得る事態となりつつあります。この緊急事態に際し、私たちはこれまで蓄積してきた英知を結集し、全国の会員とともに一丸となって迅速かつ適切に対応していく必要があります。


今、政府や省庁の職員における業務の執行について法治主義を形骸化させかねない出来事が相次いでいます。公文書の取扱い、政府の主催する行事の運営、検察官の定年延長など様々な場面で問題となっており、私たちは、このような事態を深刻に受け止めて、法律家団体として適切にその役割を果たす必要があります。


また、立憲主義を否定するような動き、あるいは憲法の基本原理である国民主権、基本的人権の擁護、恒久平和主義を形骸化させかねない動きもあります。このような動きは最高規範としての憲法の存在価値そのものを揺るがしかねません。私たちは法律家団体として会内のコンセンサスを得ながら、適宜必要な措置を講ずる必要があります。


さらに、格差社会が拡大していく中で、私たちの崇高な使命である基本的人権の擁護と社会正義の実現のための活動は更に重要性を増しています。人権問題が複雑多様化の一途をたどっている中で、人権擁護活動を更に推進し、あらゆる人権が尊重される社会の実現を目指します。2020年4月に京都で開催が予定されていたarrow_blue_1.gif第14回国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)は延期となりましたが、死刑制度の廃止の実現に向けた活動、少年法改正(適用年齢を18歳未満に引き下げる方向での改正)に反対する活動にも引き続き取り組みます。


一方、私たち弁護士の崇高な使命である人権擁護活動を持続可能なものにするために、業務基盤の拡充と活動領域の拡大が喫緊の課題となっています。その実現に当たっては「権利擁護を業務としての取組に転換する」「その業務を持続可能なものにする」という視点も持ちながら総力を挙げて取り組む必要があります。


法の支配の確立のためには、司法基盤を整備し、より強固なものにすることが必要不可欠です。そのためには民事司法改革の実践がより重要な取組となります。政府も「民事司法制度改革推進に関する関係府省庁連絡会議」を開催し、2020年3月10日にその取りまとめを行いました。民事司法が市民により身近なものになっているか、そして、真に市民のものになっているかを十分検証しながらこれを推進します。民事裁判のIT化については2月からフェーズ1が実施されつつありますが、国民の裁判を受ける権利、地域司法の充実、非弁活動の防止等を十分考慮しながら対応していきたいと思います。


私たちの先人が苦難を克服して獲得した弁護士自治は、弁護士の活動の基盤となる制度的保障です。弁護士自治を堅持するため、不祥事対策は間断なく継続される必要があります。


弁護士自治の根幹である弁護士会の懲戒権の行使は、社会や市民からの信頼を失わないように厳正な手続で行わなければなりません。綱紀委員会、懲戒委員会及び綱紀審査会という独立委員会において、弁護士の不祥事事案には厳しく対応していく必要があります。


また、依頼者見舞金制度を適切に運用し、弁護士成年後見人信用保証制度の全国的導入を進めるなど、被害者の事後的救済に努めます。再発防止に向けて、会員の倫理意識の向上を図るとともに、会員の相談体制やメンタルケア体制も一層強化します。


男女共同参画の実現に向けた取組も加速させる必要があります。副会長に続いて理事のクオータ制の実現が決まりましたが、更に男女共同参画社会の実現に向けて必要な取組を積極的に進めていきます。  


弁護士過疎対策も重要です。これは法の支配をあまねく社会の隅々に浸透させるための活動であり、引き続き促進していかなければなりません。とりわけ、このような活動に従事するための人材を育成する拠点としての都市型公設事務所の支援を行っていく必要があります。  


法曹の魅力を発信して、法曹養成問題と法曹人口問題に取り組むことも司法基盤の確立という視点からも極めて重要な活動です。2015年度から2018年度までの法科大学院の集中改革期間が終了し、法曹コースや法科大学院在学中の司法試験受験制度の導入が決まりました。新しい制度が法曹養成のための重要な制度改革として機能するかどうかを十分見守り、必要に応じて意見を述べ、提言を行っていく必要があります。  


司法試験の合格者数は4年連続で1500人台となり、1500人規模への減員はほぼ実現したものと考えます。更なる減員について検証を速やかに実施します。  


被疑者・被告人の弁護を受ける権利の確立を中心とした刑事司法改革の実現に向けた活動を行います。弁護人立会権の確立、再審法制の整備のための活動も行います。その他、更生支援・再犯防止の取組も行います。  


次世代を担う若手支援策を実施することも重要です。


まず、いわゆる谷間世代の会員に対する国費による是正措置としては、一律給付の政策や修習期の新しい法曹の活動を支援する枠組みを設ける政策を求める活動を実施します。さらに、国内留学制度など谷間世代を含む修習期の新しい法曹のための支援策も検討する必要があります。


