死刑執行の停止について(要請)

2005年10月28日


 

法務大臣 南野 知惠子 殿


日本弁護士連合会
会長 梶谷 剛


死刑執行の停止について(要請)


第1 要請の趣旨


死刑確定者77名(2005年10月28日現在)に対し,死刑を執行されないよう要請する。


第2 要請の理由


(1) わが国では,4つの死刑確定事件(免田・財田川・松山・島田各事件)について再審無罪判決が確定し,死刑判決にも誤判が存在したことが明らかとなっているが,本年4月5日,名張毒ぶどう酒事件の再審開始決定がなされ,法的に死刑の執行が停止されるに至っている。

しかしながら,このような誤判を生じるに至った制度上,運用上の問題点について,抜本的な改善は図られておらず,誤判の危険性が不可避なままである。

また,死刑と無期の量刑につき,裁判所によって判断の分かれる事例が相次いで出され,死刑についての明確な基準が存在しないことも明らかとなっている。

更に,死刑確定者は,国際人権(自由権)規約,国連決議に違反した違法状態におかれており,過酷な面会・通信の制限は死刑確定者の再審請求,恩赦出願をはじめとする権利行使の大きな妨げとなっており,これらの点での抜本的な改善が必要である。現在,未決拘禁制度等の新たな立法化をめぐり,法務省,警察庁と当連合会において三者協議を重ねているところであるが,この場で,死刑確定者処遇の問題についても,ようやく議論が始まったところである。


(2) 1989年に国連で国際人権(自由権)規約第二選択議定書(死刑廃止条約)が採択された後,1990年当時の死刑存置国96か国,死刑廃止国80か国に対し,2005年4月現在では,死刑存置国76か国,死刑廃止国120か国と,死刑廃止が国際的な潮流となっていることは明らかである。

他方,日本においては,世論調査によれば,死刑存置支持が相当多数をしめると報道されてはいるものの,死刑制度の問題点についての情報はまったくと言ってよいほど開示されておらず,世論調査の方法自体にも問題があり,必ずしも大多数の国民が将来にわたり永続的に死刑存置の意見であるとは言えない。本年7月7日には,大阪拘置所の死刑場に関する情報の公開を不開示とした決定は違法であるとして,国に決定取消しを求める訴訟が提起されている。


(3) このような国際的な潮流と国内的な状況の乖離を踏まえた上で,日本においても,死刑制度を存置するか廃止するかについて,早急に広範な国民的な議論を行う必要があり,当連合会は,死刑制度の存廃につき国民的議論を尽くし,また死刑制度に関する改善を行うまでの一定期間,死刑確定者に対する死刑の執行を停止する旨の時限立法(死刑執行停止法)の制定を提唱しているものである。


(4) また,当連合会は,死刑の執行のなされるつど,法務大臣に対し,死刑の執行を停止されるよう要望してきたが,誠に遺憾なことにこれまで死刑の執行が繰り返されてきた。

特にこれまでの死刑の執行は,国会閉会直後や国政選挙直前あるいは年末など,国会による議論を避け,国民の関心が他に向けられやすい日程で行われている。本年も当連合会が8月9日付で執行停止の要望を行ったにもかかわらず,国会閉会中の9月16日,1名に対する死刑執行がなされたのは,記憶に新しい。

よって今後も,特別国会閉会後,通常国会開会までの間に死刑の執行が行われる可能性があると考えられる。 このような状況を踏まえ,当連合会は,法務大臣に対し,死刑確定者77名(2005年10月28日現在)に死刑を執行されないよう強く要請するものである。


以 上