刑事司法改革の当面の目標 -裁判員制度実施までの実現をめざして-

2005年3月17日
日本弁護士連合会


本意見書について

はじめに

1.「目標」提示の必要性

今次改革で成立した刑事司法関連法は、刑事手続に関して、「戦後改革」以来、最大の変革をもたらすものである。特に重要な改革は、事実認定に市民が加わる裁判員制度の導入、証拠開示を含む公判前整理手続の新設、被疑者段階における国選弁護制度の創設である。これらは、刑事裁判の基本的枠組みに関わるものであるから、適正な運用を確保するには、個々の問題点の検討だけでなく、めざすべき刑事司法の目標を明らかにする必要がある。


また、被疑者・被告人の身体拘束問題など今次立法で積み残された課題も少なくなく、さらに、「取調べの可視化」など、裁判員制度の適正な運用のための必要性が浮き彫りになっている課題も多い。その意味で、今次立法は改革プロセスの一過程と位置づける必要があり、引き続き改革を進めていくためにも、現段階において当面の目標を提示することが必要である。


本「目標」は、(1)刑事司法改革、司法への国民参加の実現に取り組んできた日弁連において、成立した刑事司法関連法の評価と課題について確認するとともに、(2)改正刑事訴訟法及び裁判員制度のもとでのあるべき手続運用と、引き続き取り組まれるべき制度改革課題の内容について、広く会内外に示すことを目的するものである(注1)


2.本「目標」において提起する制度改革課題の性格-裁判員制度実施までに実現をめざすべき課題の提示

後述するように、日弁連は、これまでも刑事司法全般についての改革提言を明らかにしてきている。そのうち、被疑者国選弁護制度など実現された課題もあるが、多くの課題は達成されていない。例えば、検察官手持ち証拠の事前全面開示、伝聞例外規定の見直しなどは、今次改革でも実現を提起したが実現に至らなかったものである。


これら残された課題について引き続き取組みを継続すべきことは当然であるが、同時に、裁判員制度実施までにどうしても実現をめざすべき課題を明確にした集中的な取組みが求められている。


本提言は、後者の視点から、刑事司法改革の「当面の目標」を提示するものである(注2)


(注1)
改正刑事訴訟法及び裁判員制度のもので、被告人の防御権が保障された手続運用を実現する鍵は、いうまでもなく弁護実践にある。そして、この点については、改正刑事訴訟法のもとでの弁護実践(公判前整理手続での証拠開示の活用と「予定主張」明示への対応など)、裁判員裁判のものでの公判弁護技術などを中心に、日弁連において検討と普及の努力を開始しているところである。


(注2)
例えば、検察官手持ち証拠の開示については、今回の刑事訴訟法改正作業で議論の焦点の一つとなったが、日弁連が主張した「事前全面開示」は採用されず、防御準備にとって重要な一定類型の開示などを内容とする立法が実現したところであり、裁判員制度実施までの期間における目標としては、導入された証拠開示制度の運用によって十分な開示を実現する課題を掲げることが実践的立場というべきであろう。


これに対し、例えば、「取調べの可視化」や保釈制度改革は、審議会意見書で将来の検討課題の一つとされたため今次刑事訴訟法改正作業では具体的な議論の対象とされなかったものであって、現時点において、残された制度改革課題と強く押し出す必要があるものである。そして、このうち「取調べの可視化」は、取調べの適正確保という視点に加え、裁判員が理解し得る公判審理という視点からも、その必要性がさらに明確になっているものといえるし、また、保釈制度の改革は、改正刑事訴訟法がめざす集中審理(連日的開廷)を被告人の防御権を損わずに実施するための条件の一つとしても、改革の必要性を提起すべきものである。


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