当連合会は小規模弁護士会への支援を実施してきましたが、これを引き続き行い、必要に応じて拡充します。


会長選挙のルールの見直しも必要です。立候補者の政策、意見、考え方をもう少し簡便に伝えられるようにしなければなりません。


その他、当連合会が果たすべき重要課題は山積しています。副会長15名そして事務総次長、職員が一丸となって全力を尽くす所存です。


第1 平和と人権 

1 憲法の基本理念・原理を守る

(1) 憲法改正問題の取組

日本国憲法は、第二次世界大戦の反省を踏まえ、立憲主義の理念の下、基本的人権の保障・国民主権・平和主義を基本原理として採用し、戦後の我が国の発展に大きく寄与し、国民は自由と平和を享受しました。


私たちは、法律の専門家団体として、立憲主義を堅持し、自由と平和を守り抜かなければなりません。


現在、自衛隊の合憲性を明確にするために憲法第9条に自衛隊を明記し、災害対策などを理由に緊急事態条項を新設するなど、憲法を改正しようとする動きがあります。


しかし、自衛隊を明記する改正案では、立憲主義及び恒久平和主義に反するおそれがあり、日本の国の在り方の基本を左右することになりかねません。緊急事態条項につきましてもそれを必要とする立法事実そのものがないばかりでなく、内閣及び内閣総理大臣の権限濫用を招く危険性を孕んでおります。以上の問題について、国民が熟慮できる機会が保障されなければなりません。


また、憲法改正手続法には最低投票率の定めがなく、少数の賛成により憲法が改正されることが懸念されること、資金力のある者による大量の有料広告放送により国民の慎重な判断が阻害される等の問題もあります。


私たちは、憲法改正の議論を行うに当たって立憲主義の大切さを国民や政府に丁寧に説明し、問題の所在を指摘していきたいと思います。


(2) 特定秘密保護法の抜本的見直しと運用状況の監視

特定秘密保護法については、国民の知る権利に重大な制約を加えるおそれがあることから、引き続き、その廃止を含めた抜本的な見直しに向けた取組を進めます。あわせて、同法が濫用的に適用されないよう、運用状況を監視します。


(3) いわゆる共謀罪法の廃止

いわゆる共謀罪法は、市民の人権や自由を侵害するおそれが強いものであり、引き続き、その廃止へ向けた取組を行っていくとともに、本法律が恣意的に運用されることがないように厳しくその適用状況を注視し続けます。


 

2 人権擁護活動の充実

(1)高齢者・障がい者の権利

高齢者や障がい者が自分らしい生き方を選択できるような社会を実現するために、法律専門家として積極的に各種の制度構築と運用改善に努めます。


特に、成年後見制度については、本人による意思決定を支援し、身上に配慮した運用がなされるように改善に尽力するとともに、中核機関の設置・運営を支援するなど利用促進のための運用改善に努めます。あわせて、弁護士成年後見人による不祥事の根絶に向けた取組を継続するとともに、弁護士成年後見人信用保証制度の全国的導入を目指します。


また、行政を含む福祉関係者との連携を構築し、より身近な「ホームロイヤー制度」の普及に努めます。


そして、精神保健の分野において、精神科病院入院者の権利擁護を実現し、地域移行の支援に向けた取組を強化します。

 

(2) 被災者支援

東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨などにおける弁護士及び弁護士会による被災地支援活動を通じ、自然災害の発生時における弁護士の活動の有用性が広く知られるようになってきています。令和元年台風災害においても、自然災害債務整理ガイドラインによる生活再建や災害ADRの活用による紛争解決など、弁護士による被災者の支援を継続します。


被災者支援にあっては、被災者一人ひとりに生じた多様な事情を踏まえた支援の在り方を計画し、実践する「災害ケースマネジメント」の観点に立脚することが有益であり、全国市長会との連携協定などを活用しながら、行政や福祉機関と連携した支援体制を確立することに努めます。

 

(3) 公害・環境問題への取組

現在及び将来の世代が等しく自然環境の恵沢を享受し、健康で文化的な生活を確保できるようにするため、公害・環境破壊の根絶を目指すとともに、環境権及び自然享有権が確立された持続可能な社会の実現に向けて取り組みます。また、国に対しオーフス条約への加入を働きかけるとともに、同条約にうたわれている、市民が権利として国や地方自治体の意思決定に参画し、かつ環境保全のための司法手続にアクセスできる制度の実現を目指します。さらに、海洋プラスチック問題、気候変動問題、再生可能エネルギーの推進など、多様な環境問題に取り組みます。

 

