規制改革・民間開放推進3か年計画「借家制度の抜本的見直し」に対する意見書

2004年9月10日
日本弁護士連合会


本意見書について

意見の要旨

第1 定期借家制度の見直しについて
  1. 既存借家契約について、定期借家契約への切替えを認めるべきではない。 定期借家制度が国民に浸透していない現状において、「契約自由」を強調して切替えを許せば、借家人と比して交渉力が優越する賃貸人、仲介業者が事実上、「合意」に名を借りて切替えを主導する事態を招きかねない。
    切替えによっても、既存借家が定期借家に横滑りするにすぎず、住宅の供給は増加しない。
  2. 定期借家契約締結の際の書面による説明義務を廃止すべきではない。 契約の更新がなく、期間の満了により賃貸借が終了するから、十分な説明がないまま契約締結を認めれば、居住の安定に重大な影響を与え、借家人に不測の損害を与えるおそれがある。
    宅地建物取引業者の重要事項説明義務は、書面による説明義務とは趣旨・目的が異なる。
    書面による説明の手間はわずかであり、事業者の多数も書面による説明義務を負担と考えておらず、かえって存続の必要性を認めており、入居者側もその要望が強い。
  3. 強行規定となっている借主からの解約権を廃止すべきではない。 契約後の事情変更により居住できなくなった借家人にも期間満了まで賃料を支払わせるのは、苛酷にすぎる。
    借主からの解約権の廃止は、社会経済法である借地借家法の本質に反し、同じく社会経済法である消費者契約法の趣旨・理念にも逆行する。
    借主からの解約権の廃止は、借家人に苛酷にすぎて定期借家契約の締結をためらわせ、かえって定期借家制度の普及を阻害する。

第2 正当事由制度の在り方の見直しについて
  1. 正当事由について、建物の使用目的、建替えや再開発等、付近の土地の利用状況の変化等を客観的な要件とすべきではない。 現行の正当事由制度の要件は旧借家法下における裁判例を踏まえて明確化されたものであり、社会的にも周知され、裁判実務上、適正な判断がなされてきているから、これを改めるべき必要性は存在しない。
    建物の使用目的、建替えや再開発等、付近の土地の利用状況の変化等は、個別具体的な検討を要するから、これらを独立の要件として追加すれば、正当事由の判断がこれらに引きずられて硬直化するおそれがある。
  2. 立退料を正当事由の判断における補充的要素に留め、かつ、算出すべき一律の基準を定めていない現行法の立場を維持すべきである。 基本的要素による当事者双方の建物の使用を必要とする事情をまず考慮して、それでも甲乙付けがたい場合における他の補充的要素として立退料を考慮するという現行法における立退料の位置づけは、借家人が建物を安定的、継続的に使用する法的地位の保護に合致する。
    立退料を正当事由の基本的要素に格上げすれば、経済的に優越する賃貸人の一方的な意向によって借家契約が解消される結果を招く。
    立退料は、個々の事案毎に個別具体的事情によって決まるものであり、これを算出すべき一律の基準を定めることは困難である上、かかる基準を定めると、かえって裁判所の柔軟な判断を拘束し、借家人の保護に反する。

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