配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律の改正を求める意見書

2020年10月20日
日本弁護士連合会

 

本意見書について

当連合会は、2020年10月20日付けで「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律の改正を求める意見書」をとりまとめ、10月27日付けで内閣総理大臣、 内閣府特命担当大臣(男女共同参画)及び女性に対する暴力に関する専門調査会会長宛てに提出しました。


本意見書の趣旨

当連合会は、ドメスティック・バイオレンス(以下「DV」という。)の被害者の保護及び支援の実効性を高めるため、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律 (平成十三年法律第三十一号) (以下「DV防止法」という。)の改正を求め、以下の事項を提言する。


1 DV防止法に法の目的を定める条文を新設し、次の事項を明記すること。


(1) DVが社会における性差別に由来する力の格差の下で生じるという構造的な問題であること。


(2) 何人も婚姻・家族との生活において、暴力の恐怖にさらされることなく安全で平穏に生きる権利、その権利が侵害された場合の被害から回復する権利を有すること、及び被害者の保護や支援に際しては、被害者の意思が尊重されるべきこと。


(3) 国及び地方自治体が、DVの防止、被害者の保護及び支援のために講じる措置は、上記被害者の権利に対応する責務であること。


2 DV防止法1条1項の「これ(身体に対する暴力)に準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」の類型を具体的に例示し、心理的(精神的)暴力、性的暴力のほか、経済的な暴力や、社会的隔離がこれに該当することを明示すること。


3 身体的暴力と非身体的暴力の区別的な扱いを廃し、DV防止法第三章の暴力を同法1条1項で定義する暴力と同義とすること。


4 DV防止法1条2項に規定する「被害者」を「配偶者からの暴力を受けた者及びその者と同居していた当該配偶者以外の者」と定義すること。


5 保護命令制度(DV防止法10条)に関し、次のように改正すること。


(1) 保護命令の申立権者を同法1条1項の暴力を受けた者に拡大すること。


(2) 保護命令の発令要件中、同法10条1項本文が規定する「身体に対する暴力」により、「その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいとき」との文言を、「暴力」により、「その生命又は身体に危害を受けるおそれが大きいとき」と修正すること。


(3) 現行の退去命令制度とは別に、被害者が従前の住居での生活を保持できる制度を別途構築すること。


(4) 保護命令(接近禁止命令)の発令期間を、ストーカー行為等の規制等に関する法律(以下「ストーカー規制法」という。)の禁止命令(同法5条)と同一の期間(1年)とし、期間の延長の制度を設けること。


(5) 多様な被害の実情に応じ、新たな種類の保護命令の創設などを検討すること。


(6) 保護命令違反に対する罰則をストーカー規制法における禁止命令違反の罰則と同一(2年以下の懲役又は200万円以下の罰金)とすること。


6 国及び地方自治体による被害者への保護及び支援に関し、DV防止法に次の規定を設けること。


(1) 一時保護については、婦人相談所の措置という枠組みにとらわれず、被害者の意思を尊重するとともに、市町村や民間の支援団体の判断で柔軟に保護できるように明記すること。


(2) 被害者の自立支援が国の責務であることを更に具体化し、被害者の支援についての地域間格差を是正するため、国が、地方自治体における支援コーディネーター(婦人相談員)の配置基準や研修制度、待遇等を含め、支援の最低基準を定め、そのための財政的措置を保障する義務を明記すること。


7 同性間におけるDVにもDV防止法の規定が準用されるように、同法28条の2に規定する「生活の本拠を共にする交際をする関係にある相手」の後に「(暴力を受けた者と相手の性別が同一の場合も含む。)」との文言を設けること。


8 義務教育課程及び高等学校等において、DV防止教育を行い、授業時間が必ず確保されるようカリキュラムが組まれるべきことをDV防止法中に明記すること。



(※本文はPDFファイルをご覧ください)