(4) 子どもの権利、少年法の適用年齢引下げ反対の取組

全国の児童相談所における弁護士の配置等を推進し、児童虐待防止のための取組を強めていきます。いじめや体罰等を根絶するとともに、学校現場における困難な事象に対する法的助言を行き渡らせるために、子どもの最善の利益を重視した「スクールロイヤー制度」の普及を目指します。また、無戸籍の解消のための取組や子どもの手続代理人の制度の促進を継続し、新しい特別養子制度の安定した運用を図ります。


少年法の適用年齢については、少年の立ち直りや再犯防止の実効性の観点から判断されるべきであり、その引下げには引き続き反対し続けます。

 

(5) 犯罪被害者の権利

当連合会が日本司法支援センターに委託して実施している犯罪被害者法律 援助事業の国費化に向けた取組を一層強めます。また、全ての地方公共団体において犯罪被害者支援条例を制定するよう働きかけていきます。さらに、性犯罪・性暴力被害者のための病院拠点型ワンストップ支援センターが都道府県に最低1か所は設立されることを求めていきます。

 

(6) 消費者の権利

消費者問題は、近時ますます複雑化・広域化しています。知識・情報等の格差から構造的に弱い立場にある消費者の利益を守るため、被害防止・救済方策を進める必要があります。特に、我が国が直面している超高齢社会においては、高齢者の権利が不当に侵害されないよう注視します。


また、特定複合観光施設区域整備法の廃止に向けた活動を続けるとともに、ギャンブル依存症対策の推進にも取り組みます。

 

(7) 労働者の権利

迅速な労働紛争解決のために有益な役割を果たしている労働審判制度が より効果的に機能するための方策を検討し、労働審判制度に適した事案の解決手段として同制度を選択してもらうための取組を進めます。また、外国人も含め労働問題に悩む労働者の救済策の充実にも取り組みます。さらに、幅広い世代の各段階に応じたワークルール教育を推進する法律の制定を支援する諸活動を推進するとともに、現在も行われているワークルール教育の教材作成、教育の担い手の供給、学校関係者その他の教育実施主体との緊密な連携等を継続していきます。

 

(8)貧困問題への取組

生活保護基準の引下げや非正規従業員の増加、低賃金などによる貧困層の拡大等によって、社会的弱者へのしわ寄せが深刻です。


2019年2月に公表した「arrow_blue_1.gif生活保護法改正要綱案(改訂版)」に基づく法改正を求めるとともに、いわゆる水際作戦の防止など運用改善に取り組みます。また、2020年2月に公表した「arrow_blue_1.gif全国一律最低賃金制度の実施を求める意見書」に基づき最低賃金の迅速かつ大幅な引上げを求めていきます。さらに、同月に公表した「arrow_blue_1.gif公営住宅の連帯保証人・保証人に関する意見書」に基づき公営住宅入居における連帯保証人の撤廃を求めていきます。

 

(9) 性の平等と多様性を尊重する社会の実現

全ての個人が互いを尊重し、性別に関わりなく個性と能力を十分に発揮できるようにすることは、社会の多様性と活力を高める極めて重要な課題です。当連合会の政策・方針決定過程へ女性会員が参加する機会を拡大するための施策を前進させます。


また、性的指向や性自認による偏見や差別をなくすため、法律相談の充実や市民に対する啓発活動等を積極的に行います。

 

(10) 外国人の権利

arrow_blue_1.gif2018年の人権擁護大会及びarrow_blue_1.gif2019年の定期総会における宣言に従い、外国にルーツを持つ人々との共生社会の実現を目指します。具体的には、多文化共生総合相談窓口との連携による外国人住民に対する司法アクセスの拡充、新たな在留資格である特定技能等の在留資格による外国人労働者を受け入れる中小企業等の態勢支援などに関する取組を実施します。


また、外国人の人権救済についても取り組んでおります。2019年9月には、難民認定をしない処分に対する異議申立てが棄却された翌日に強制送還された事案につき、法務大臣及び出入国管理庁長官に対し、arrow_blue_1.gif警告を行い、同年11月、大村入国管理センターにおいて収容期限を示さないまま漫然と6か月を超えて収容している事案につき、出入国管理庁長官及び入国者収容所大村入国管理センター所長に対し、arrow_blue_1.gif勧告を行い、2020年2月、技能実習生の責めによらない事由により職種に齟齬が生じ、技能実習の継続が困難となり生活が困窮した事案につき、法務大臣、厚生労働大臣及び出入国管理庁長官に対し、arrow_blue_1.gif勧告を行いました。今後も引き続き外国人の人権救済に取り組みます。

 

