「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会審議の経過」に対する意見

2005年(平成17年)10月5日
日本弁護士連合会


 

当連合会は、「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会 審議の経過」(以下「本報告書」という。)のうち下記の項目について意見を表明する。



3.デジタル対応について
(3)技術的保護手段の規定の見直しについて (本報告書42頁)


【意見の趣旨】
アクセスコントロール回避行為に対し、著作権法上の規制を及ぼすべきではない。



【意見の理由】
著作権法上、著作物にアクセスする権利(著作物を視聴等する権利)は認められていない。また、そもそもアクセスをコントロールすることは、著作権法に馴染まない。
著作物を複製する権利は、著作権法上認められているから、著作物の複製を技術的に防ぐ手段(コピーコントロール)を「技術的保護手段」として、これを回避する行為に対して著作権法上の規制を及ぼすことは適切である。

しかしながら、著作権法上、権利として認められていない「著作物へのアクセス」を技術的に防ぐ手段(アクセスコントロール)まで「技術的保護手段」として、これを回避する行為(以下「当該回避行為」という。)に著作権法上の規制を及ぼすことは、著作権法の立法趣旨を逸脱するものであり、適切でない。

まして、当該回避行為を刑事罰の対象とすることを検討すべきとの本報告書の記載は、著作権法の議論としては不適切である。


5.司法救済について
いわゆる「間接侵害」規定の創設の必要性について (本報告書48頁)


【意見の趣旨】
著作権法に、いわゆる間接侵害規定を創設するとの方向性については賛成できるが、その要件については慎重な検討を要する。


【意見の理由】
著作権法においては差止請求権が第112条によって付与されているところ、同条項にいう「~侵害する者又は侵害するおそれがある者」の解釈につき最高裁判例ならびに下級審の判例が差止めを肯定する要件が規範的になりつつあり、かつまた教唆幇助類型による侵害行為に対する適用の可否という新たな問題を生じてきているため、こうした現代的問題に対応していく必要があることは理解する。

しかし、このような行為について、安易に差止めを認めるならば、本来自由であるべき文化的、経済的活動を過度に規制しかねない。特に、本報告書には、小委員会において「ネット上で著作権侵害を行う者にサービスを提供する者について、著作権侵害の教唆、幇助ではなく、「侵害している者」と考えるべき」との意見があったと記されているが、このような行為のすべてを差止対象とすることは、過度に広範な規制と言うべきである。

現在、この問題については現行著作権法第112条の解釈問題として下級審の判例が出されつつあり、学説もこれに応じて活発な議論を見せ始めたところである。現時点ではこれらの判例学説の集積と展開を見ながら、要件の設定を考えるという謙抑的な姿勢が求められるものと考える。

なお、本報告書には、いわゆる間接侵害に対する差止請求権の要件について、特許法第101条1・3号の要件を参照する旨の記述がある。しかしながら、もとより著作権法と特許法では権利の性質が異なり、かつ、侵害判断の手法にも差異がある。従って、著作権法上の間接侵害を検討する際には、権利や侵害行為の性質に即した独自の要件を検討すべきであることを付言する。

以 上