(11) 法教育の充実

法の支配を浸透させ、自由で公正な社会を実現するためには、市民の一人ひとりが、憲法の根源的価値を理解するとともに、自らが社会を作っていく参加意欲を持つことが重要です。そのためには、早い年齢のうちからの基礎的な法教育が重要ですが、日本では法教育の実践が十分とは言えません。法教育は、これからの社会を担う市民を育てるための重要なインフラとして位置付けられるべきです。法教育に関する具体的な施策を国に対して求めていくとともに、若年層の法教育の充実のために、法教育の担い手の養成を目的とする教員等に向けたセミナーなどの実施、高校生模擬裁判選手権の企画運営や、会員による法教育授業の支援、関係機関との連携などを通じて、多くの人に広く法教育が浸透するよう、活動を続けていきます。

 

(12) 死刑制度廃止と刑罰制度改革の実現に向けた取組

死刑は国家が人の生命を奪う究極の人権侵害です。犯罪被害者・家族・遺族の方々の心情と置かれた実情に配慮しつつ、「死刑廃止及び関連する刑罰制度改革実現本部」を中心に、人の生命の尊さや誤判・えん罪の可能性などから、死刑制度が廃止されるべきであることを、引き続き市民やマスコミに訴えていきます。


当連合会が国に対して死刑制度の廃止と代替刑の検討を求めた2016年のarrow_blue_1.gif人権擁護大会宣言(福井宣言)を踏まえ、2019年10月の理事会において、「arrow_blue_1.gif死刑制度の廃止並びにこれに伴う代替刑の導入及び減刑手続制度の創設に関する基本方針」を取りまとめ、代替刑について、仮釈放の可能性のない終身刑から例外的に仮釈放の可能性のある無期刑への減刑を認める制度を提案し、併せて、その制度設計に当たって検討するべき論点として、「減刑手続制度の内容に関する主な検討事項(案)」を提示しました。今後は、この基本方針と検討事項案に沿って、会員勉強会や市民集会、シンポジウム等の開催、各地での議員要請活動などを幅広く展開し、様々な方面での働きかけを更に強めていきます。

 

(13) 個人通報制度の導入と国内人権機関の設置

日本政府はパリ原則に則った国内人権機関の設置と人権条約に基づく条約機関への個人通報制度の導入を国連から勧告されておりますが、いまだ応じておりません。


当連合会は、2019年10月に徳島で開催された人権擁護大会においてarrow_blue_1.gif個人通報制度の導入と国内人権機関の設置を求める決議を行い、2020年2月には衆議院第二議員会館にて院内集会を行いました。この集会には与党も含め国会議員が本人出席11名、代理出席が18名集まり、関心の高さがうかがわれました。引き続き、与野党、法務省、外務省に積極的に働きかけ、これらの制度実現に向けて邁進する所存です。

 

3 新型コロナウイルス「COVID-19」への対応

新型コロナウイルス「COVID-19」の感染者が全国各地に拡大し、社会経済はもとより国民生活にも重大な影響を及ぼしています。さらには、市民の生命・身体にも関わり得る事態となりつつあり、人権問題が生じることも懸念されます。


イベントや旅行のキャンセル等をめぐるトラブル、混乱に乗じた生活必需品や感染症対策を標榜する商品等の不適切な販売への対応、中小企業や小規模事業者の営業自粛や売上減少に伴う資金繰りへの影響や補償に関する問題、下請事業者や取引先等への不適切なリスク転嫁の問題、非正規労働者の雇止めや休業手当の支給を始めとする各種労働問題など、様々な法的問題について必要な情報提供を行うとともに、各弁護士会と連携して法律相談事業を展開し、迅速かつ適切に対応していきます。また、関連して生じ得るDVや虐待、差別その他の人権問題にも注視し、迅速かつ適切な対応ができるように体制を整備していきます。


第2 弁護士の活動領域の拡大

1 権利擁護活動の持続可能な業務への転換(国・自治体・日本司法支援センターとの連携)

弁護士による権利擁護活動を持続可能なものとするためには、財政的裏付けの下、権利擁護活動をボランティア的な活動から業務としての取組へと転換していく必要があります。そのためには、公益的業務について、国や自治体による活動との連携を強化し、適切な予算措置を求める取組を推進します。


国や地方公共団体における弁護士任用の促進、公金債権の管理・回収や包括外部監査人の就任促進、条例制定支援等、行政との連携の取組を一層推進します。また、子ども、高齢者・障がい者、生活困窮者等の福祉分野における法的支援を継続的・安定的に行うことができるよう事業化を推進し、弁護士による持続可能な権利擁護活動ができる取組を進めます。


また、司法アクセスの確保のためには、日本司法支援センターにおける民事法律扶助は重要な役割を担っています。そのため、その立替基準が業務量に見合った適正なものとなっているかどうかについて検証を進めるとともに、DV・離婚事案などの困難案件加算や償還免除の活用・拡大等に取り組みます。


さらに、当連合会が日本司法支援センターに委託している法律援助事業について、日本司法支援センターの本来事業とすることにより国費・公費化を目指します。

 

2 弁護士費用保険の拡充

市民の司法アクセスを弁護士費用の面から改善する弁護士費用保険については、従来の交通事故民事紛争についての弁護士費用を対象とする保険に加え、交通事故刑事事件の弁護士費用を対象とする保険や中小企業・個人事業者向けの弁護士費用保険も発売され、今後も様々な保険商品の開発が予想されます。


こうした新しい分野の保険商品に関して多様な紛争に即した弁護士を紹介するため、候補者名簿と研修の更なる充実を図るとともに、保険から支払われる弁護士費用等をめぐる紛争をADRによって適正・迅速に解決していくことによって、弁護士費用保険制度の信頼性を高めていきます。


他方で、各種保険商品における示談代行の実態について調査・検討を行い、保険会社等によって弁護士法第72条違反となる行為が行われないよう、保険会社等との協議を行います。等の福祉分野における法的支援を継続的・安定的に行うことができるよう事業化を推進し、弁護士による継続した権利擁護活動ができる取組を推進します。また、任期付公務員として働く弁護士を通じて、より一層連携を図るよう尽力します。

 

3 中小企業への法的支援

我が国の企業の99%以上は中小企業が占めており、中小企業は正に国と地域の経済の根幹を支えています。当連合会ではこれまで、中小企業者向け相談受付専用ダイヤル「arrow_blue_1.gifひまわりほっとダイヤル」の普及活動や、各地の中小企業団体、支援団体と弁護士会との交流などを行ってきましたが、更に中小企業の法的ニーズを掘り起こし、弁護士へのアクセスを容易にする仕組みづくりに取り組みます。近時大きな社会問題となっている中小企業の事業承継については、税理士会等の関連団体との連携を推進するほか、承継の阻害要因となっている経営者保証の問題についても、中小企業庁とも連携しながら中小企業経営者の支援に取り組みます。

 

4 国際展開

2019年7月、グローバル化する社会において求められる弁護士の活動を拡充するため、「arrow_blue_1.gif国際戦略グランドデザイン」を策定しました。中小企業の国際業務支援や在留邦人・在日外国人への法的支援はもとより、国際公務、国際交流への取組を進めるとともに、それに携わる弁護士の育成にも積極的に取り組みます。国際取引をめぐる裁判外紛争解決のための物的インフラとして、2020年3月、日本国際紛争解決センターの審問施設が東京に開設されました。人的インフラとしての、国際仲裁・調停で活躍できる弁護士の育成・支援の活動も進めていきます。

 

5 非弁行為への対処と業際問題への取組

弁護士法第72条が、厳格な資格要件と誠実適正な職務遂行のために必要な規律に服することが要求される弁護士に法律事務の独占を認めた趣旨に則り、同条の解釈適用に関する事例の収集と調査研究を踏まえた議論を更に深め、隣接士業の権限逸脱行為や無資格者による他人の法律事件への介入に対して厳正に対処します。隣接士業の権限拡大要求の動きに対しては、市民の権利擁護や利益に資するか否かという観点に基づき、毅然とした対応をとりつつ、同時に、真に市民の利益となるための協働も模索します。また、法的に競合している分野については、市民の権利擁護という視点で弁護士の優位性を訴えるべく取り組みます。

 

第3 法の支配の確立のための司法基盤の整備

1 民事司法改革の実践

2020年3月10日の「民事司法制度改革推進に関する関係府省庁連絡会議」において、民事裁判手続のIT化、知財司法の紛争解決機能強化、国際仲裁の活性化などに加え、在留外国人の司法アクセスの確保、中小企業の海外展開支援、国際法務で活躍できる人材の育成などの国際化対応といった民事司法制度の重要課題について広範にわたって今後の方向と具体的政策を示す取りまとめがなされました。


また、同取りまとめでは、現在、当連合会、最高裁、法務省による「民事司法の在り方に関する法曹三者連絡協議会」において検討が進められている情報・証拠収集制度の充実及び家事事件に関しても、引き続き検討することの必要性・重要性が指摘されています。本取りまとめやこれまで当連合会が公表してきた民事司法改革に関する意見・政策提言を踏まえ、市民のための民事司法の観点から、改革の進捗を検証していきます。また、本取りまとめで指摘された残された課題を鋭意検討し、会員の理解と協力を得ながら、より良い民事司法制度の構築を目指して取り組んでいきます。

 

2 弁護士過疎・偏在解消の取組、法律相談センターの活性化

国民一人ひとりの基本的人権が保障されるためには、全国津々浦々に法の支配が浸透していくことが必要です。当連合会や各弁護士会連合会、各弁護士会の努力により、地方裁判所の支部単位で弁護士が1人または0人の、いわゆる弁護士ゼロワン地域はおおむね解消されていますが、いまだに弁護士に対するアクセスが容易でない地域も多く存在しています。引き続き地域の実情に応じた弁護士過疎・偏在解消に向けた取組を推進します。


ひまわり基金法律事務所については、開設費・運営費等の経済的支援や支援委員会による人的支援を行っており、今後もこの支援を推進します。都市型公設事務所については、これまで過疎地に赴任する弁護士の養成に大きく寄与してきたところですが、その多くが財政上の問題を抱えています。2019年4月施行の改正規則により都市型公設事務所に対する養成支援が拡充されたところですが、赴任希望者が減少している現状も踏まえ、今後も安定的・継続的に赴任弁護士の人材確保と養成を行うため、赴任弁護士のキャリアパスも視野に入れた更なる施策を検討し、実施します。


近年、弁護士会の法律相談センターにおける法律相談件数が減少しています。いわゆる箱モノ型センターから巡回型センターへの転換・拡充も視野に入れつつ、法律相談センター全体の運営や援助の在り方について検討を行い、各弁護士会と連携しながら法律相談の活性化に取り組みます。

 

3 司法アクセスの拡充

(1) 裁判所支部機能の拡充と司法予算

司法予算は、国家予算の0.3%程度で、国家予算の伸びに比べて伸び率が低い傾向にあります。また、2010年から2019年の10年間で弁護士は約1万2000人増加(約1.4倍)となったのに対し、裁判官はむしろ減少しています(弁護士白書2019年版)。市民にとって身近で利用しやすく、頼りがいのある民事司法を実現するためには、司法予算を充実させ、裁判所の人的・物的基盤を整備することが重要と考えます。とりわけ市民の司法アクセス改善のためには、裁判所支部機能の拡充が求められます。日弁連は、引き続き、非常駐支部の常駐化、開廷日の拡大、合議事件取扱支部拡大、家庭裁判所出張所の増設・運用改善、労働審判実施支部の増加などの課題に取り組んでいきます。


(2) 民事法律扶助の拡充と適切な運用

2018年1月に施行された改正総合法律支援法に基づき、日本司法支援センターが行っている認知機能が十分でない高齢者・障がい者等やDV・ストーカー・児童虐待の被害者に対する法律相談事業について、利用者にとって利用しやすい制度となるよう、適正な運用を目指します。


(3) スタッフ弁護士の人材確保と支援

日本司法支援センターによる法律事務の提供は、一般契約弁護士(ジュディケア弁護士)が担うことを基本としつつ、常勤弁護士(スタッフ弁護士)がこれを補完することによって、全体として様々な活動を担うことが期待され、司法アクセスの拡充に大きく寄与しています。このような常勤弁護士(スタッフ弁護士)の重要性に鑑み、スタッフ弁護士の人材確保、養成及び支援に努めます。


第4 法曹養成問題と法曹人口問題への取組

1 法曹養成問題への取組

法曹志望者が減少傾向にある中、法曹の魅力を高め、これを的確に発信していく必要があります。法学部に法曹コースを設置し、法科大学院との連携を強化して、法科大学院在学中の司法試験受験を認める改革が行われたところですが、新しい制度が適切に運用されて法曹を志す若者が増加するよう十分見守り、必要に応じて意見を述べ、提言を行っていきます。

 

2 法曹人口問題への取組

法曹人口問題については、当連合会が従来から求めてきた司法試験合格者1500人への減員がほぼ達成されたと言える状況にあります。この傾向が継続するのかを注視しながら、引き続き継続的なデータ収集を行い、法科大学院改革に伴う志望者の増減、社会における法的需要の変化、さらには法曹の質の確保の観点を踏まえて、更なる減員について検証を速やかに実施します。検証のための組織を設置し、一定期間内に今後の方針について取りまとめをします。

 

第5 刑事司法制度の改革

1 弁護人立会権の確立

取調べにおいて、個人の尊厳を守り、供述の強要等によるえん罪を防止するためには、憲法第38条の黙秘権の実質的な保障、すなわち、捜査機関の圧力に屈することなく、自由に黙秘権を行使できる状況を確保することが必要です。そのためには、弁護人立会権の確立が不可欠であるところ、2019年10月に徳島で行われた人権擁護大会では、「arrow_blue_1.gif弁護人の援助を受ける権利の確立を求める宣言-取調べへの立会いが刑事司法を変える」が採択されました。弁護人立会権の確立に向けて、具体的な取組を進めていきます。


2 取調べの全件・全過程の録音・録画の実現

改正刑事訴訟法により取調べの全過程の録音・録画が開始されましたが、その対象事件は裁判員裁判対象事件及び検察官独自捜査事件に限定されています。録音・録画が取調べの適正確保のために必要であることは、事件の軽重、種類、逮捕・勾留の有無によって変わることはありません。


当連合会は、改正刑事訴訟法の附則に定める施行後3年経過後の見直しの際に録音・録画の対象・範囲を全事件・全過程に拡げるべく、全ての弁護士及び弁護士会とともに引き続き全力で取り組んでいきます。


3 全面的証拠開示制度の実現

改正刑事訴訟法に基づき、2016年12月から類型証拠開示の対象の拡大及び証拠の一覧表交付制度が施行されました。しかし、えん罪を生まない刑事司法制度を確立するためには、全面的証拠開示の実現が不可欠であり、全面的証拠開示の立法事実となるべき事例の収集分析に取り組んでいきます。


4 人質司法を打破するために

国際的関心の的となっている日本の人質司法は、刑事司法改革に残された課題の一つです。裁判官が、被疑者又は被告人の身体の拘束に係る判断に当たり、否認又は黙秘をしていることを理由に不当な扱いをしていないかなど、人質司法から脱却するための立法事実の集積に取り組んでいきます。


5 いわゆる再審法の改正

現行の再審法(刑事訴訟法第4編再審)の規定はわずか19条しか存在せず、裁判所の裁量に委ねられていることから、判断の公正さや適正さが制度的に担保されておりません。そのため、再審請求手続における証拠開示が裁判所によって格差が生じ、再審決定に対し検察官の不服申立が認められていることによりえん罪被害者の救済が長期化しております。


2019年10月の人権擁護大会では、①再審請求手続における全面的な証拠開示の制度化、②再審開始決定に対する検察官による不服申立て禁止を含む再審法の改正を速やかに行うように求めるarrow_blue_1.gif決議を採択しました。当連合会は、再審法改正に向けて粘り強く取り組みます。

 

6 逮捕段階の公的弁護制度の実現

2018年6月に勾留された全ての被疑者を対象とする国選弁護制度が実現し、全国で特段の支障なく運用されています。今後は、逮捕段階における公的弁護制度の実現を目指して、各弁護士会における対応態勢や課題について検討していきます。


7 全面的な国選付添人制度の実現

国選付添人制度の運用状況については、対象事件数に占める国選付添人の選任件数(選任率)について改善傾向が見られるところ、引き続き、最高裁判所との定期的な協議を通じて注視していきます。


被疑者国選弁護制度の対象範囲が勾留された全ての被疑者に拡大された結果、被疑者国選弁護人が選任された少年の被疑事件について家庭裁判所送致後に国選付添人を選任することができないという事態が生じています。国選付添人制度については、身体拘束事件全件への対象拡大の実現を目指します。


8 更生支援・再犯防止の取組

罪を犯した者等が人間性を回復し円滑な社会復帰を実現するためには、未決拘禁段階に加え、社会復帰後も途切れることなく必要な指導と支援がなされることが重要です。再犯防止推進計画の策定や、更生支援計画書の活用に向けた取組を、国、自治体、福祉専門職等と協力しながら進めていきます。


第6 若手弁護士への支援

1 谷間世代への支援

2018年5月の定期総会において、arrow_blue_1.gif安心して修習に専念するための環境整備を更に進め、いわゆる谷間世代に対する施策を早期に実現することに力を尽くす決議を行っています。当該決議に従い、司法修習生の修習期間中に給与及び修習給付金の支給を受けられなかった、いわゆる谷間世代の会員に対する給付金の制度を含む会内施策を着実に実施します。また、国費による是正措置としては、谷間世代に対する一律給付を求める政策や、修習期の新しい法曹の活動を支援するための枠組みを設ける政策を求める活動を積極的に進めていきます。


2 新たな若手支援策

当連合会の会員のうち若手会員の占める割合が高くなっております。当連合会は、若手支援策として登録5年目以内の弁護士が業務について幅広く電話で相談できる「弁護士業務支援ホットライン」、対象年齢を小学生以下に拡大した「育児期間中の会員に対するベビーシッター費用等の補助」を行い、修習生向けに就職相談会の開催、ひまわり求人求職ナビ等の各種広報媒体による求人情報の提供などを行っています。若手会員が新たな活動領域を開拓する体制を支援します。いわゆるブラック事務所問題については、情報を収集・分析し、改善に向けて取り組みます。


第7 男女共同参画の推進

当連合会では、2018年度からの5か年計画である「arrow_blue_1.gif第三次日本弁護士連合会男女共同参画推進基本計画」を実施しています。副会長に占める女性会員の割合を高めるための女性副会長クオータ制が2018年度から実施されていますが、2019年の臨時総会で新たに女性理事クオータ制の導入が決定され、2021年度に選任される理事から制度が実施されます。今後も、当連合会の政策・方針決定過程への女性会員の参画拡大を目指し、会員の意識向上や啓発を含む環境整備を行い、各委員会や弁護士会での取組・進捗状況をフォローアップするなど、積極的に施策を推進します。


女性弁護士が業務面でなお一層活躍できる環境づくりが必要です。子育て世代のテレワークなどの法律事務所における働き方改革、委員会活動へのウェブ会議による参加など、育児期間中の会費免除や保育費用の補助のほか、更に進展した取組が必要です。会員や事務職員等に対するセクシャルハラスメントについては、事案に応じて調査委員会を設置して助言や勧告などを行っていますが、会員や事務職員への更なる周知が必要です。


さらに、内閣府男女共同参画局と連携の上、女性社外役員候補者名簿提供事業の利用を促進し、企業に対しても働きかけるなど、社会のダイバーシティを推進するために、弁護士会内と社会の両面から男女間格差を解消する取組を進めます。


第8 弁護士自治を堅持する方策等

1 不祥事対策

弁護士自治を堅持するためには、私たち自身が間断なく不祥事対策に取り組み、市民からの信頼をつなぎとめなければなりません。預り金等の適正管理を更に進めるとともに、arrow_blue_1.gif依頼者見舞金制度が適切に運用されるよう努めます。


倫理研修を更に充実したものとし、会員の倫理意識の向上に努めます。


また、弁護士会の市民窓口及び紛議調停の機能強化、懲戒制度の運用面での工夫(会請求や事前公表等)など、実務面の対策を推進するとともに、会員への支援策(メンタルヘルスカウンセリングや会員サポート窓口等)の充実を図ります。


さらに、弁護士成年後見人信用保証制度の全国的導入により、弁護士不祥事によって被害者となった成年被後見人等の事後的救済を図ることができるように整備します。

 

2 FATF相互審査への対応

2019年にFATF(金融活動作業部会)による第4次相互審査が行われました。2020年の夏頃公表される審査結果に対し、政府と連携しながら、弁護士自治の下、当連合会としての対応を進めていきます。


なお、会員に対しては、弁護士自治堅持のため、依頼者の本人特定事項の確認及び記録保存等に関する規程・規則に定めた義務(本人特定事項の確認・記録の保存・年次報告書の提出)の履行の徹底を引き続き要請していきます。また、弁護士会に対しては、弁護士会が会員に対する監督者としての役割を実効的に果たすための支援を行っていきます。

 

3 会員の会務参加の促進

効率的な会議運営や会員の移動時間の負担を軽減するテレビ会議システムの拡充など、会務合理化のための施策を推進し、一人でも多くの会員が会務に参加できる体制を築きます。

 

4 小規模弁護士会への支援

弁護士自治を堅持するためには、それを現場で担っている弁護士会がしっかりと活動できるように、基盤を整える必要があります。特に、小規模弁護士会では少ない会員数で会務全般を支えなくてはならず、負担感が増大していると言われています。小規模弁護士会に対しては、現在実施している財政的支援も含めて、支援の在り方を更に考えていきます。

 

5 会財政の見直し

重要な施策を行うために必要な支出は大胆に行うべき反面、無駄な支出がないかを厳しく見ていく必要があります。不要不急なイベントの見直しや委員会の統廃合等により、適正な会財政を目指します。

 

6 会長選挙ルールの見直し

現在の会長選挙規程では、立候補に当たって、立候補の届出とともに、費用として300万円を納付しなければならず、一定の得票数を獲得したとしても返金されません。様々なバックグラウンドを持った会員が立候補できるよう費用の低額化や公職選挙法と同様に供託とすることを検討すべきです。また、立候補者が、容易かつ効果的な方法で自らの政策を多くの会員に対してより確実に訴えることができるよう、選挙公報や公聴会の在り方等についても見直しを検討する必要があると考えます。

 

7 広報の充実

「日本弁護士連合会広報中長期戦略」(2018年2月策定)に基づき実施しているイメージアップ広報、弁護士の仕事を市民や企業に知ってもらう広報、会員の利益に資する広報に引き続き取り組みます。これに加え、法曹の魅力を発信するための効果的な広報にも力を入れます。また、市民や企業が必要とする情報が「伝わる」広報のために、情報の受け手である市民や企業のニーズに配慮したコンテンツ及び媒体を活用していきます。さらに、当連合会が主張する施策の実現に資する活動として、記者会見やプレスリリース・プレスセミナーなどのマスメディアに対する働きかけについても、引き続き積極的に取り組みます。


他方で、これまで実施された広報の成果を検証し、より効果的・効率的な広報活動を推進します。